その64,全ては前髪のハネから
草原に3人で横になり、空を見上げていた。
身体が怠い。頭も痛い。最近は休む時間もあまりなかったからな。
「色んな事があったなー」
つい声に出してしまった。本当に色々な事があった。
この空は俺の居た世界のものとは違う。だがその空の色、雲、それらは変わらずに思い起こさせる。
ここに来たその日から、俺の人生は180度変わった。
あのシェロちゃんのおじいさんの家に送られた時からだ。
そもそもなんであそこだったんだろうな。
でも結果的に良かったよ、この街で。
それからお金が欲しくてワイバーン、雪風を討伐しに行ったんだ。
今はもう見慣れてしまったけど、初めて見た雪風は神々しくて、恐ろしかったな。
「でも、ヤキトリ様が来てくれて良かった。来たのがヤキトリ様で良かった。わたし、ずっと変わらない毎日を、このままずっと何百年も続けるのが当たり前だと思ってたもん」
右隣に居たシェロちゃんがすすす、と横になったまま近付いて、ぴったりとくっついてくる。
「わたしはこの先のこの街がどうなって行くのか、変わっていくのを見届けられるのが嬉しいの。だから、ヤキトリ様、ずっと側にいてね」
シェロちゃんはエルフだから長命だ。俺は人間だから、長くてもあと60年もすれば死ぬだろう。シェロちゃんの人生にとって、俺の存在は一瞬の出来事なのかもしれない。
それでも、シェロちゃんと共に生きていくのだ。
しかし、流石にこの引き合わせには腹が立って来た。あのすこやかロリータめ。
「我も共にあるのだ。我はお前、お前は我である。ご主人と生きることが我の使命であり運命でもあるのだ」
左に居た雪風も、シェロちゃんと同じようにくっついてきた。
雪風もワイバーン。シルフでドラゴンだからもれなく長命なのは確かだ。雪風とも、いつかは『さようなら』をしないといけないんだ。
人間のまま転移させたのは呪うぞ。
「ああ、俺はお前らと共にある。シェロちゃん、雪風、ドライアド達も楽しく過ごせる街にしていこう」
身を起こし、2人の頭を撫でてやる。
2人は少し悲しげで、それでいて笑顔で応える。
考えていたことは同じか。
しかし、それにしてもフラフラする。
起こした身を保っていられない。
だめだ、どうやら、やっぱ体調を崩したらしい。
視界が揺れ、ピントも合わない。
頭が締め付けられるようだ。
目の前が真っ暗になる。
「ヤキトリ様…?大丈夫?!ヤキトリ様!!」
風の音も川のせせらぎの音も聞こえず、ただシェロちゃんの声だけが聞こえる。
「すごい熱だよ!今すぐお家に帰ってお医者さん呼ばなきゃ!」
共にいようと約束したばっかりだぜ…。
ブラックアウト
***
シェロ、雪風、ドライアド、サキュバスの見守る中、ヤキトリはベットの上で診察を受けていた。
「うーん、原因ははっきりとしませんが、疲労と精神的なものによるものと思われます」
白衣を着た、老いたリザードマンが聴診器を置く。
「それでヤキトリ様はいつ頃目を覚ますのでしょうか」
シェロがヤキトリの横たわるベッドの端に座り、その手を握る。
しかしその手が握り返されない事で、シェロの不安は更に強くなる。
「さて、それは今のところ…。しかし身体が休まれば、じきに目覚めるでしょう」
打つ手なし、と言った感じで逃げるように部屋を出て行くリザードマン。
シェロとドライアドが深々と頭を下げ、ドアの閉まる音を聞き頭を上げた。
「まったく、あの医者は"ヤブ"なのだ!なんでご主人は起きないのだ!嫌なのだ!ご主人がいないならもうこんな世界どうなってもいいのだ!ばかー!ご主人がこのまま戻らなかったら全部燃やして壊し」
喚く雪風を平手打ちするシェロ。
「何をするのだ!シェロだってご主人が目を覚まさないと寂し」
再度平手打ちするシェロ。
「痛いのだ!ドライアドやサキュバスだって、ご主人がいない世」
再び平手打ちするシェロ。
「痛」
平手打ち。
「やめ」平手打ち。
「ごめ」平手打ち。
「助け」平手打ち。
「私だってヤキトリ様のこと心配なんだからぁぁぁぁぁ!」
連続で右左と平手打ち。いわゆる往復ビンタである。
「わかったのだ、ごめんなのだ。シェロも心配してるのに一人で騒いで悪かったのだ」
「シェロ様、アホさに拍車がかかっておりますわ…」
久しぶりのブラックアウトです。
熱と身体の痛みに苛まれながらの更新でした。
実は元気なんじゃないかと自分でも思いますが、案外山場以外は大丈夫そうです。
そんなわけで、感想、レビュー、評価、誤字指摘など頂けましたらインフルエンザも吹っ飛びます!
よろしくお願いします!
※改稿で分割しました。先に読まれた方には申し訳ない気持ちですが、その分、次話頑張りますので!!




