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その5,等価交換

 街はまるで中世をテーマにしたゲームの中のようだ。ナントカファンタジーとかソードナントカオンラインとかそれ系の。

 語彙力が追いつかない。ファンタジーゲームの世界としか表現が出来ないのは、今の俺のこの経験が想像を遥かに超えているからだ。


 肌の質感、動き、どれをとっても本物だ。そりゃそうだ本物だ。


 しかし多種多様な人々がいて、お店があって、つい足を止めてしまう。


 文字はなんて書いてあるか一見分からんのだけど読める。何かの肉の薄切りを串に刺して重ねた塊を回しながら焼いていく言うなればケバブのようなものを売る店だったり、一口サイズの肉や何かの生き物ぽい奴を刺した普通の串焼きを売る店だったり。

 鎧や剣などの装備品が並んでいる店は人族の客で賑わっている。


 ふと道の端に目をやると、地べたに布を広げた雑貨屋のような携行品売りがいた。

 小汚い布を頭から羽織ったその少女には誰1人として見向きもしていない。


 売り物は皮袋に吸い口のついた水筒のようなもの、アイスピックのような細長いピンのようなものの持ち手に、花や宝石で作った動物の飾りのついたもの。



「やあ、この商品はいくらなんだい?」


 声を掛けると、身につけている衣服もボロボロで、肌も少し汚れているのがわかった。


「こ、これは、水を持ち歩ける袋、です!!

こ、こ、こちらは、女性用の、ご、護身具で、

逆手に持って、刺して、つ、使い、ます!

か、飾りは、あの、うううッ、ウチの村で細工してて!

ど、どれでも1,000銅貨!です!」



 なるほど、水筒とアイスピックということで間違いはないな(アイスピックではない)。


 水筒は割としっかりしているが、柔らかく柔軟性があるものだ。昔テレビで見たことがある。動物の胃か何かに吸い口がしっかりとつけてあって長く使えるに違いない。

 それに護身具の飾りも素晴らしい。無骨なナイフや短剣とは違い、女性の手に馴染みやすい大きさ、そして手元に置いておきたくなる装飾。



「シェロちゃん、銅貨何枚で金貨一枚分なんだ?」

 シェロちゃんは首を傾げ、人差し指を顎に当てながら説明してくれた。10,000銅貨で金貨一枚。

 銅貨一枚で1円ということか。


しかしこれが1,000銅貨だって?とんでもない。もっと評価されるべきだ。


「この水袋、2つもらおう」


スッと近づき少女に耳打ちする。


「水袋は1つ金貨1枚でいい。護身具、これは20,000銅貨、つまり金貨2枚の価値があるんじゃないかな。安すぎると逆に不安になって売れないもんさ。

俺が保証するよ、今から水袋は1金貨、護身具は2金貨で売るんだ」


「えっ」

 少女は突然理解の追いつかない金額を言われ困った顔をして見つめる。

シェロちゃんも何が起きているのか分からず首を右に左に(かし)げている。

 俺は気にせず少女に耳打ちを続ける。


「それに、護身具。護身具として売るよりは、こうだ。見てて」


 俺は護身具のアイスピックを手に取る。


「シェロちゃん!お礼にこれを受け取ってくれ!

俺からのプレゼントだ!!こっちにおいで!とても似合うと思うよ!!」


 我ながら大根役者にも程があるとは思うが、続けよう。

 アホの連れと認識されつつ俺には痛くも痒くもない。少ししか。

 サラサラの髪を、クルクルっとまとめる。

 昔、美容院に商品の卸の仕事をやっていたのが功を奏した。


 俺は巻いた髪をアイスピックで、かんざしのように留める。


「シェロちゃんにはこの花の飾りがとても似合うよ!

これは、何かあった時、君を守ることもできるんだ!」


シェロちゃんは突然始まった小劇場に戸惑っていたが、鏡を見て髪を右左と確認すると、


「うわぁ!すごく可愛い!!ありがとう!!

こんなに綺麗な髪飾り、今までに見たことないよ!!透き通っていて、

本物のお花を宝石にしたみたい!!」

と本当に喜んでくれた。

 かんざしの文化はないようだ。


 周りの人間達も、あのシェロがどうした?と注目する。


 もちろん、当然ながら髪飾りにも注目される。


 エルフのカップルの男が走り寄ってきてアイスピック、ではなく『髪飾り』を手に取る。


「やあ、このトードの髪飾りはいくらなんだい?

僕の彼女は水の加護があってね。絶対に似合うと思うんだ!!

今すぐ売ってくれ!3金貨か!5金貨か!」


「あ、あ、あ、あの、2金貨、です!」


 そうだ、それでいい。価値のあるものは安過ぎれば売れないんだ。

 価値は必要な者が認めてくれるもんだ。


 俺は下手くそなウインクを少女に飛ばして、水筒2つ、髪飾り1つの代金の金貨4枚をその手に渡した。


「この水筒!!一家に1つあったら最高だ!その辺の布の水袋とは違って丈夫で長持ちしそうだ!!」


 俺の棒読みにまたも周囲の客が反応する。


「とりあえずその革の水袋を俺にもくれ!1金貨?!じゃあ2つだ!2つくれ!!」


 ドワーフが一番乗りの声を上げる。

 そのうち(われ)(われ)もと人だかりが出来た。


「ああいう価値のあるものは、きちんと評価されないとな」

 俺の言葉にシェロちゃんは微笑んで返す。


 マシュマロを腕に押しつけるように抱きついてくると、

「やっぱりヤキトリ様はわたしの運命の人なんだね!

こんな素敵なプレゼントしてくれた男の人はヤキトリ様が初めてだよ!」

とうっすらと涙を浮かべていた。218年、男たちは何をしていたんだよ。


 初めてのプレゼントがおっさん(この俺)からとはなんと不憫な。そりゃ涙も流れるぜ…。


「世の中には、

『生きていくのに必要なもの』と『そうでないもの』がある。

例えばパンや水なんかは生きるために必要なものだ。

しかし、髪飾りやお菓子なんかは必ずしも必要とは言えないだろう?

しかしそれを売って生業としている人がいるのならば、生活するにあたって必要なものにしてやれば良いんだ」


 シェロちゃんを優しく引き離し、頭を優しくポンポンと叩く。


「あの女の子にとっては、生活に必要なものなんだ。

そして、その技術も大変優れている。それを、全うな価値で交換する。

そうしないとこの髪飾りはいつか誰も作らなくなって、存在すらしなくなり、忘れられちゃったら勿体無いじゃん?」


 俺のいた世界では、必要じゃないもので溢れていた。


 じゃあなんでそれが求められるかといえば、生活が豊かになるからだ。

 簡単な話、例えばトランプがあったところで食事には有り付けないが、食事の後のコミニュケーションには役立つ。楽しい時間を過ごすことが出来る、または期待するために用意する。


 インターネットなんかもそうだな。

使っていない人には必ずしも必要ないが、有れば動画の視聴やゲーム、小説を読んだり、買い物だって出来る。



 俺はそういうものを売って生きてきた。

 これからもそうだろうか。


 そうならば、そうでありたい。

ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!

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異世界タクシー 〜行き先は異世界ですか?〜
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