その53,蜂とカマキリ
グォォォッッ!
その大きな雄叫びに、ハッと目を覚ます。
熊だ。こちらの方にゆっくりと、右に左に動きながら向かってくる。
近づくにつれ獣臭さが鼻につき、本能で恐怖を感じた。
グォォォオオオッ
熊は徐ろに立ち上がり、その前足を上げ、吠え、自らの大きさ、爪の鋭さを誇示する。
体長2メートルを超えようかという、大きな熊。
「ショートグリズリー!ピクシーコワイ!ゴシジンサマ!コワイヨー!」
焚き火からピクシーが飛び出し、パニック状態で俺の周りを飛び回る。
「安心しろ、ピクシー。こいつの爪は届かない」
少しチビりそうではあったが、トラップが仕掛けてある。
前足を下げて立ったまま、こちらにゆっくりとにじり寄る熊は、手足が短く、滑稽ですらあった。
「ピクシー見てみろ、アイツの足めっちゃ短くない?」
「アシミジカイ!ダサイ!カッコワルイ!ウケル!」
指をさして笑う俺とピクシー。
それを分かってか、いや分からないかも知れないが、前足を地面につけ、4本足でこちらに勢いよく向かってくる。
しかし、俺の数メートル先、ショートグリズリーが音を立てて地に押さえつけられる。
俺の『グラビティ』のテリトリーに入ったのだ。
地面にめり込むほどの高重力を受け、泡を吹きながらもこちらに少しずつ這いずり、近寄って来る。
しかし、その前足を上げられるほど、俺の魔法もやわじゃない。
あと数10センチで爪が届くかという辺りで、更に土にめり込んだショートグリズリーは生き絶えた。
肺が潰れたか、脳が潰れたか。
いずれにせよ、その熊が動くことはなかった。
ショートグリズリーの死体は、他の魔物避けにはちょうど良かった。
それでなくてもグリズリーの唸り声が轟いた上に鼻をつく獣臭さが警戒心を生み、近寄り難くする。
今夜は安心して眠れそうだ。少し臭いけど。
燻って火が弱くなった焚き火に戻るようピクシーに指示。
さて、一眠りするとしようか。
☆☆☆
小鳥のさえずり、眩しい朝日を浴び目覚める。
焚き火はすでに消え、火のピクシーも俺の胸の上で寝息を立てていた。
身体を少し動かすとピクシーも目を覚まし、その小さな手で目をこすり、上体を起こして伸びをする。
「ゴシジンサマ、オハヨー。ダレモ、コナカッタ」
「ずっと見張っててくれたんだな、ありがとう」
ありがとうの言葉を聞き、満点の笑顔を見せて宙を舞うピクシー。
「ヤクニタッタ?ヤクニタッタ?」
俺も起き上がり、背中や尻に付いた草や枝を払う。
「ああ、役に立ったよ。あとはゆっくり休め」
革袋を腰につけ、刀の"葱間"を脇に挿す。
その革袋をポンポンと叩き、口を開くとピクシーがその中に入っていった。
森の奥からは微かに、甘い、香ばしい、懐かしい匂いがする。
目指すは東の『お菓子の村』である。
傍らにまだ暖かいショートグリズリーの死体がある。あまり気乗りはしないが、革袋にぶち込んでおく。
ギルドに持っていくためだ。くせえ。
革袋に入れた途端、不思議と熊の臭さは消える。革袋の中は臭そう。ごめんねピクシー。
とりあえず、匂いを辿り、森を進むことにする。
お目当てのお菓子を目指せばいいのだ。
森の外からどこか道が無いか、周囲を探索する。
だって道無き道を行くなんて、あまり合理的じゃないし、また変な魔物とか虫とか出たら嫌だもん。
『リテラシー』の効果で風を『読み』、匂いを辿りながら、それでいて道を探りながら森の周りを彷徨う。
森の端に沿って北に向かって進んでいると、木々を少し切り拓いた道があった。
木漏れ日が照らし、あまり薄暗さや気味の悪さは感じない。
道の前に立つと、その奥から風に乗ったいい匂いがこちらに向かって吹いてくる。
バター、リンゴ、蜂蜜…それと、クッキーのような…甘い香り。
ビィーッという、甲高い、何かが擦れるような音。
「助けてー!誰か!」
女性の叫び声。
ギチギチギチギチギチギチッ
やな予感。
30センチほどの蜂が5匹。
それを追うように走る金髪にエプロンの女性。
更にそれを追う、3メートルはあるデカいカマキリ。
無銘 葱間を抜き、正面に構える。
「蜂は殺さないで〜!」
女性が叫ぶ。髪からは長い耳が飛び出し、瞳は翠。エルフだ。
こちらに向かってくる蜂をしゃがんでやり過ごし、エルフの女性が俺の後ろに過ぎるのを待つ。
デカいカマキリは急ブレーキ。俺に向かいその口から勢いよく水を吹き出した。
が、俺には『ディフレクト』が掛かっている。水は手前で方向を変えて『逸れ』る。
ギチチチッ
カマキリが首を傾げるが、俺はその瞬間『グラビティ』を自分に掛け、カマキリの頭上に飛び上がりながら葱間を振り上げる。
「『真空斬』!!」
わざわざいう必要もないんだが、言った方が気分が出るしカッコいい。
刀の先がカマキリの頭から一直線に振り下ろされ、真空の刃が真っ二つに切断する。
俺が着地すると、左右に分断されたカマキリが倒れた。
エルフの手前、カッコよく着地したつもりだったが、足をグキッと挫いてしまった。痛い。カッコ悪い。『ヒール』
俺の前ではどんなヤツも無力だぜ、なんて思っていたのも束の間、カマキリの腹の部分から細長い触手が伸びる。
半透明ではあるが、その表面は金属のような光を放っており、くねくねと気持ちの悪い動きをしていた。
「あの、ソレは『グランデハリガネムシ』です!火に弱いのですが、あいにく火は持ってなくて」
後ろから蜂に守られたエルフが声を上げる。
なるほど、火に弱いのか。任せておけ。
「火のピクシー!こいつを燃やせ!」
…。
「ピクシー!?おーい!」
革袋からピクシーが飛び出してくる。
しかし出てきたのは闇のピクシーだった。
「ヒノヤツ、ネテル!」
ですよね。
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




