その65,君の一日は俺の二十八年分
「マナブ…マナブ…起きなさい」
久しぶりにその名前で呼ばれた気がするな。
しかし身体が重い。まるで煎餅布団が5枚くらい掛けられているような、そんな感覚…ってもしや…。
「まさかまた死んだの?」
そう、目の前にはすこやかロリータ様こと、アラクネ様が立っていた。
「マナブ、今はヤキトリでしたね。ここでお知らせです。貴方が人間の時に積む徳を、この世界でクリアしました。おめでとうございます!なので、本来生まれるべき世界に転生することが可能になります!なりました!転生しましょう!今すぐに!」
「随分と都合が良いな、俺はまだやらないといけない事があるんだよ」
「ま、まぁ、そんな事仰らずに…ねぇ、ほらー、あの、ヤキトリ様、お願いします〜!」
そう言いながら土下座しているアラクネ様。
随分と平身低頭だな、こりゃ何かあるぞ。
しかも『今すぐに!』って言ったよね?
「どうしてそんなに焦ってるんだよ。理由も分からずに、また誰にもさよならを言えないまま去れってのかよ!」
「怒らない?」
「『怒らない?』じゃねえよ、怒ってねえから理由を教えてくれ!」
「えーでもー。ヤキトリ様怒ってるじゃん」
「誰だよ!彼女かよ!」
「それは、ちょっと考えさせてください」
「なんでだよ!なんで俺が告白した事になってんだよ!」
とまあこんな感じで不毛なやりとりが小一時間続いたわけで。
「ヤキトリ様は、“こっち側”では重要な存在なんですよ。私は言わばお世話係、メイドなのです。貴方に仕える事が使命、喜びなのです」
アラクネ様、いやアラクネが言うにはこういう事だった。
俺はアラクネ側の世界では上位カーストの存在で、いくつかの世界を管理しているうちの一人。
数千年に一度、気分転換も兼ねて消費した徳の回復に下界に降りていたのだと。
その間、余計な危険が無いように操作を頼まれていたのにも関わらず、前髪のハネが気になって直している時にああなったんだって!!
ばかやろう!
「まぁいいや。俺はまだやる事あるから、後にしてくれる?」
「あは、あはは、お戯れを…」
正座したまま苦笑いのような愛想笑いのような、微妙な笑顔で返すアラクネ。
「いや、戯れてねえよ。あんたらの世界では一瞬のことだろ、きっと」
「そうは言っても、管理人のいないマンションがどうなるかわかります??ゴミは回収日以外に出してきたり可燃ゴミの袋に不燃物が入ってたり!エレベーターの中で喫煙したり酷いのは廊下にポイ捨てしたりするし!共有スペースはもちろん駐車場の掃除に雪投げ、ああ雪投げって除雪のことなんですけどそういうのも疎かになってしまうんですよ!」
「なんか嫌なことでもあったのかな」
「とにかくヤキトリ様、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様には⬛︎⬛︎⬛︎に早くお戻り頂かないといけませんのです!」
所々聞こえない、というより理解できない部分がある。
「だから戻らないって。そんなことより俺の寿命、後どのくらいあるんだ?」
「そんなものありませんよ、有るわけないじゃないですか。良いですか、2,000年後には異変が予測されていますので、この世界でまた5,000年も10,000年も遊んでいられたら困ります!」
「あ、1,000年くらいで帰るわ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想、レビューなど頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




