その24,俺のケツ
轟く地響きと共に現れた、巨狼族のジェシー。
息を切らして半泣きでしなだれ掛かる。(重い)
「アタシ、毎日毎日、旦那ちゃまの事を考えながら、このコートを作っていたの…」
背中に背負っていたリュックのような大きなカバンから、2着のロングコートを出した。
黒のロングトレンチコート。ダブルブレストの。
「アタシね、あの日のことを思い出しながら、毎日毎日、夜なべして、このトレンチコートをつくったのヨ…。アタシがご奉仕するべきはヤキトリ様、アタシの旦那ちゃまだって…」
ジェシーからトレンチコートを受け取り、2人で袖を通す。
縫製がしっかりしていて、サイズも流石ぴったりだ。
店のディスプレイには無かった大きめのフードが付いていて、いかにも冒険者らしい格好良さ。
シェロちゃんの方は、タイトな仕上がりだ。胸を強調した仕上がりに、俺も満足している。
「で、わざわざ届けに来てくれたのかい?」
「そりゃそうヨ。作品を、いち早く完成させたいじゃない?これはヤキトリの旦那ちゃまのモノ。旦那ちゃまが着て、初めて完成するの」
両手を広げ、熱弁する。
というかなんなんだ旦那ちゃまって。
「しかし気持ちは有難いが、お金だってまだまだ用意出来ないぜ。討伐依頼のワイバーンだって、実際に退治出来るか分からないしさ」
『お金なんていつだっていいのよ』と言いながらリュックをゴソゴソとしたかと思えば、中から何着も服が出てきた。
「これから先、まだまだ着替えも必要でしょ?サイズは分かってたからいくつか、店のもので申し訳ないケド」
そういうとフリフリのレースのついた1枚を取り、シェロちゃんに合わせる。
「せっかくお人形さんみたいなカワイコちゃんなんだもん、可愛い服を着せたいワ〜」
「わ〜!可愛い〜!こんな服着た事ないよ〜!」
シェロちゃんも満更ではない感じ。
まあいいか。後でいくら取られるかわからないけど、2人とも楽しそうだしな。
すると影がシュルッと伸び、サキュバスがまるで井戸から這い出てきたホラーの登場人物のように現れる。
来る、きっと来る、とおもったよサキュバス。
「あら、サキュバスちゃんもいたのネェ。どうしようかしら?サキュバスちゃん綺麗だし、貴女にも可愛い服を着せてあげたいワ〜」
「べ、別に、私は羨ましくなんかなくってよ、ただ今日みたいに服が濡れたりしたら着替えも無いし!」
腕を前に組んで斜め上を向いているサキュバス。
心なしか頬も紅潮さ、恥ずかしそうだ。
ツンデレかよ。そういうのもいいじゃない。
「オーケー、分かったわ。サキュバスちゃんの服も持ってきてあ・げ・る!でもドコに居るかわからないと困るわね…」
確かに。
常に狼煙を上げながら行軍、というわけにもいくまい。
困った。
困った時の神頼み。革袋だ。
腰に下げた革袋に手を入れる。
うーむ、これは知っている感触だ。
革の手触りで、ちょうど革袋ほどの大きさの袋状のものだ。
取り出してみると、全く同じような革袋。
フムン、どういうことだ。
中に手を入れてみると、なんという事でしょう。
俺のケツだ!
つまり、こっちの革袋に手を入れるじゃん?
こっちの革袋から手が出るじゃん?
スペアポケットやんけ!!
「そうか、この革袋をジェシーに貸せばいいんだ」
シェロちゃん、ジェシー、サキュバスの3人は腰を抜かしたように座り込み、それどころではない様子だった。
そりゃそうだ、革袋から腕がにゅっと出てくりゃホラーだよな。
「ジェシー、この革袋は俺の革袋と繋がっている。とりあえずどんな物でも出し入れ可能だ。出来上がったらこの中に入れてくれないか?」
「わ、分かったワ…仕組みは分からないけど、旦那ちゃまといつでも繋がっていられるのネ…」
恐る恐る、革袋を受け取り、リュックに仕舞うジェシー。
「じゃ、アタシは仕事に戻るワ!サキュバスちゃんも楽しみにしててネ!」
手を振りながらウインクを飛ばし、駆け足で帰っていく。
ドドドドドドドドドドドドッ
風のように来て風のように去って行ったな…というか帰りもうるせえぞ。
置いて行った服は革袋に仕舞っておこう。
ニコニコしながら影に戻っていくサキュバス。
案外女子っぽいところもあるんだな。
しかしスペアポケットか…前々から思ってはいたが、ますます四次元ポケットチックになってきたが大丈夫か。
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




