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その45,おかわり

「さすがワイバーン様。この子は、希少種の人魚族に御座います」


サハギンの長、ギンが頭を下げて恐縮した様子を見せる。


「あ、あ、あたしは、サ、サハギンだもん!に、人魚じゃないもん!」


カペリンが頬を膨らませて怒った口調になる。

ま、何か事情があるんだろう。


海のように透き通った蒼い髪を、ポンポンと軽く叩き「ほらお茶をご用意しておいで」と俺から離れるよう促すギン。


「はーい」


蒼い髪の少女カペリンは、とぼとぼとこちらを名残惜しそうに振り返りながら、奥の部屋へと歩いていった。


「あの子は…カペリンは、100年前の人魚狩り騒動の時の孤児なのです。我等の村に流れ着き、それからというもの我々みんなで育ててきました。だから、彼女は自分はサハギンだ、と」


ギギギ、と雪風が歯軋りをし、俺も胸が苦しくなる。


虐殺。


凌辱。


略奪。



雪風の記憶は、俺の記憶でもあるのだ。


生唾を飲むが、あの時の記憶が蘇ったせいか、口が異様に乾いて仕方がなかった。


「とりあえず、座らせてもらおう」


ちゃぶ台を前に、雪風の頭を上から抑えるように座らせ、俺も隣に座る。


「その、人魚狩りについては、後日改めて聞かせてくれ」


「わかりました、いや、申し訳ない。気分を害されたようですな。では…どうです、我が村自慢の工芸品の工場でもご案内いたしますか」


本当に面目無さそうな顔で、悲しそうな顔を浮かべるギン。

下を向き、肩を落とした。


「いや、そんなことはない。ちょっと気持ちがわかるだけだよ。実際はその立場にはなれないからな、同情とかそんなんでもないんだ。気にするな」


「そうなのだ。お前達はカペリンの親なのだ。胸を張れなのだ」


雪風も、同情なんて気持ちではない。

家族も友人も亡くし、たった独りで長い時間を過ごしてきた。だから、羨望や尊敬の気持ちが入り混じっているんだろう。

雪風の頭を撫でてやる。


「まあ、まずは一服して、観光と行くか!」


頭を撫でられた雪風は、ちょっとだけ照れながら、俺の腕に抱きついてくる。


「我は、もう大丈夫なのだ!」



なんのことやらさっぱり、といった面持ちで、お盆に乗せたお茶を運んできたカペリン。


ふわっと懐かしい香りがしてくる。


俺の世界ではメジャーな香り。


営業で歩いていたらこの香りに誘われてたっけ…




「あ、あ、あの、これは、ほほほ干して乾燥させた、海藻と、ほほ干したきのこ、く、燻製した魚の、お茶です!」



やっぱり出汁の香りやんけ。


昆布と椎茸と鰹節でしょこれ!


この世界に来て一番恋しかったのは日本食だ。


この出汁の香り…。



たまらず一気に飲み干してしまった。


その勢いにギンも圧倒される。


「よっぽど喉が乾いておられたんですな、こんなものしかお出し出来ず申し訳ない」



「おかわり!!!」

俺は我慢できず、カペリンにおかわりを申し出る。


口に入れた瞬間、塩気の少しあるカツオの風味が広がり、熱い液体が喉を通ると、鼻から椎茸や昆布の香りが抜けていく。


何故これを、俺は今この小さなコップ一杯しか飲ませてもらえなかったのか。

そんな傲慢で意味不明な思考が生まれるほど、そのお茶、出汁に取り憑かれてしまったのだった。


お茶、と言われて想像したのは、シェロちゃんの家で出してもらえる紅茶だ。いやあれだって相当上等なものだ。ポットからカップに注がれる亜麻色の液体は高貴な香りを醸し出し、それを含んだ者すら高貴な気持ちにさせてくれるものだ。



しかし!俺は何をしていたんだ!


確かにランクBだと持て囃されて良い気になっていたが、違う!


俺は!


俺の中身は!!


38歳!


独身!


おじさん!


お蕎麦大好き!


お出汁大好き!!



「おかわり!!!」


無我夢中で、ギンの家の出汁、お茶を飲み干してしまう勢いだった。

まるでわんこ蕎麦のように。


ギンが慌てて止める。それはお茶を心配してではなく、俺を心配して。


「ヤキトリ様!ヤキトリ様!お気を確かに!!」


ギンに止められなければ、どうなっていたかわからない。


「ありがとう、ギン。俺はとんでもないものに出会っちまった。このお茶、お土産で買いたい」


「ややや!とんでもございません!このお茶は、この村の者が保存用に作っているものです!お売りするようなものではございませんぞ!」


首を取れるかと思うほどの勢いで振り、ちゃぶ台に手をつきこちらに顔も突き出すギン。


「それは残念だな、確かにこれだけの代物だ。貴重なものだろう、正直すまんかった」


本当に残念だ。これを使えば日本食も試すことが出来るかと思ったんだが。


「いえ、そうではなく、こんなもので良ければ好きなだけ差し上げます!これは我々が昔から作ってきた故郷の味。このようなものをヤキトリ様に認めて貰えるだけで光栄でございますぞ」


なんと。



そうだ。この村の水道工事の資金の目処が立ちそうだぞ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!


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異世界タクシー 〜行き先は異世界ですか?〜
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