その18,クルクル
一口大に切り、にんにくと生姜に漬け込んだフェルニル肉。しばし漬け込んだお陰で、切った時よりもしっとりとしている。
これに小麦粉、卵を1つ割り入れ、よく揉むのだ。
ボウルの中でこれでもかというくらいに揉む。揉み揉みする。
よく揉み込むことで小麦粉のグルテンがいい感じになって、いい感じの衣が出来上がる、と思っている。実際、揚げた食感も良くなる。
ひたすら揉み込むと、肉にしっかりと衣がまとわりつく。
手のひらに付いた衣を取り、手を洗う。結構しつこいんだが、それだけ肉にもしっかりと付いているということだな。
先程カツを揚げた鉄鍋の油には、焦げたパン粉のカスが浮いているので、まだ熱い油の入った鉄鍋を持ち上げ、油こしを置いた油缶に油を一度戻す。
「ピクシー、火を頼む」
調理後、火を弱めていてくれたが、また再開だ。カスの取れた油を缶から鉄鍋に戻す。
油が温められ、表面が陽炎のように揺らめく。
「ご馳走さま、ヤキトリ様!」食べ終わったシェロちゃんが様子を見に来る。
ドライアドは先程の使い終わった皿とフォークを洗っていた。
「旦那、今度は何をつくるんですの?」
サキュバスもシェロちゃんとは反対に回り込んで覗き込む。
「こっちの方がフリッターに似ているかもしれないな。これは『ザンギ』というんだ」
衣がついた肉を油に静かに投入していく。途端に肉は浮かんできて、その衣に閉じ込めていた、にんにくと生姜の香りを解き放つ。
「ンンンッはぁあん!
と、とてもいい匂いがしますわ!!」
サキュバス、よだれが垂れているぞ。
皿を洗っていた手を止め、ドライアドも小走りで駆け寄る。
「ガーリックの芳醇な香り!」
ドライアドも、よだれが垂れている。
肉を転がすように裏返し、満遍なく火を通す。
「これは2度揚げするから、少し時間がかかるぞ」
「「「えーーーーーーーーーーーっ?!」」」
まあ時間はあるから、3人には色々とやっておいてもらおう。
確か、卵と油と、酢だったな。酢はぶどう酒を発酵させたとか言うビネガーがあった。ワインビネガーみたいなもんだな。酸味は強い。
ボウルに全て入れ、泡立て器で混ぜる。
「さっきの調子で、いや、もっと激しく混ぜ混ぜしまくってくれ。
次第にクリーム状になるはずだ。手早く頼むよ」
そう言ってシェロちゃんにボウルを手渡す。するとまたしゃくれ顔で懸命に混ぜ始めた。
かなり時間と労力のかかる作業だが、この世界では見たことのない調味料だ。食べたらきっと驚くぞ。
揚げているフェルニル肉の、その表面の衣が薄くキツネ色に色づき、表面の泡も小さくなった。キツネ色になったものから一度上げておき、寝かす。
この時点でも充分美味しそうな匂いと見た目だが、しっかりと芯まで火を通さないとならない。フェルニル肉が鶏とは違うのは確かだが、肉厚だし、それにまぁ魔物だし、お腹を壊したとしたら最悪の事態も想定出来そうだ。こわいこわい。
「これ、ぜんっぜんッッックリーム状になりませんわよ!」
交代また交代を重ねて、油と卵と酢の入ったボウルはサキュバスの手にある。
「根気と時間が必要だからな、ちょっと貸してみな」
ハァハァゼェゼェと息を切らしてプルプルと震えているサキュバスからボウルを受け取り、タオルの上に置く。
「ドライアド、ちょっと押さえててくれないか」
ボウルの縁をしっかりと押さえるよう指示し、皮袋の口を開く。
「出ておいで、風のピクシー」
俺がそう言うと、袋から緑色のピクシーが飛び出してくる。
「オテツダイ??オテツダイ?!」
横回転しながら目の前の宙をくるくる滑る。
「ピクシーはクルクルするのが得意だろ?」
回るピクシーの下に手のひらを添えると、ゆっくりと止まり、ぺたりと手の上に座る。
「クルクル?スキ!
クルクル、マケナイ!ゴシジンサマ、タスケル!!
ゴシジンサマ、オテツダイ!」
ニコニコと笑顔でガッツポーズするピクシー。
シュが言えなくてゴシジンサマ。
「よし、じゃあこの泡立て器でクルクルしてくれないか?周りに飛び散らないように、気をつけるんだぞ。ピクシーなら出来るな?」
手のひらよりも小さいサイズのピクシーは「ガッテンショーチ!」と言うと、泡立て器を抱きしめるように抱えて、ゆっくりと回転し始める。
回転のスピードが徐々に上がり、たちまち中身が乳化し始める。
「初めからそうして頂けたらこんなに苦労しなくても良かったのに…」
ヒィヒィ言っていたサキュバスが恨めしそうにこちらを見る。
「ま、美味いもんは多少の苦労をした方がより美味く感じるもんなのさ」
あっと言う間に出来上がった白いクリーム状の調味料。マヨネーズである。
もったりとしたマヨネーズに変わっていく様子を目の当たりにしたドライアドは、その味も想像がつかないのだろう、興味深々といった面持ちだ。
「エライ?エライ?ヤクニタツ?」
ボウルの泡立て器から離れ、俺の鼻にしがみつくピクシー。
「ああ、本当にお前らは役に立っている。これからも頼むぞ」
「ヤクニタッタ!ヤクニタッタ!」
ピクシーはピュンピュンと俺の周りを飛び回り、そのまま皮袋に戻っていった。
マヨネーズも出来上がったところで、フェルニル肉の2度揚げを開始する。
薪をかまどにくべ、
「強火にしてくれ」と火のピクシーに命じる。炎が大きくなり、油の温度が上がっていくのがわかる。
調理台の上にあったカゴの中からレモンを1つ貰う。
「ドライアド、これをくし切りにしておいてくれ」
「かしこまりました」
ドライアドばかりに頼むもんだから、シェロちゃんがむくれて頬を膨らませる。
トングで1つずつ、一度揚げたフェルニル肉を掴んでゆっくりと油に入れる。高温の油に入れられた肉は、染み出した肉汁を焦がし、肉の脂とニンニクの匂いを発しながら、更に色づいていく。
しばらくして、こんがりと揚がったフェルニル肉をバットに取り出した。
ニンニクと生姜が強く香り、カツとはまた違う肉の匂いに、一気に食欲を誘われる。白飯が無いのが悔しい。しんどい。つらい。
あの飯屋の唐揚げはこんなに香りが強くなかった。まあスパイスは高級品らしいし、ニンニクもそんなに使わないのかもな。
3人の美女はというと、だらしない顔でよだれを垂らしている。せっかくの綺麗な顔が台無しだぜ。だがそれが良い。いやいや何を言ってるんだ俺は。
大きな皿に紙を敷き、山に積んで盛り付ける。皿の端にくし切りのレモンを置き、マヨネーズは小さなココットに移してレモンの隣へ。
「さあさ、お待ちかねの『塩ザンギ』だ。レモンを絞ってまず1つ、そのあとにその白いクリーム状のドレッシングをつけて食ってみてくれ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!




