その38,道
グルーンからの道作りは思ったよりも順調に進んだ。
手作業で山を切り崩して道を作らねば、と思っていたがそこは魔導機関の国グルーン。
魔導機関で動く重機を使ってあっという間に木を切り倒し、山を崩し、グルーンを取り囲む塀の上から、グランウッドの街が遠くに確認できるほどになった。
1週間ほどで幅10m長さ1kmの道が出来、休憩所として簡単なログハウスまで建てられたのだが、驚くべきはそのチームワークと手際の良さだった。
大きなハサミのついた、蜘蛛のような重機を使うドワーフ達が木を切り倒して進み、その木を2人組になったドワーフが後方へ運ぶ。
その木を今度は雪風がグランウッド方面の森を抜けた先に運び出す。
切り株や岩なども切り倒した木を使い、テコの原理で取り出した上また運び出す。
切り株はノコギリで根を取り、ノミで穴を開け、ヤスリをかけて椅子に加工しているようだった。
運ばれた岩も、同じような大きさに割られ、表面が平らになるように叩いていた。
でこぼこになった山道を今度は重機、さながら鉄の蜘蛛に分厚い鉄板のついたような魔導機関重機で道を平らに均していく。
ベテラン達のお膳立てが終わったかのように、今度は若い連中が並んで岩を割った石を一斉に敷き詰めていく。
そうして今、1kmになろうという石畳の道が、1ヶ月ほどで出来てしまったのだった。
ログハウス、石畳の道を前に、言葉を失っている俺。
そこに『現場監督』で指揮していたドワーフギャルのソラが走り寄ってくる。
役目によって成長というか変化するのだろうか、スリムで背も高くなり、更に大きくなった胸を揺らして走る。
俺の率直な感想としては「おっぱいが走って来た」。
背は150cmほどだが、はじめに会った時よりもだいぶグラマラスになっていた。
腕も筋肉がかなりついている。この仕事は大変だったろう。
「どうだい、頭、思ったよりも早くてびっくりしただろう?これも毎日ご馳走してくれるザンギだったか、あのフリットのおかげでさぁ!」
たしかに、働いているドワーフ達の表情はもちろんのこと、身体つきも見慣れたものに戻って来ている。
「随分と身体つきまで変わって来たんだな。ちょっと頑張りすぎなんじゃないか?」
突貫というわけでもなく、しっかりとした工事をこの短期間でやってくれている。
無理がないが心配ではあった。
「いやいや、あたいたちドワーフは『役目』が無いと弱っちまうのさ。職人が多い種族なのもそれがあるからでね。逆に仕事が楽しいとスキルが上がって体力も腕力も、見た目だって順応してくるんだ」
仕事が楽しい、か。
俺が、俺の世界で仕事をしていた時。そういう風に思ってやっていただろうか。
最初は、楽しかったかもしれない。
でも、楽しいだけじゃ結果も出せなかったんだ。
今は結果を求める者も咎める者も居ない。
こうやって、大きな一つのことをみんなでやるのって、楽しいなぁ。
「よし、今日はもう日も落ちてくる。少し休んでくれ」
グランウッドから持ち込んできた酒樽が3つ、革袋に入っている。
今夜はこれを振る舞おう。
「休む前に一つ確認だ。明日で構わない。改めて完成までの進捗表と、今後必要な物を一覧にしておいてくれ」
俺の予想ではあと1週間で森を抜け、1ヶ月もすればグランウッドまでの道は出来上がるだろう。
「わかった。じゃあ頭、あたいはみんなを呼んでくるよ。良いところでやめたく無いって騒ぎそうだけど!」
こちらに手を振り、おっぱいは走って現場の方に向かっていった。
先程からいい匂いがしていた。
ログハウスから漂う、懐かしい匂いに誘われる。
ログハウスの中に入ると鶏政オークとメイドオークが並んでいるのが目に入った。
鶏政のオークが大きな鍋で大量の玉ねぎを炒めていて、隣ではメイドオークが、血塗れのメイド服でバカデカいネズミを解体している。
「旦那いらっしゃい。今日は旦那の教えてくれた『カレー』ってヤツを作ろうと思ってさ」
どうしても俺が食べたくなってしまい、この世界の材料で作れないかと思案したものである。
カレーって定期的に食べたくなるじゃない?
ルーなんてものもないこの世界で、思い出したのが小麦粉。
小麦粉を炒めて、牛乳で伸ばし、スパイス、肉と野菜を入れて煮込んだらそれっぽくなったんだよな。
厳密に言えばカレーじゃないかも知れないけど、それっぽくなって食べたら美味いんだからいいだろ。
咎める料理警察もいないんだ。
それにしてもデカいネズミだ。
「それ、ネズミだよな?」
気になりすぎたので指をさして確認する。
「これは…メガロムー…。道を作る時に…出てきた…。仕留めた…。美味しい…肉」
初めてメイドオークの声を聞く。
たどたどしいが綺麗な声をしていた。
ブシュッ ザクッ ジャバッッ
相変わらず無表情なのは変わらないが、肉を捌く表情は心なしか微笑んでいるようにも見える。やだこわい。
「そうだ」と思い出し、手のひらよりも少し大きい革袋から、それよりもかなり大きい酒樽を取り出す。
『グラビティ』を掛けているから片手で軽々と取り出したが、あまり人前ではやらん方がいいな。
メイドオークも驚いたのか、肉を切り刻むナイフの手も止まっている。
「今夜はみんなで飲んでくれ。俺から、せめてもの労いだよ」
残りの2つの樽も取り出す。
いちいちこっち見て手を止めるな。メイドオーク。
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




