その29,隷従
瞬く間に、白きワイバーンの討伐の噂が広がった。
ま、討伐というか、連れて来ちゃった。
『生死を問わず、ということだから、いいよな?』とギルドマスターに聞いてみたところ、そのちびっ子(笑)がワイバーンだと証明出来れば報酬は何が何でも払わせてやる、とのことだった。
証明、か。
確かにワイバーンを殺せば、その角でも牙でも、鱗でもなんでも良かったんだろうけど。
俺はそれを望まなかったし、結果的に、こうなって良かったんだ。
俺はワイバーンと生きることを望む。
シェロちゃんとサキュバスに両肩を支えられながら、フラフラの身体で医務室を出ると、ギルド内にどよめきが起こる。
【ワイバーン退治に行ったけど倒せなくて子供をワイバーンだと言って逃げ帰ってきた腰抜け】
どうやらそういった認識でファイナルアンサーのようだ。
その認識はあながち間違っちゃいない。
しかし間違いだ。
逃げ帰ってきたわけじゃあないんだよ。俺は。
「証明しよう。このちびっ子がワイバーンだと」
ギルドは笑いに包まれる。
「ランクB冒険者様ヨォ、素人が手を出す依頼じゃなかったんだよ。
これで分かっただろ?今そのギャル達の前でサァ、
『嘘でしたごめんなさい、ぼくちん腰抜けでちゅ』って謝れば許してやらなくもないぜぇ?」
数人でテーブルについて、酒を飲みながら嘲笑する下衆野郎。
俺たち3人とワイバーンはそんな下衆野郎を無視してギルドの出口に向かう。
が、その横を通る時にワイバーンが、座っていた下衆野郎の足を蹴り上げる。
ボキーンッ
あらら、変な方向に曲がってら。
「こらこらワイバーン、イタズラはダメだぞ〜」
ついついニヤついてしまうのを堪えながら、ワイバーンの頭をポンポン、と軽く優しく叩く。
我ながら性格が悪いね。
「だってあいつら、我のお前を馬鹿にしたのだ。つまり、我を馬鹿にしたのだ」
頬を膨らませて手を腰につけて怒っている。
あの時と同じ格好だな。
お前はワイバーンだよ。誰にも否定させないからな。
騒ぎになったギルドの戸を開け、外に出る。
外にも人々が周囲を囲み、注目していた。
「相変わらずのモテぶりだぜ…」
☆☆☆
街と我が寝ぐらの小屋の間にある草原のの、およそ中央まで出てくると、うさ耳ギルドマスターが立っていた。
「さぁて、ではワイバーンの証明!してもらいましょう!信じていない訳ではありませんが、報酬の額が額なんでね!ヨロシク!」
両手を大きく広げ天を仰ぐうさ耳ギルドマスター。
既にジェシーや鶏政の店員、街の人々が集まっていた。
街の方からも、続々とこちらに向かっている。
ワイバーンが歩き始め、少し離れた場所に位置する。
「見て驚くな、我の真の姿を。これが我なのだ!」
そう言うと、ワイバーンの周りには金色の光の粒子が集まっていく。
金色の光の中ワイバーンが宙に浮いた。顔は上を向き、片足を軽く曲げ、その手足を下に向けピンと伸ばしている。
次第に身体は虹色に輝いていく。まるでムーンでプリズムなパワーでメイクアップしているようだ!
一瞬、眩い光が球状にワイバーンを包むと、そこには白く美しい、大きなワイバーンが現れた。
〈我こそがワイバーンなのだ〉
〈貴様達人間が畏れる、憎悪の象徴、ワイバーンなのだ〉
〈いや今は、憎悪など消え去ったのだ〉
〈我はヤキトリであり、ヤキトリもまた、我である〉
実際に目の当たりにしたワイバーンに、うさ耳ギルドマスターも、街のみんなも、腰を抜かしていた。
「は、ははは。こりゃ本物ですなぁ…」
ギルドマスターは引きつり笑いをしながら、尻を引きずりながら後ずさりする。
〈ちょうど良い。ヤキトリよ、我を隷従させよ〉
れいじゅう?なんだそりゃ。
シェロちゃんは初めて見たワイバーンにびっくりしながらも、ワイバーンの言葉に更に驚く。
「ヤ、ヤキトリ様、隷従って言うのは、自分に屈服したり信頼したりした魔物や獣を、その支配下に置くってことだよつまり…」
〈そういうことなのだ〉
「俺は…ワイバーン、お前を支配したくはない。お前も自由でいてほしい」
ワイバーンの記憶が自分のもののように蘇る。
遠い子供の時の記憶のように、朧げに、それでいてはっきりと。
記憶というものは時として自ら捏造してしまうものでもあるが、そうではない。
はっきりと、俺も体験したのだ。
だからこそ、だ。
〈ヤキトリ、それは違うのだ。もはや我はお前のものであり、またお前は我のものであるのだ〉
〈お前は我と共にあり、我はお前の力なのだ〉
〈さあ我に名前をつけよ。さすれば我は、お前に隷従するのだ〉
厳かな雰囲気が漂う。
でもさあ、いきなり名前付けろって言われても急すぎて思いつかねえよー。
なんか周りのみんな期待してこっち見てるしさー。
こっち見んな。
〈我を隷従することにより、お前にはシルフの祝福があるのだ〉
〈我はシルフィ。女性のシルフはそう呼ばれるのだ〉
〈世界で一番美しいと言われたシルフィなのだ〉
〈早く名前を決めるのだ〉
〈ネギま、ポンポチ、イカダ、新生姜巻に期間限定のラムタン塩とかでもいいのだ〉
お前もかよ!!
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




