その55,女か蜂蜜か
甘い香りに誘われて、もりの中を進む。
先導は30センチほどの蜂が5匹。見た目は…デカいミツバチだ。
それをエルフのリョーコ、俺が続く。
道中木々や草に咲く花を見つけてはそちらこちらと道草をする蜂に時間を取られながら、進む。
「ところで、珍しい名前だな。俺も人のことは言えないが」
鼻歌を歌いながら歩くリョーコに声を掛ける。
「ええ良く言われます。でも、名前なんてそんなもんじゃないですか?…あ、ごめんなさい、変な意味じゃないんです」
聞かれたくない事情でもあるのかしらん。
「まぁいいさ。ところで、この甘い匂いは何を使ってるんだ?」
「これは、村で飼っている牛からとったミルクをバターにしているんです。街で買ったら凄くしょっぱいバターで…だから、バターも手作りしてるんですよ」
なるほど、冷蔵庫とかあるわけじゃないし、保存のためには塩を沢山入れないといけないとか、かな。
「食べた菓子は甘くて、この世界のものとは思えない美味さだったな。その秘密も知りたいし、是非作る工程や材料も見せてくれないか?」
「ええ、それはもちろん。でも、まずはお礼も兼ねて、わたしが作ったクッキーとミルフィーユをご馳走しますね」
クッキーとミルフィーユ!!
この世界に転移してからというもの、そんなオシャンティなものとは出会うことが無かった。
ましてやこの間の菓子、あれもクッキーだった、あれもそうだが、ミルフィーユも沢山のバターを使う。
バターといえば有塩バターで、料理に使う以外にはもう考えられなかった。
シェロちゃん達には悪いが、一足先に美味いスイーツを楽しませてもらうとしよう。
「もうすぐ村に着きますよ」
エルフと蜂達がその歩みのスピードを上げる。
蜂に合わせるよう、エルフは遂に走り出す。
エルフ達がだんだんと小さくなっていき、その先には小さな木で組まれた家が何軒か見えてくる。
甘い香りもだんだんと強くなり、歩く足も早くなってくる。
村に入って行ったエルフと蜂を追いかけ、追いつくように俺も走り出す。
「リョーコ、ちょっと待ってくれー!」
「誰だお前は。場合よっては、殺す」
村の入り口で屈強な男オーク2人組が立ち塞がった。
「いや、俺は怪しいものじゃないよ」
「うるせー!怪しい奴は大体そう言うんだ!!」
何故かものすごい勢いで縄で縛られ、村に入る前の監視小屋に連れていかれてしまった。
なんで抵抗しないのかって?圧倒されたからだよ!
☆☆☆
ボゴッ
何もしていないのにオークに殴られる。親父にもぶたれたことないのに!
まだ『ディフレクト』もかけてない。久々に痛い思い。
「おい!お前!どこの誰だ!名を名乗れ!」
2人組のうちの1人、背が高くて髪の短い、脳筋っぽさが滲み出ているオークが大声を出す。
じわじわと、口の中が鉄の味で満たされていく。
こりゃ口の中を切ったな。血の味だ。
「うるせえな、そんなデカい声を出さなくたって聞こえてるよ」
口内に溜まった血をツバと一緒にペッと吐き出す。
ボゴッ
「てめえ!その態度はなんだ!怪しい奴のくせして!口の利き方に気をつけろ!」
すごい!!なにこれ!理不尽!!
「俺はな!グランウッドのヤキトリっていう者だ!この村に用があって来ただけだ!それに、リョーコっていうエルフに案内してもらったんだよ!」
ボゴッ
ボゴッ
「馬鹿野郎!ヤキトリさんってランクBの冒険者だろうが!おめえみたいな、うだつの上がらねえ奴なわけねえだろ!」
ひどい!顔を知らないとは言え、ひどい!!
「マァマァ、その辺にしといてやれ。で、お前の本当の目的はなんだ。女か?蜂蜜か?」
もう1人のオーク、背が低く、グレーの肌が似合うイケメンだ。
「だから、俺はお土産を買いに来ただけだって!」
ボゴッ
また殴られる。
「おめえは聞かれたことだけ答えろ!女か?!蜂蜜か?!」
二択かよ!
手足は身体に縛られているとはいえ、口は動く。魔法だって使える。というか詠唱なんて必要ない。
この場でこいつらを消し炭にだってぺしゃんこにだってしてやれるんだが、俺は争いに来たわけじゃない。
ふふふ、雪風が居なくて命拾いしたな、お前たち。
ボゴッ
ニヤニヤしているとまた殴られる。
やめて!ヤキトリのHPはもうゼロよ!
「あのなぁ!俺はお菓子を買いに来たの!リョーコに聞けよ!途中で助けてやったのに!これがお前たちのお礼ってやつかよ!」
ひどい。もう顔がパンパンである。腫れて熱を持っているのが自分でもわかる。
もういい。こいつら許さん。俺が地域唯一のランクB冒険者、ヤキトリ様だってのを思い知らせてやる。
地獄の底で後悔するがいい。
またニヤニヤしていると殴られた。
「『ディフレクト』、縄に火の加護を『エンチャント』。自分に『ヒール』」
目を瞑り、思い浮かべる。
冷静を取り戻すために。
シェロちゃん…ドライアド…サキュバス……イナバ…
乳…尻…太もも…!!
背の高いオークがその拳を振り上げる。
「何をぶつぶつ言ってやがる!!少しの間、ネンネしてな!」
オークの拳は『逸れ』、バランスを崩して床に突っぷす。
それと同時に俺を縛り上げていた縄がメラメラと音を立てて燃え上がる。
「縄に『リペア』を『エンチャント』」
『ディフレクト』で炎は俺には移らない、火の加護で縄は燃え、『リペア』を『エンチャント』したことで、火の縄の出来上がりだ。
時代が時代なら、かぐや姫の伴侶だぜ。
「この世界に来て、初めてボコボコに殴られたぜ…許さへんからな!」
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




