感謝祭その3
ボキッボキキッ
オーガのような顔つきの怒り狂った男。
帝国騎士団長ソーメイは、骨をぼきぼきと鳴らし、身体中から湯気を上げている。
「人の妻を捕まえておいて『飼い犬』扱いたぁ…いい度胸じゃねえか」
ゆらゆらとこちらに向かってくる。
やだー怖いー。
拳を上げ、俺に向かって振り下ろす。
しかし『ディフレクト』の効果で当たることはない。
「まぁ待てよ。俺が用のあるのはあんたじゃなくてこっちの女だ。俺の仲間を怪我させた」
「だとしても言い方ってもんがあるだろうがヨォォォ」
両手を組んで振り上げ、空を切りながら勢いよく叩きつけようとする。
『リテラシー』
ソーメイの攻撃を『読』む。
もちろん当たるわけも無いのだが、真下よりは右に少し『逸れ』る拳の槌を左にステップして避け、ソーメイの脇腹に横蹴りを食らわす。
軽く蹴りを入れたつもりだったが思ったより深く入ったようで『オグゥッ』と呻き声を上げ、腕を組んだ状態のまま倒れこんだ。
「ぢぐじょゔ…ただじゃおがねぇ…」
でしょうね。わかります。
だけどな、悪趣味だけどこんなのもどうだ。
恨むならその女を恨めよ。
『リテラシー』をソーメイに『エンチャント』
〈早く助けなさいよこの脳筋グズ!〉
女の声だ。もちろん思考の声。
「誰がグズだって?」
その声に気づいた女は身動きを封じられたまま、訂正する。
「違うの!私はあなたが助けてくれるのを待ってたの!信じてた!」
〈いいから早くそんなやつぶっ飛ばしてよ!あーんもうこんな時にジャン君ならすぐに助けてくれるのにッ!〉
口から出た言葉を追いかけるように思考が流れる。
「ジャンがどうしたって?!」
立ち上がろうとしていたソーメイの動きが止まり、女の方に視線が向く。
「ジャンがどうしたってんだ…まさかお前!」
〈なんでジャン君のこと知ってるの?まさか浮気バレてた?いつから?〉
「ジャン君って騎士団の男の子よね??あはは、どうしたの?今は関係無いでしょ?早く、あなた助けて!」
もはや救いようが無い。
「お前、よりによってジャンと…帝国民の不貞はどうなるか分かってるな?」
ちょっと待って、なんだかめんどくさいからあとはお二人でやってくださる?
「もういいや。シェロちゃんも良いか?」
「うん、ヤキトリ様が良いならわたしは良いよ〜。怪我も服もヤキトリ様が『なおし』てくれたから!」
シェロちゃんは擦りむいていた両膝をポンポンと軽く叩き、服を広げるようにくるっと回った。
「じゃ、そういう訳で、その女の処分はあんたに一任するよ」
シェロちゃんの元に戻り、カチュームを付けた頭を軽く撫でる。
「いつもと違う雰囲気だね。そのワンピースも髪飾りも似合ってるよ。唇もピンクでシェロちゃんの可愛らしさを際立たせてるよ」
夫婦喧嘩をしているクソどもに見せつけるように、シェロちゃんを褒め称える。
だが決して嘘じゃ無い。本当に似合ってる。
シェロちゃんの事だから、きっと「あーでもない」「こーでもない」と用意してたんだろう。
付けてきたことのないレースのカチュームも、その長い耳と金色の髪を違和感なく纏めている。
「ちょっと待ちなさいよ!この黒い霧みたいなのどうにかしなさいよ!」
女が喚いている。うるせえな。
「あんたがシェロちゃんにきちんと謝ったらそれを解いてやる。じゃなきゃそのままだ」
シェロちゃんを引き寄せ、その肩を抱く。
「アタシが何したってのよ!早くどうにかしなさいよ!」
〈あーもうあの時足なんか掛けなきゃ良かったわ!浮気もバレるし最悪!〉
膝を突いたまま女の方を向いていたソーメイがこちらに向き直して両手をつき、頭を地面に擦り付けた。
「ヤキトリ殿、申し訳ねえ…この通りだ!すまねえッ!このお詫びは必ず…ッ!」
「お詫びとかそういうのは良いよ、要らない。ただ、そいつを連れて帰るなりなんなり、早くどうにかしてくれ」
俺は闇の呪縛を解くことなく、シェロちゃんの手を握り、人だかりを分けて感謝祭の中央会場に向かった。
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