その33,サイドスロー
〜数日前〜
サキュバスの魔書店に再訪する。
再訪、と言っても決まった場所にあるわけでもなく、入り口はどこにでもあるし、どこにもない。
サキュバスがどうぞ、と迎え入れてくれる場所が入り口なのだ。
我が寝ぐらの入り口の、すぐ横にある階段を上ると左に1つ、右に2つ、ドアがある。
左の部屋はやや広く、洋間で8畳くらいかな。
右の部屋はどちらも洋間6畳ほどの広さ。
その右奥の部屋のドアを開ける。
ドアの向こうには、以前訪れた魔書店の店内がそこにあった。
明らかに部屋の大きさよりも広く、窓から見る風景も…霧に包まれ、ガス灯が揺らめく薄暗い工業地帯。どこだよ。
入り口でサキュバスが出迎える。
「ここは魔界、魔族の街の一角なの。私の住処」
サキュバスが言うには、ドアの先は魔界にある建物の中に通じているらしい。
そう、サキュバスがどうぞと迎え入れた場所は、我が寝ぐらの二階に位置していたのだった。
「改めて。いらっしゃい旦那、名もない魔書店へ。旦那の好きなものを使うと良いわ。あの魔法も見る事が出来たし、他の魔法も私に見せてちょうだい」
初めて来た時はじっくりと見ることが出来なかったが、改めて見ると、左右の壁に造り付けられた本棚には魔書が沢山並んでいる。
厚い本、薄い本、大きい本に小さい本。
中でも分厚いほうの本を選んで手に取る。
「あら、それは『ディフレクト』の魔書。魔法レベルが高い割に人気が無いの。効果は『そらす』事が出来るものよ」
「『そらす』、か。この間のカナブンの時は危なかったからなぁ。実践経験無いし、一応持っておいても良いかもな」
どんな攻撃も当たらなければどうという事はないのだ。
攻撃を『そらす』ことが出来るならば、『読む』と組み合わせれば無敵じゃないかしら??
「ちなみに、こっちの大きい本は? 」
厚い本のとなりにあった、薄くて大きい本。
サキュバスが「それは」と少し詰まったあと、「わからないわ」と続けた。
何百年と魔書に関わっているサキュバスが、「わからない」と言うのには訳があるんだろう。
触らぬ神になんとやらなのか、それとも。
「まあいいか、面白そうだから貰っても良いかな?」
スッと本棚から大きくて薄い魔書を取り出す。
「うーん、良いけど、それは本当にわからないの。それでも良いなら…旦那にあげちゃう」
本当にわからないみたいだな。こわ。
表紙には…オーバー、ロード、かな。『読』めても意味まではわからんな。
それにしても沢山の本だ。全てを見て回るには1日じゃあ難しい。
厚めの本が並ぶ棚から何冊か、貰ってもいいか許可を取る。
「もちろん、私は旦那のもの。つまり、私のものは旦那のものよ、好きなだけどうぞ」
そう言うわけにもいかないと思いつつも、厚めの本を5冊、革袋にしまった。
☆☆☆
サキュバスに一旦外で試してみることを伝え、階段を降りた。
シェロちゃんが暇そうにテーブルに突っ伏し、外を眺めていた。
足はぷらぷらと宙を蹴っている。
「シェロちゃん、ちょっと付き合ってもらえる?」
頬を膨らませてこっちをみるシェロちゃんを誘い、外に出る。
草原の、寝ぐらから離れた辺りに場所を取り、まずは一冊の魔書を取り出す。
薄くて大きい、謎の魔書。サキュバスも知らない、オーバーロードと(多分)書かれてる魔書。
魔書の表紙をおもむろに開く。
『オーバーロード』
すこやかロリータの声。
脳内に直接活字が、イメージが書き込まれて行く感覚。
何度経験しても慣れないな…。
身体の奥から力が溢れてくる!
こ、これは!
何も起こらない!!なんでや!
何か起きるかと思ってたのに期待はずれだな。
もういい!次!
『ディフレクト』
これは『そらす』魔法だったな。
上手いこと攻撃がそれてくれれば予想通りなんだけど。
「シェロちゃん、今魔法を使うから、それを合図にそこから俺に向かって石を投げてくれ」
5メートルくらい離れているところから投石をお願いする。
「えー!そんなこと出来ないよー!」
まあそりゃ戸惑うよな、石を投げろ言われたら。
「大丈夫だから、適当な石を拾って投げてくれない?魔法を試してみたいん…」
俺がそう言い終わるかどうかというタイミングで、足元の石を拾い、石を持つ右手を包むように左手を添えた。
その手を頭上に掲げ、左足を天に向かって一直線に上げる。
綺麗にフォームが決まり、左足を前に出し土にグッと踏ん張る。
そのまま上体を低く、右手は地面すれすれのサイドスロー。かなりのスピードで石をこちらに向けて投げた。
悲しい。
俺は気づいていた。魔法をまだかけていなかったことに。
ドスッ
みぞおちに決まる。
ブラックアウト。
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




