その67,詠われる者
俺が眠っていた(正確にはアラクネに拿捕されていた)間、シェロちゃんが代わりに采配を振るい、街の風景は一変していた。
農場では牛やフェルニルが歩き回り、エルフ達はその世話をしたり、畑を耕していた。
川には水車が回り、宿舎にも無事水が引かれ、それを動力に小麦を挽く装置も備えられている。
街の入り口には小さいが駅も出来ていて、グルーンとの往来を容易にし、一層の賑わいを見せているように思えた。
サハギンの村にも水路が通っており、線路もまもなく敷かれるようだった。
手の空いたドワーフ達は街の周囲を取り囲む壁と関門を作っている。
問題は!!!金が尽きそうって事だ!!!
俺が眠っている間、ドワーフ達やエルフ達の食事代などで少しずつ目減りしてあっという間に!!
と言うわけで、俺がやるべき事はただ一つ。
ギルド依頼の消化だ。
以前ギルドで依頼書を引きちぎってきたやつ。
ランクB対象依頼の残りだ。
三つのうち一つはサハギンの水確保だったからな。アレはアイツらが納得した時に貰えればいい。
あと二つは…
50センチ級魔鉱石の採取クエスト。
多分これはダンジョンだろう。そんなところにシェロちゃん達を連れて行く訳にはいかないな。
ベルゼブブ討伐クエスト。
相手は悪魔王とも名高い(この世界ではどうかは知らん)ベルゼブブだ。
どちらも一人で向かうしかないな。
とはいえ、誰か居た方が心強い。ダンジョンに一人で向かう奴なんて今の御時世ゴブリンをスレイするとか言う奴くらいなもんだ。
ま、この街にゃそんな悪いゴブリンは居ないけどな。
まずは改めてギルドに向かおう。役に立ちそうなのがいるかもしれないし。
***
初めは重く感じていたそのドアも、今では軽く感じている。
事実そのドア自体は重いものでもあったが、その重さを強調させていたのは精神的なものだったな、と思い返す。
それこそ、関わることのなかったような強面の男たちにたじろいだもんだった。
今では俺がこのドアを抜けると、誰もが笑顔で迎えてくれる。
そんな中、見たことのない男が一人、カウンターでグラスを傾けている。
青く光る鎧に身を纏った、端正な顔立ちの男。
クソ、イケメンめ。こいつはパス。イケメンと並んで歩くなんてゴメンだぜ。
「よお、あんたがヤキトリだろ」
話しかけてくるんじゃねえよォォイケメンがぁ!
「ああ、俺がヤキトリだけど、何か用か?俺は無い、じゃあな」
「いやちょっと待ってくれよ、俺は用がある。俺の名前はバール。このあたりの畑や農場はあんたのものと聞いた」
声までイケメンかよ。ちくしょう。
「ああ、正確には『俺の』ではないよ。みんなで作り上げている最中だ。俺はその手伝いをして喜んでる変態だ、そんな変態なのでまた今度な、さよなら、ありがとう」
「いやいやちょっと待てって!俺はあんたの行動に感銘を受けたんだ。あんたの話を聞いて、東の国から飛んで来た。頼む、あんたの力になりたい!この通りだ!弟子にしてくれ!」
そう言うと青鎧のイケメンは椅子を降りその場で土下座する。
「待てよ、俺はあんたの力にはなれない。この街だからこそ、俺は頑張ろうと思えるんだ。まして、あんたは見ず知らずの他人だ、あんたのために何かをする義理はない」
俺がここまで何かをしようと思ったのは、そもそも、俺自身が便利になればと思っただけだしな。
無償でどうこうしようと言うわけでもない。どの手も俺が商売としてやってる。
儲けようとは思わないが、それでも働く人が潤うのがいい。ただそれだけだ。
「だから言ってるだろ、俺の名前はバール。東の国から来た。これで見知らぬ他人ではない」
土下座の姿勢のまま頭を上げる。
強引で自己中なイケメンだ。イライラするぜ。
真剣な眼差しのイケメン。容姿端麗とは如何に世渡りをする上で重要か、身に染みる。
「わかったわかった。わかったよ。で、俺に何を求めてるんだ、バール」
「あんたの話は海を渡り、東の俺の国まで轟いている。吟遊詩人はこう詠う」
『恐怖と親愛を司る神竜を仕えし者』
『 気高き狼の漆黒にその身を包み』
『森の守り人ドライアド、淫魔サキュバス、人々を統べる高貴なエルフを手篭めにす』
『その者ヤキトリ』
『一息吹きかければ鉄の馬を走らせ』
『一息吹きかければ水路を通す』
『その者ヤキトリ』
『そよ風のように舞い踊る』
「と言ったわけで、あんたは今や『詠われる者』だ、帝すらあんたと会いたがってるって話だ」
手篭めにす、ってひどい!どんなイメージなんだよ!!
久しぶりの更新です。
次回はキャラクタ紹介を挟もうと思います。
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