その56,誤解
「なんの騒ぎだ!!」
銀色の甲冑を身につけたエルフの男が小屋の扉を勢いよく開けて入ってきた。
「怪しい男を捕まえました!目的はおそらく女か蜂蜜!」
イケメンオークによる冤罪。オメーも許さんからな。
床からむくりと立ち上がった脳筋オークも口を開く。
「ヤキトリ様を騙る不届き者であります!」
ビシッと敬礼をして胸を張っているが、俺がそのヤキトリ様だよ!
「あのなぁ…」
炎に包まれた俺を見て、甲冑エルフが片膝を付く。
「大変申し訳ありません!馬鹿な我が部下が、失礼を致しました!!」
そう言って両手の拳を床につけ、頭を下げる。
「お前らは気付かなかったのか!首から下げるドクロこそ、ランクBの証!!そしてこの魔力は人並みの物ではない!この方こそあのワイバーンを隷従したヤキトリ様ぞ!」
ポカンと口を開け、だらしなく両腕をだらんと下げて、メラメラと燃える俺を二度見するオーク2人組。
「だから何度も言ってるだろ!俺はこの街にお土産を買いに来ただけだっつうの!」
「「「失礼しました!!!」」」
☆☆☆
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
何度も何度も頭を下げるエルフ、リョーコ。
「ご、ごべんなはい、失礼ひまひた…」
誰かわからない程にボコボコになったオーク2人組。甲冑エルフの粛清だ。
「リョーコと蜂を助けて頂いたというのにこのような仕打ち、我が村は焼き払われても文句は言えませぬ。わがままでは御座いますが…どうぞ、せめて、女子ども達が苦しまぬよう、お願いします…」
「俺は世間一般でどんなイメージなんだよ!!」
リョーコが走り寄り、俺の手を握る。
「本当に、助けて頂いたのに、ごめんなさい。せめてわたしのお菓子を食べて行っていただけませんか?わたしにはこれくらいしか出来なくて…いえ、ヤキトリ様の性奴隷でも性奴隷でも、なんでもやります。たとえ、それが性奴隷だとしても」
「だから、どういうイメージを持ってんだオメーら!」
「ヤキトリ様は複数の妻を娶り、傍らには常に連れて歩かれているとか…」
「ただの仲間だよ!!」
「ならわたしでもチャンスが…いえなんでもありません、やだわたしったら…あちらにお茶のご用意が御座いますので、どうぞ、お召し上がりください」
リョーコがその手で示した先には、テーブルクロスの敷かれた上に数枚の真っ白な皿。そこにはクッキーとミルフィーユが乗り、お茶のポットとカップが用意されていた。
渋々、そのテーブルに向かう。
『ヒール』ですぐ治ったとは言え、殴られたのは許さないし、こんなお茶の席では収まらんぞ。俺は心が狭いのだ。
椅子の背もたれを持って引き、テーブルにつく。
目の前には皿に並べられたクッキー、切り分けられたミルフィーユ。
クッキーを手に取ると、見た目よりは重く感じる。
ずっしりとしているというか、詰まっているような感じ。
「じゃ、お言葉に甘えて」
ひと口、クッキーを齧ってみる。
想像より堅い。しかしそれはイメージしていたクッキーと比べて、という程度で、奥歯で噛みしめると途端に口の中でバターと小麦の香りが広がる。
何度か咀嚼するうち、生地に練り込まれたナッツだろう。香ばしくて甘い味が追加される。
「全てを許そう…」
俺の目から一筋の涙。
甘いものは癒されるなぁ…。
荒んでいたぜ…俺の心。
「こちらはもともと保存食としてわたしが作ったんです。そしたらなんだか広まってしまって」
ま、これだけ美味かったら評判にもなるだろうな。
甘いものは戦争を生む。
「いや、これなら失礼なオーク2人組の対応も理解は出来るよ。納得はしないが」
フォークを手にし、ミルフィーユをひと口サイズに取る。
クレープを使ったミルフィーユだ。とても柔らかい。
クレープのミルフィーユは、口に入れると甘いクリームの香り、卵の香り、バニラの香りが何層にも重なって広がっていく。
「こういうケーキ類は、ここでしかお出し出来ないんです。どうしても運搬の際に傷んでしまって。沢山作っても、ここじゃ食べきれないですから」
リョーコが残念そうにこちらを見て微笑む。
「それに、この村は流浪の村ですから、次はいつご用意出来ることか…」
「ここには定住しないということか。そりゃまたなんで?」
「それについてはわたくしから」
甲冑エルフがテーブルの向かいに立つ。
「我々はその昔、心無い人間族に住むところを追われた身。こうやって、廃村や人知れぬ場所をお借りし、その土地その土地でバイトをして生活しておるのです」
雪風の記憶が蘇る。今も安心して暮らせてないのか。
胸が締め付けられる。
「じゃあグランウッドに来れば?仕事も無いならいい仕事がある。なんなら牛達も貸してくれ」
「え?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




