その26,前夜祭
趣の違う内容になっていきますが、ほんの少しだけ、お付き合いください。
立ち上がった、白く美しいワイバーンと対峙する。
「あんたは俺に危害を与える気はないだろう。俺も同じだ」
グルルルゥ
ワイバーンが唸り声を鳴らす。
今ワイバーンは恐怖、不安に駆られているのだ。
その表情から『読める』。
〈我は、お前を信じるのだ〉
〈お前は、今までの人間とは、何か違うのだ〉
俺はゆっくりと、革袋に手を入れた。
ワイバーンは少し硬直したが、何も言わずに黙っている。
神様。
すこやかロリータさん、アラクネ様。
見てんだろう。
今、革袋の中にあるのは、本。
魔書だ。かなり大きく厚い。
革袋よりも大きい魔書を取り出す。
〈それは…魔力の強い魔書なのだ〉
「使ってみなきゃ分からんが、ね」
どうなるかわからないが、とにかく今はこの魔書を開くしかない。
魔書を片手に持ち、その手を伸ばす。
今までのこのサイズの本ならば、またその情報量に耐えられないかもしれない。
そうなればまた意識が飛んでブラックアウト、もしかするとワイバーンにやられるかも知れないし、そうでなくとも、牛達の蹄に踏まれて穴だらけがオチかもしれないな。
覚悟を決め、閉じていた手のひらの力を緩めて魔書を開く。
魔書から光が放たれ、その情報が脳内に直接書き込まれていく。
それと同時に、映像が、目の前、網膜に映し出される。
これは、ワイバーンの記憶か。
〈我は、我である〉
☆☆☆
周りを森に囲まれた、小さな村。
村には数十軒の民家と家畜小屋、倉庫のような建物。
周囲には段々畑と放牧用の農地。
「やあ朝から精が出るね!」
50センチほど高いところにある畑。
鍬で耕す美しい少女に、初老の男が声をかける。
「ええ、やっとスコールも終わってこれからですから!」
雨季は作物を作ることが出来ないということのようだ。
鍬で耕した畑に、一筋に種を蒔いている。
畑のそばには牛が放牧されていて、草を食んでいたり、横になっていたり、自由に過ごしている。
食用の牧畜、というよりは、ミルクを取るためのものなんだろう。
「それより、明日の夜祭りの準備は大丈夫なんですか?」
「ああ、今晩には街から息子夫婦と孫も来るからね。昼飯を食ったら頑張って用意するよ!」
腕まくりをして二の腕を軽く叩き、ニコッと笑いながら手を振って去っていった。
しばらく一人で畑を耕し、種を蒔きを繰り返す。
___場面が変わり、夜。
村人達だろうか、テントの周りに人だかりを作っている。
「明日の祭りの前夜祭だ!さあ、みんなで飲むぞ!」
酔っているのか、赤い顔の年老いた男が木のコップを掲げた。
「ハハハ、父さん、そんなこと言って飲む理由を付けてるだけだろう?毎日毎日何かしらの理由があるな?」
眼鏡を掛けた男が木のコップを差し出しながら笑っている。
先程の少女だ。
「おじいちゃん、あんまり飲みすぎちゃダメだって、お母さんにも言われてたでしょ?!」
頬を膨らませ、手を腰に当てて諌める様子がとても可愛らしい。
その近くで、村人と少し服や格好が違うひとりの男。
その男が自慢げに、足元の鞄から瓶を取り出す。
大きさは一升瓶くらいか。
全体的に薄緑色で、装飾が施された豪華な瓶だ。
「明日の祭りの為に、と思って持ってきたんだけどさ」
「おい、そりゃエルフの古酒じゃねえか!シティボーイは気が効くねえ!」
シティボーイと呼ばれた男は、照れながら瓶の封印を切り、蓋をあける。
「嫁と娘と、相談して買ったんだ。どうせなら父さんやみんなに喜んでもらえるものにしようって。じゃあ酒だねってさ」
「違いねえ!」
わははははっ
宴は深夜まで続く。年老いた男も女も、若い男女も、みんな楽しく騒いでいた。
時には酒の勢いで喧嘩になったり、仲直りして酒を酌み交わしたり。
酔って寝ている者、子供を抱いて寝ている女性、まとまって寝ている子供達。
俺も、昔はこんな風に仲間と飲んだこともあったな。
楽しそうで良いな。
「お、おい、ありゃなんなんだ?!」
ひとりの男が大声を上げる。
男が指を差した方向、森の遠くからは、火の手が上がっていた。
その声、森を焼くにおいと炎に、ある者は子供を抱え走り、ある者は水がめを乗せたリアカーのようなものを持って森へ向かう者もいた。
しかし、その男達が森に入るや否や、悲鳴が次々と聞こえだす。
ひとりが走ってこちらに戻って来る。
「お前たち!早く逃げろ!森の中に逃げ…」
走りながら叫ぶが、前のめりになり倒れる。
その背中からは血が飛沫を上げて吹き出し、あたりを真っ赤に染めた。
パカ パカ パカ…
馬に乗った青い甲冑の男、その手には血で濡れた剣。
火の手のあがるほうから、鉄の甲冑を着た男達が続々と現れる。
その手にある剣もまた、血に塗れていた。
青い甲冑の男は、剣を振り、滴るその血を飛ばして言う。
「いいかお前らァ。逃げようったって無駄だァ。大人しく死ぬか、それとも逃げ回って死ぬかの2つしかねェ!」
その声を号令に、甲冑の男達は村人を襲う。
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!
ちょっと話の毛色が変わりましたが、もう少しだけ、お付き合いください。




