その48,サハギン茶
通称お出汁の素、いや俺が勝手に呼んでいるだけだった。
サハギンの村で(多分) 頂いたお茶。
何故(多分) かと言うと、気絶して目覚めたら俺の上に積み上げられていたからなのだ。
貰ってもいないようなものに下敷きにされてるなんて滑稽だろ。
だから俺のものならば俺の上に積み重なっていても仕方がない。名推理。
お出汁の素は、干した海藻、きのこ、魚を粉末に、独自のブレンドで仕上げたスープだ。
俺の世界では、なんの料理でも使ったようなものだし、これに醤油でもありゃ最高なんだけど。
これを持って鶏政に赴く。
俺は鶏政のスーパーバイザーでもあるのだ。
と言っても、今まで出していた食事には口を出さない。この世界での文化や味覚、好み、それに作っているプロの意地やプライドもあるだろう。
俺は、新メニューコンテストの一件から、この店の新しいメニューを提案する立場になった。
それ以上でも、以下でもない。
そして今日もまた、新メニューの提案に来た。
このお出汁の素を使って、少しでも日本の食事に近いものを用意してもらうのだ。
ただ、店の雰囲気的には上品な日本食というものではなくて、もっと庶民的なものの方がいいだろう。
鶏政の横、路地から裏手に回る。
空樽や麻袋が積み上げられた先、鶏政の勝手口前に立つ。
木の扉は少しだけ開けてあり、ストッパー用の木の端切れが挟んである。
勝手口の扉をノックし、返事を待たずに開けて入っていく。
大抵ノックをするという行為は、在室の確認や呼び出しのためのものであるが、鶏政の場合、来たから入る、という合図でしかない。
実際ノックをしたところで、誰かが迎えに来るわけでもないからな。
勝手口から入ると、そこは厨房になっており、左は洗い場、右には油が熱された鍋が並ぶ。
中央には大きなテーブルがあり、言わばデカいまな板だ。
そのまな板の上に、お出汁の素が入った袋を置く。
物音に気付いたオークがその胸を揺らしながら店の方から走って来る。
「旦那、来てたんだね」
こちらに歩きながら前掛けを外し、まな板の上に軽く丸めて置いた。
「今度は何だろう。何に使う食材だろう」
人差し指を袋の口に差し込み、少し開けて覗き込む巨乳オーク。
「この匂いは、サハギンのお茶だね」
さすが、店を構えているだけはある。まあ行商にサハギン達が来るくらいだから、知っていてもおかしくはないか。
「そう、サハギンのお茶を分けてもらったんだ。これを使った料理を作ってもらおうと思ってさ」
「でも、サハギンのお茶はサハギンくらいしか注文しないよ。料理に使うなんてのも、聞いたことがないね」
「ところが、俺の国ではこの味と香りが主流なんだ。どんな料理でも使うんだよ」
よほどサハギンのお茶を料理に使うというのが想像し難いらしく、オークは巨乳の下に腕を通し、逆の手の拳を顎に当て考え込んだ。
「まあ実際にやってみないことにはわからないし、この世界、この街の人たちに受け入れられるかわからないからな」
洗い場の奥、食器棚に置いてあったポットとスプーン、カップは2つ取る。
袋の口を開き、スプーンでお出汁の素をすくい、ポットにサラサラと入れると、早くもその香りが漂う。
「うん、確かにモノは良さそうだけど、これを料理に?」
オークは軽く鼻を鳴らし、その香りを吸い込む。
「まぁまぁ、ちょっと待ってろ」
俺はお湯の湧いている鍋からひし形のおたま、レードルでお湯をすくい、ポットに入れる。
ポットからは魚と海藻、きのこの香りが立ち、なんとも言えない食欲を誘う。
透き通った琥珀色の液体がカップを満たしていく。
「まずはそのまま、一口飲んでくれ」
オークの前にカップを置き、味を見るよう促す。
「ま、確かに美味いけど、普通のサハギン茶だね」
特に驚く様子もなく、当然のことながら何故これを飲ませたのか不思議そうにこちらを見ている。
俺はまな板の端にある調味料棚から、俺が以前持ち込んだ『味塩コショー』を手に取る。
そして、オークの口紅が付いたサハギン茶のカップに一振りした。
「旦那、それは『ザンギ』に使う粉だろ?そんなもの掛けて」
と言いながら、口にカップを運ぶ。
軽くカップを傾け、一口。
少し止まったかと思うと勢いよく喉を鳴らしながらカップを空にしたのだった。
「ま、魔法の粉は、こんなことにも使えるのか。どうしたらこんなに美味く出来るんだ…塩と…胡椒…を合わせて…ブツブツ」
カップの底を見つめながら、ブツブツと独り言を始める巨乳オーク。
無理もない。『味塩コショー』は俺の部屋にあった賞味期限切れのものだし、ほぼ使っていなかったとはいえ、量も限られている。
ザンギを作るのに使う、としか言ってなかったし、ほかに使おうなんてのは考えていなかったかも知れん。
「ただ、量も限られている。だから、塩と胡椒で代用するんだ。胡椒の割合はそんなにいらないと思う。高いしな」
「塩と胡椒だけでサハギン茶がこんなに美味くなるとは思いもよらなかった。それで、この美味くなったサハギン茶で、どんな料理を?」
サハギン茶を飲ませる前とは違った興味の大きさを感じるのは、その瞳の輝きだ。
サハギン茶はサハギンが自分たちが飲むために作っているものだし、旨味が凝縮されているとは言え、肉中心のメニューの中では霞んでしまうのも無理はない。
サハギン茶の潜在能力も分かってもらえただろうし、まずはここにある食材で作れるものを披露するか。
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




