その66,創世記と無酸素登頂
暗闇だ。
しかし右手には温もりを感じる。
安らぎの金木犀の香りが俺を包んでいる。
まぶたが重く、まだ目を開く事が出来そうにない。
かろうじて、温もりの感触のおかげで、右手をピクリと動かす事ができた。
「ヤキトリ様!!ヤキトリ様!気がついたの?!」
シェロちゃんの声。
右手からその温もりが離れると、次の瞬間、みぞおちにドスンと何かが落ち、両肩を掴まれ、左右上下にシェイクされる。
あわわわわわわわわわわわわわわわわ
このままままままままままではははははは
ほほほほほんんんんんんとととうううににににに
ししししししんんんんんでででしししししままうううう
「ちょっやめっシェッ」
「ヤキトリ様!お帰り!!」
バフンっと頭を抱きしめられる。
目を開けると、そこには大きなお山が二つありました。
左にマシュマロちゃん、右にもマシュマロちゃん。
ゆっくりと右手を上げ、そのまま右のお山の頂上の、小高い丘へと。
やったー!無酸素登頂成功だー!!無酸素だ!助けて!
「もう!目が覚めたと思ったらヤキトリ様ったら!!」
シェロちゃんはパッと離れ、ベッドの端、足元に座り直した。
「ご主人、お帰りなのだ。良かったらその、我のも、構わんのだ」
「ヤキトリ様、シェロ様と同じように…いえ、わたくしもお目覚めの儀式を!」
「ヤキトリの旦那、目覚められないくらい夢の中で好きなようにして構わないのよ?」
各々好き勝手に言っているが、俺は何が何やらわからん。
みんなでおやつを食べて、1時間ほどアラクネと喋って、ベッドで起きた。それしかわからん。わからん。
体調も悪かったが、今はもう何ともないな。
しかしもう少し休んでいたい気持ちもある。
だが遊んでる時間はない。おっぱいドワーフのソラに任せっきりの工事や、サハギンの村までの水路も確認して来ないとな。
「すまんすまん、ちょっと疲れてたみたいだ。少し休んだらスッキリしたよ。ちょっと休んだら出掛けてくる」
ベッドから身を起こし足を降ろすと、シェロちゃんを左にして腰掛ける状態になった。
ふむん、少し痩せたような。
「いくら旦那でも、そんな急に激しくしたら壊れちゃう」
「そうですわ、ヤキトリ様の手配なさったことはシェロ様の手筈で大体済んでおります。しばしお休みくださいませ」
珍しく少し焦ったような顔で制してくるサキュバスとドライアド。
雪風も俺の右隣に座り、何も言わずに腕に抱きつく。
シェロちゃんも、左腕に抱きついてくる。
「ヤキトリ様、あの後、三か月も眠ったままで。もう目が覚めないかと思ったの。ヤキトリ様は人族だから、わたし達が、ずっと一緒にいてって無理なお願い、を、頼んだから、そのせいで、ヤキトリ様が、ごめんなさい…」
言葉と鼻を詰まらせながら、シェロちゃんが謝った。
シェロちゃんも雪風も悪くないな。悪いのはアラクネだ。何であのタイミングで連れてったんだよバカ。
しかも三か月だって??精神と時の部屋かよ。
「前にさ、ご飯食べてる時にシェロちゃんが話してくれた『創世記』だったか、あれ、話してくれる?」
「え?」
まだこの世界に来て間もない頃、シェロちゃんが色々と教えてくれたうちの一つ。
「良いけど…今…?」
シェロちゃんが不思議に思うのも仕方がない。
しかし、今なのだ。
「シェロ様に変わってわたくしから、詳しくお話しを致しましょうか、シェロ様のお記憶にあるのは多分わたくしがお話しした童話というか。歴史的なご説明ならわたくしが」
戸惑うシェロちゃんをみて、ドライアドが口を挟む。仕方ないことだが。
「いや、そうじゃない。シェロちゃんから、もう一度聞きたいんだ」
「うん……えと、昔々、世界には何もありませんでした。星も太陽も月も海も山も、何もありませんでした。神様は、気まぐれに一枚の布を織ってそこに山と海を作りました。やがて海には…」
「ハイッ!!そこ!!その神さまの名前!!俺も当然神様だと思ってたから何も言わずにいたんだけど、なんて言ったっけ」
「アラクネ様だよ。一枚の布から世界を作った、この世界の神さまなんだって」
話せと言われて話したのに、その話を遮られてキョトンとしているシェロちゃん。
「俺は三か月も寝ていたのか。三か月、あっちだと1時間くらいだったけど、そのアラクネに連れて行かれてたんだ、悪いのはアイツだからシェロちゃんは心配しなくていい」
「「「「え」」」」
「で、アラクネって俺の召使いで」
「「「「は」」」」
「特に寿命とか無いんだって俺」
「「「「へ」」」」
「と言うわけで、いろんな事端折るけど俺はあと千年くらいお世話になるからよろしくな」
「「「「アッハイ…って!エェェェェェッ!!」」」」
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