その63,おやつタイム
ひと通り宿舎の中を見て確認し、甲冑のエルフ、コンパインは歩いて東の村に戻った。
雪風で送ると申し出たが、それだけは勘弁して欲しいと丁重に断られ、本当に歩いて戻っていったのだった。
もう1人、訛りの強いエルフのピーゴは、川から宿舎に水を引くためにどうするか悩んでいる。
問題は一人では作業も難しく、また時間もかかるということだ。その点についてはドワーフ達にも手伝って貰えればいいから安心しろと伝えた。
それを聞いてピーゴも笑顔で森へと向かう。材料の木の切り出しに向かったのだ。
ピーゴの案は『水車で汲み上げて水路に流す』というものだったが、俺も賛成した。
ピーゴの簡単な説明によるとこうだ。
水車が川の流れを動力に回ることで、その円の外側に付けられたバケツに水が入り、頂点にある水路に汲み上げる。
汲み上げられた水は水路を通って宿舎まで流れるということらしい。
人手と材料さえあれば、仕組み自体は簡単な物だと言うのでお任せしようと思う。
そんなエルフ2人を見送りつつ、そわそわしているシェロちゃんと雪風に面を向けると、2人ともよだれを零しながら期待の笑顔でハァハァ言っている。犬か。
「そろそろ休憩しよう。10時のおやつだ。東の村で貰ってきたお菓子を食べよう」
「「やったー!」のだー!」
向こうを出る前に、クッキーと『あるもの』を貰ってきていたのだ。東の村では良い匂いに塗れて、その割に長い時間我慢させてしまったな。申し訳ない。
街と農場を一望できる高台まで上がり、革袋から大きな薄い布を取り出す。レジャーシートみたいなもんだ。
それを草の茂った地面に敷き、3人で向き合って腰を下ろした。
その真ん中に、革袋の中からさらに紙袋を取り出して置くと、ふんわりと甘い香りが漂う。
バターと砂糖の香ばしい香りだ。
紙袋をパーティあけ(袋の背面の中心から開けて全体を開く開け方)をすると、甘い香りが更に強くなり、耳の下をじんわりと刺激して唾液がこれでもかと口の中に溢れ出してくる。
「すごい良い匂いだね!ヤキトリ様!!」
そう言いながら両手を広げ、目を瞑り、大きな深呼吸をする。その柔らかな胸いっぱいに甘い香りを蓄えるように。
「これはなんなのだ?このふかふかとして柔らかで、しっとりとしたものは」
雪風が手に取ったのはカップケーキ。エルフのリョーコが帰り際、お土産にと別でくれたものだ。
「それはカップケーキだよ。焼き菓子みたいなもんだ。こっちでは見たことがないな、そういえば」
「ヤキトリ様はまだ行ったことないから仕方ないかも。都に行けば、マドレーヌとか色んな種類のお菓子があるんだよ!」
俺もカップケーキを一つ手に取り、まじまじと見つめる。
シェロちゃんはアホなくせして色々なことを知っている。
まだまだこの世界では知らない事ばかりだ。
こっちに来て沢山の経験をしたとは思っていたが、まだ知らない地域もある。
これからこの街を発展させていくためにも、知識は必要だな…。
「…我はもう我慢出来ないのだ…」
ぼーっと考えていたら雪風がカップケーキを手にしたまま痙攣し始めている。そこまでかよ!!
シェロちゃんはというと、口の前までカップケーキを運び、その手を逆の手で震えながら押さえ、食べることを抑止していた。白目を剥いて。
「ヤキトリ…様…コロ…シテ…コロ……シテ…」
「わーわーわー!!待て待て!食べて良し!すまんかった!」
俺の合図で2人が正気を取り戻し、カップケーキに小さく一口齧り付く。
「ふわふわでまるで、雲を食べてるようなのだ!」
「今まで食べた中で一番ふわっふわだよ!!」
リョーコは『急ごしらえだから自信は無いけど』なんて言っていたが、この喜び様を見ればその美味さがわかるな。
俺も一口食べてみる。
しっとりとした生地は口の中の水分を含むとホロリと解けていき、鼻に抜けていくバターの香りが心地よい。
舌の上には甘さがほんのりと余韻を残していく。
雪風もシェロちゃんも、笑顔でカップケーキとクッキーをほおばっている。
「その味は甘くてクリーミーで、こんな素晴らしいカップケーキを食べられる私は、きっと特別な存在なのだと感じました!ヤキトリ様にあげるのはもちろんカップケーキ、なぜなら彼もまた特別な存在だからです!!」
シェロちゃんどこかで聞いたことあるセリフ!!
更新遅くなり申し訳ありません!
お待ちくださった方、初めての方もここまで読んでいただきありがとうございます!
拙い文章ではありますが、評価、感想、レビューなど頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




