その25,フェンネル
本日2度目の更新です。宜しくお願いします。
山頂近く、少しひらけた場所に出る。
丘がいくつも重なり、段々と頂上に続いている。
森の暗闇を抜けて、久しぶりの日光を浴びた。
シェロちゃんが持ってきてくれた鶏政のザンギや果物を昼食に食べ、ひと休みする。
「はぁーなんとか頂上も見えてきたねー」
ため息をつき、草の上にゴロンと横になるシェロちゃん。
グラビティの効果で、歩くことに疲れはそれほど出ていないが、それでもかなりの距離を歩いてきたことには違いないだろう。
距離にしたらどれほどになるかな。
森を超えた向こう、遠くに見える街はとても小さい。
山頂はもうすぐそこだ。
そこには討伐依頼の目標、ワイバーンが住むという話だ。
巣があるのか、それともただの寝ぐらか。
家畜拐ってるって言うし、骨や血肉が飛び散ってたらどうしよう。
グロかったら吐いちゃうかもしんない。
うわー想像したらやっぱり怖えな。
今日のカナブンだって実際には恐怖も感じたし、今度は見たこともないワイバーン、つまりは竜ときたもんだ。
あまりにも現実味がないのか、シェロちゃんとサキュバスは寝っ転がりながらガールズトークに花を咲かせている。
今度服を作ってもらう時はこんな服が良いだとか、髪飾りがどうとか。あーでもないこーでもない。
危ないだろうし、なんならここで待っててもらってもいいな、なんて思っていると、遠くから花の香りがした。
甘い香り。
「ちょっと様子を見てくる。2人ともここで待っててくれ」
そう言い残し、花の香りに誘われるようにひらけた丘を進む。
程なくして、背の高い花が群生していた。
フェンネル。ウイキョウ。
甘い香りの正体だ。
遠くからなにかの鳴き声がする。
モー
モー
牛?
拐われたと言う家畜の声か?!
俺は静かに、そして急いで声の方へと植物をかき分け進む。
実際、植物の群生している中に入るとその背の高さは5メートルほどまでになり、やがて密集し、全く前が見えなくなる。
モー
動物の鳴き声を頼りに進む。
草の中を泳ぐように右左と腕を動かし、甘い香りにクラクラしながらも確実に歩みを進める。
ようやく向こう側が見えるようになってきて、鳴き声もすぐ近くだ。待ってろ、今助けてやるからな!
屈み込み、静かに、ゆっくりと前に進む。
しかし、そこに待ち受けていたのは、大きな白いドラゴンと、それを取り巻くたくさんの牛だった。
「死体どころか、目一杯生きてる牛じゃねえか」
つい漏れ出た自分の声にハッとし、そして白いドラゴン、ワイバーンと目が合う。
〈何の用なのだ、人間よ〉
優しい女性の声が脳内に響く。
ワイバーンは地面に伏せ、首を横たえている。
その肩から胸にかけての大きな古傷の跡が、白い肌に余計目立つ。
とにかく怒らせたらマズいな、今は余計なことを言わないようにしよう。
「拐われた家畜たちを助けにきた」
俺は立ち上がり、落ち着いた面持ちで、冷静を装う。
〈この者達は、自ら助けを乞うたのだ〉
〈ここはこの者達の自由の場なのだ〉
〈人間よ、立ち去るのだ〉
「そうはいかない。あんたを討伐しに来た」
このワイバーンとやり合って勝てる確証はない。が、剣を抜く。
〈また人間は、我を殺そうとするのか〉
「殺すかどうかはあんた次第だ。生死は不問だからな」
〈我次第、とはどう言うことなのだ〉
正直、ワイバーンには勝てない気がする。
ハッタリも時には必要だ。
「俺はあんたを殺すつもりはない。だから、家畜を戻してくれ」
グォォォォォォオオオオオッ
ワイバーンの叫び。悲鳴にも似た悲しい声だ。
〈それは、出来ないのだ〉
〈この者達は、我に助けを乞い、そして、我もそれに応じたまでなのだ〉
〈この者達の姿を見たならば説明も必要ないのだ〉
〈人間は、我を殺す。昔もそうだったのだ〉
〈我の父や母、兄も弟も、皆殺されたのだ〉
〈同胞は争いに巻き込まれて死んだのだ〉
〈村は焼かれ、我が最期の生き残りなのだ〉
〈その昔、我は怒りと憎悪の感情に支配されたのだ〉
〈我は…〉
〈我は…風の精霊〉
〈この世で一番美しいと言われた精霊シルフなのだ〉
〈怒りと憎悪で醜いドラゴンの姿となったのだ〉
〈だから、人間から生き物を救うのだ〉
悲しげな声で話しかけてくる。その感情までもが流れ込んでくるようで苦しくなってくる。リテラシーの効果かも知れないが。
「待て、俺は人間だが、あんたを殺しに来たわけじゃない。そして勝てる自信もない。あんたが家畜を戻してくれればそれでいい」
剣を足元に投げ、続ける。
「あんたがどうしたいのか、俺も望みを聞こう。だから、あんたも俺の望みを聞いてくれ」
両手を挙げ、こちらは攻撃の意思がないことを身をもって表明する。
〈良いのだ。我の望みは、この者達の自由、そして我の姿を元のシルフィに戻してみせるのだ〉
「俺にはこの家畜…牛達を返さなければならない。いやそれは依頼になかったな。自由は約束しよう。このままここで暮らすと良い」
〈うむ〉
「そして、あんたを元の姿に戻すことが出来るかどうかはわからないが、努力しよう」
腰の革袋に手を伸ばす。
ワイバーンが警戒し、スッと立ち上がる。
横たわっていたからあまり分からなかったが、その大きさは優に10メートルを超えているように見えた。
「大丈夫だ。危害を与える気はない。信じてくれ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




