感謝祭 終幕
ニコニコとしながら歩くシェロちゃん。
その唇にはピンクのリップが塗ってあり、ぷるんとして艶っぽい。
その視線に気づいたのか、
「ヤキトリ様〜、唇、気づいてくれるなんて流石だね!」
と、嬉々として俺の右腕に絡みつき、肘にシェロちゃんのマシュマロちゃんをツンツングニグニと押し付けてくる。
「ま、まあ、な。いやしかしそれにしても、今日は災難だったな」
流石にこうも露骨に押し付けられると照れるな。
嫌じゃないけど!嫌じゃ無いけどね!
「ううん、ヤキトリ様が居てくれたから、わたしは平気だよ」
いつになく潤んだ瞳。上目遣いでこちらを見てくる。
やめたまえ、可愛いじゃないか。
「そそそういえば!流通が良くなってきたからか、街にも珍しい食べ物が増えてきたよな!シェロちゃん食べたいものはないかい?一緒に食べよう!」
照れて耳が赤くなったのを自覚するほどに熱く感じ、それを誤魔化すように目を逸らす。
「そうだ〜!グルーンに新しく出来たお店、凄く人気みたいだよ!今日はグランウッドにも出て来てるんだって!行ってみよ〜よ〜!ね!」
グイグイとその歩くリズムに合わせてマシュマロちゃんを押し付けながら引っ張っていく。
街の男達の羨望を横目に、グランウッドの街中を進む。
今日は災難だった。いやシェロちゃんの方が大変だったな。
シェロちゃんには思い切り楽しんでもらおう。
「ほらヤキトリ様!ここだよ〜!グルーンの新しいお店、はんばが屋さん!!」
「ん?はんばが屋さん?」
出店の構えこそ木で組んだ簡素な作りだが、そこから香るのは、まさしく本物のハンバーガーの匂い。
香ばしい小麦のパンの香り。
まさかこの世界に来てハンバーガーを食べられる日が来るとは。
「おや、そりゃランクBの証だね、オレ初めて見たよ!どうだい旦那、奥さんと一緒にハンバーガー!大人気のファストフードだよ!」
店員のカエル男が声を掛ける。
「やだぁ〜、奥さんだって〜!分かる人には、分かっちゃうんだなぁ〜!」
シェロちゃんが耳も顔も真っ赤にしてくねくねモジモジ。
「あはは…いやそんなことより、ハンバーガー、どこで教えてもらった?」
『そんなこと』と言われてショックを受けているシェロちゃんだったが、俺の興味はハンバーガーだ。
ハンバーガーどころか、ハンバーグすらこの世界では見たことがない。
肉といえば干し肉がメインであり、生肉はギルドで買い取られたその日くらいしか手に入らない筈だ。
ひき肉は痛みやすい。冷蔵庫がないこの世界ならば尚更だ。
「おや、もしかしてアンタも…いや、野暮なことは聞かねえ。この料理は昔取った杵柄ってヤツさ。あとは企業秘密だね、とりあえず食ってってよ!」
メニューはひとつだけ。ハンバーガーのみ。
カエル男の店主が手早く作業している。
大きなフライパンの上には、シェロちゃんの手のひらよりも少し小さいくらい、ふっくらとしたハンバーグが焼かれていて、その表面には適度に焦げ目がつき脂が染み出している。
カエル男は手に取った丸いふかふかのパン2つを半分に切って紙の上に並べ、バターナイフで粘度のある赤い液体と黄色の液体を払うように乗せる。
千切りにされた、生の葉野菜もその上にこれでもかと乗せたら、焼きたてのハンバーグ、切ったもう片方のパンを置き、手早く紙を折ってハンバーガーを包んでひとつづつ渡してくれる。
「本当ならおひとつ金貨1枚なんだが…さっきの騒ぎも見させて貰ってたし、サービスするよ。あの女、オレの店にも来てね、全部平らげてから『不味い』だの『高い』だのへったくれだの言って金返せと騒ぎ立てたんだ。あんなのに絡まれちゃ商売上がったりだよ」
熱々のハンバーガーを手に『確かに金貨1枚は高い』と思ったが、これだけのハンバーガーを提供するコストは想像出来ないしな。
「ほえ〜!美味しそうだね〜ヤキトリ様!!」
早速包みを開けてその湯気を思い切り吸い込んでいるシェロちゃん。
「良いのか?これだけの材料を用意するだけでも大変だろ?」
「まぁまぁ、良いから良いから。まずは食ってみてよ。そのせっかくの材料だって食ってもらわにゃ浮かばれねえぜ」
良い顔してるがカエルなのは変わらん。
しかし美味そうだ、久しぶりのハンバーガーを頂こう。
シェロちゃんは既に無言で貪りついている。ひどい。
包まれた紙を開くと肉の香りを含んだ湯気が立ち昇り、急激に胃を刺激し、空腹に見舞われる。
肉の香りのトップノートの後、酸味のある爽やかなミドルノート、トマトとマスタードの香りだ。
そう、香水に等しい。香水にしたい。この香りを纏っていたい!
堪らず一口、大きな口を開けてかぶりつく。
口の中に広がる肉の味、しかし肉自体に塩コショウとガーリックが効いていて臭みもなく、ケチャップとマスタードがコーティングした脂は、それでいてしっかりと満足のいく肉らしさを感じさせる。
歯を入れると熱い肉汁が飛び出す程のジューシーさだが、千切りにされたキャベツのようなシャキシャキとした野菜がきちんと受け止めてくれる。
「凄〜く美味しいね!ヤキトリ様!!是非グランウッドでも売って欲しいね!!」
初めて食べたその味にひどく感動した模様のシェロちゃんは、その口の周りにケチャップやら肉の脂やらでベトベトのテカテカにして満面の笑みを浮かべている。
「ああ、美味いな。でもグルーンまでの魔導列車が開通すれば、またすぐに食べられるようになるさ。それまで頑張…」
不意にシェロちゃんが背伸びして軽く口づけをする。
「ありがとね、ヤキトリ様!ずっと一緒だよ!」
ギトギトだが、悪かないな。
「ああ。メリークリスマス、シェロちゃん。これからも宜しくな」
突貫で今日間に合わせましたが、いかがだったでしょうか?
もう少し可愛らしいところが出せたら良かったんですが、力不足です!
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想、レビューなど頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




