その27,支配者
「女は犯してから殺せ!子供は売り物だ!丁寧に扱えよ!男は有無を言わさず殺っちまえ!!」
甲冑を着た男達が逃げ惑う人々を切りつけ、女性や子供は縄で縛り上げ、逃げる者を網で捕縛する。
悲鳴と叫び声、笑い声と奇声が混ざり合う中、飛び散る血飛沫。
「助けてくれ、せめて妻と子供には手を出さないでくれッ」
シティボーイの救いを求める言葉も聞かず、甲冑を着た男はその剣を振り下ろす。
「ちくしょう!黙ってやられてたまるか!」
若い男が足元に落ちていた、甲冑の男達のものであろう剣を持ち、立ち向かっていく。
それに応じるように、ほかのシルフ達も老若男女問わず近くにある物を手に抵抗する。
「シルフは金になるって聞いたから来たのによ!めんどくせえ!女子供も関係ねえ!今すぐ皆殺しだ!」
縄で縛っていた、泣きじゃくる若い女の髪の毛を掴み、首をはねる。
建物には火が放たれ、村は真っ赤に燃える。
甲冑の男を前に、ひとりの少女が震えながら鍬を持つ。
あの畑にいた少女だ。
「ハハハハハッ!なんだ、やろうってのか!お嬢ちゃんよお!俺がたっぷりと可愛がってやるぜ!!」
甲冑が摑みかかろうとした時、少女の振り回した鍬が頭に当たり、兜が飛ぶ。男の頭からは一筋の血が流れ、少しふらついた。
「ッテメッ!殺してやるよ!!」
激昂した甲冑の男が剣を振り、少女は肩から胸にかけて袈裟懸けに切りつけられた。
少女は膝から崩れ、仰向けに、後ろに倒れこむ。
死んだか、と思ったが、まだ息があった。
しかし失禁し、目は光を失い、呼吸は既に弱々しい。
切りつけられ、露わになった白い肌。
「なかなか良い身体してるじゃねえか…」
甲冑の男は頭から顔半分を覆うほど流れた血を顎の先から垂らしていた。
舌舐めずりをし、目に入った血を手で拭う。
倒れた少女にふらつきながらも覆いかぶさり、服をビリビリと勢いよく破いた。
男は、虚ろな少女の血に塗れた胸を揉みしだき、ずぞぞ、とおぞましい音を立てながらむしゃぶりつく。
少女の光のない瞳から一筋の涙が溢れて流れる。
少女の身体が黒い霧に包まれると鱗が生え始めた。
「な、なんだこりゃ…!」
皮膚が膨張し、服は裂け、目と目の間からは角が生えてくる。
男を突き飛ばし、ゆらり、と立ち上がる少女。
突き飛ばされた男は建物の壁に途轍も無いスピードで打ち当たり、水風船のように破裂した。
〈ゆるさない〉
少女の筋肉が音を立てて急激に発達し、手足の先は大きくなり、爪が伸びていく。
〈ゆるさない〉
背中からは翼が生え、顔も爬虫類の顔に変化する。
〈ゆるさない〉
みるみるうちに、その姿はもはや人のものではなく竜、巨大なワイバーンそのものだった。
〈ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない〉
ワイバーンは辺りを見渡すと空に舞い上がり、血溜まりになり、燃えている村に炎を吐いた。
嬌声は悲鳴へ変わり、甲冑の連中は瞬く間に火だるまになる。
「ヒィッ、たっ助けてくれぇ!」
逃げ惑う甲冑の連中を嘲笑うように、じっくりと、それでいて死なない程度の炎でローストする。
憎悪の炎が村を囲んでいく。
〈外に逃げることも簡単に死ぬこともゆるさない。苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで死ねばいい〉
仲間達の亡骸も、炎で弔っていく。
全てを燃やし尽くすまで、ワイバーンは炎を吐き続けた。
馬に乗り、いち早く村から逃げ出した甲冑の男、号令をかけた男を除いて。
村を燃やし尽くしたワイバーンが追う。
男は脇目も振らず逃げたが、ついには追いつかれ、ワイバーンの鼻先が男のすぐ後ろに迫る。
馬の尻を叩き、全速力で走り、どうにか振り切ろうとするが、その距離は離れることも近づくこともない。
「ヒィッ」
振り返って剣を振り、追い払おうとするが…
バクンッ
ワイバーンがその上半身を一口で食い千切った。
下半身を残したまま、馬はそのまま彼方へ走り、見えなくなった。
口の中に残った上半身を吐き出すと、
グォォォォォォオオオオオッ
と、ワイバーンは悲しそうな叫び声をあげ、空高く、どこかへと飛び去った。
☆☆☆
耳鳴りが酷い。キィン、と甲高い音が頭の中に反響する。
映像が消え、網膜を白く塗りつぶされたように眩しくなり、脳内に書き込まれていた魔書の情報も終わる。
魔法も映像も何もかも、全てを処理できず、瞬時に目の前が真っ暗になり、力が抜け、膝から崩れ落ちた。
〈我の過去を見たのだな〉
「ああ、悪いのは人間だ」
俺はこの世界を守ろうと思ってここに来たわけじゃない。
〈分かっているのだ〉
ましてや人間がいつも正しいなんてのは妄想だ。人間の欺瞞だ。
〈人間以外も、なのだ〉
「この世界を人間が支配しているのはたしかだ。だが支配者イコール所有者とはかぎらない」
この世界には色々な種族が住み、生きている。
それぞれがそれぞれの営みを持ち、生きている。
誰であろうと、誰のものでもない。
世界は………誰のものでもないのだ。
『トランスフォーム』
アラクネ様の声だ。いつもより、優しく聞こえる。
「ワイバーン、俺は…人間だよな?」
〈ああ、お前は記憶を共有したのだ。人間であり、我であるのだ〉
ト…『トラン、スフォ…ム』…
ワイバーンに向けて、得たばかりの魔法を放つ。
処理しきれず混乱する頭の中で、ワイバーンを想う。
人間がお前の心を殺し、お前をワイバーンにした。
すまん。すまんな。
お前はシルフに戻れると良いな。
きっと姿形を変えることの出来る魔法だぜ。
トラックだってロボットになれそうな魔法だもん。
ワイバーンになる前の、あの可愛いシルフを思い浮かべてやったんだ。
目が覚めて目の前にいるのはカワイコちゃんで、頼むぜ。
〈我は我である〉
保っていた意識の糸が切れる。
いつの間にか、雨が降っていたようだ。
ブラックアウト。
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




