その44,サハギン
雪風がワイバーン体を解くと、あたりに光の粒が舞い上がる。
物質的な粒ではなく、魔法の粒子。
目の前に居たワイバーンが少女の姿に変身したのを目の当たりにし、村人達はまた奥へと下がっていった。
ひと通り降り注いだ雨で、干ばつの村はひとときの潤いを得た。
あとは"コンスタント"に飲料水を得られなければならない。
もう2、3回、雨でも降らせれば良いかもしれないけど、解決策にはならないしな。
「ギン、ちょっと見ててくれないか?」
『エンチャント』
とりあえずの策として、村の入り口にあった水瓶に、水の加護を『エンチャント』。魔力のあるものが蓋を開ければ水が湧き出す。
「おお、水が底から湧き出しておる…ありがたや…」
「これは、この蓋を開けた者の魔力によって水が湧き出す。だからあまり使いすぎると干からびるけどな、そいつが」
はじめは輝いた瞳で水瓶を覗き込んでいたが、恐怖に慄いた瞳に変わりこちらを見る。
「ま、見たところ、この村の人達はランクFからEあたりだろう。そんな奴らが水をジャバジャバと、それこそ魔力もジャバジャバと垂れ流してたら、そりゃ干からびるさ」
「わかりました、では毎日交代で水を湧かす方が良いですな」
「そうなんだが、それだと解決にならないだろう?疲れるし。だから、まずはこの村に水を引こうと思う」
目標として、この村は山からは海抜が低いから、山の水を引こう。
グルーンではあれだけ蒸気が出ていたし、工事はドワーフ達ならお茶の子さいさいだろ。まずおっぱ…ソラにお願いしよう。
まだ解決とは言えないな、この村で水が自由に使えるようになるまでは。
サハギンの長、ギンが俺の手を引く。
「ヤキトリ様とお連れの方、お礼もしなければなりませんし、依頼書にもサインをしましょう。まずは我が家でゆっくり休んでくだされ」
そういやこの村には一歩も入ってなかったな。
お礼はともかく、喉が渇いた。
水も湧いたしお茶でもいただこうかな。
「いや、お礼も要らないし、サインは水を引いてからでいいだろう。まだ解決とは言えないしさ。とりあえずお茶でももらおうかな」
「なんと…まだお助け頂くと仰るか…いや、ここはお言葉に甘えましょう。ささ、まずは我が家へ」
「お礼は貰うべきなのだ」
「黙ってろ」
ギンに引かれるまま、村の奥へと進む。
村の家々は簡素だったが、あの雪風が起こした大雨にもビクともしていない。
屋根は葉っぱと枝を組んだもので、雨風をしのげるようになっていて、壁は流木と土で作った土壁のようだ。
扉も流木を組んだものになっている。
しかし真四角で、クラフト系ゲーム初心者が作ったような家だ。豆腐建築ってやつ。
まあ、この村の住民は手先が器用というか、こういう細工が得意なのかもしれないな。
工芸品も生業にしていると聞いたし。
その先、村の中程には魚を干していたり、石窯のような設備もある。
その干していた魚を細身の女性サハギン達が回収している。
雨でびしょ濡れになってしまったから、あの魚はダメだな。すまん。
更に奥に進むと、床が一段高く組まれた家が見えてくる。
屋根や壁は同じだが、他の家とは違い、左右にも部屋が付いていた。
入り口の前には五段ほど丸太で出来た階段があり、その両脇には革の胸当てをし先のねじれた二股の槍を持った飴色の髪のサハギンが立っている。
「この者達はわたしの息子達で、右がカレイ、左がヒラメと申します。…お前たち、ヤキトリ様方にご挨拶を」
ギンに促され、二人が会釈をする。
「この方達が、先ほどの雨を降らせてくださった。今後、村に水を引いてくださるとのこと。長いお付き合いになるだろう。失礼のないように」
「「ハッ」」
槍を逆手に持ち替え、その先を地面に突き刺す。
この村の作法なんだろう。敵意がありませんよ、みたいな。
座った時に刀を右に置くようなもんか。
その2人の間を通り、階段を登る。入り口は木と蔓で編んだ大きな扉で、観音開きだ。
中には丸いテーブル、座卓、いや、ちゃぶ台だな。
そしてそこにはひとりのフードを被った少女が座っていた。
「おや、カペリン、来ていたのかい。ちょうどいい。この方達にお茶を出しておくれ。先ほどの雨を降らせてくださった方々だ」
カペリン、と呼ばれた少女が立ち上がり、こちらを見るなり走り寄ってくる。
「あ、あ、あの時の!お、お兄さん!!」
「おや、ヤキトリ様とカペリンは既に面識が御座いましたかな?」
フムン、サハギンの娘とは会ったこともないぞ。サハギン自体、この村に来るまでは出会わなかった。
「うーん、どちら様だろう?」
その顔に見覚えがあった。
水袋とアイスピックの売り子の少女だ。
「あぁ、あの時の」
俺がそういうとカペリンが飛びついて来た。ペタンコである。何がとは言わないが、ペタンコである。
背丈は思ったよりも高く、160センチほど。フードをバサっと取ると、綺麗なブルー、透き通った海のような髪が現れた。
「あ、あ、あの時は、あの、あの、ありがとう!ございます!わわわ、わたし、カペリンって言います!」
顔立ちはサハギンというよりもエルフに近い。
しかし耳はサハギンやエルフのように長くない。
かといって人族よりも白く美しい肌と、金色の瞳。
あの時は気付かなかったが、声すらも美しい色を感じてしまう。
雪風が、じっとカペリンを見つめてしまっていた俺の袖を引っ張ってくる。
「その子はサハギンではないのだ。どうしてここにいるのだ?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




