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その17,穴という穴

「火のピクシーおいで」


 衣を混ぜまくる3人を横目に、皮袋に呼びかけると中からピクシーが飛び出てくる。


 召喚したら懐いてしまったピクシー。役に立ってもらうぞ。


 かまどに薪をくべる。


「ピクシー、火を」


 ピクシーが薪の間に滑り込むと、中からたちまち煙が上がった。


 間もなく火がパチパチと音を立てて現す。


「エライ?エライ?ピクシーエライ?」


 ピクシーが俺の周りをニコニコしながらフィギュアスケートを滑るように飛び回る。


「ああ、偉いぞ、役に立った。ありがとな」


「ワーイ!」


 喜んで目の前で数度回転すると、かまどに戻っていく。


 火のついたかまどに大きい鉄鍋を置き、油の缶から直接たっぷりと注ぐ。


「ヤキトリ様、もしかしてフェルニルのフリッターを作ってくれるの?!わたし大好き!!」


「揚げ物という点では正解だが、フリッターとはまた違うな。まぁ楽しみにしてなよ」


 そう言ってサキュバスからボウルを受け取り(まだ混ぜていたかったようだけど)、8等分に切ったフェルニル肉を突っ込む。


 ゆらゆらと表面から熱気を帯びてきた油に、自家製パン粉をひとつまみ散らすと、パッと浮かび上がる。


「よし、ちょうど良い具合だ、危ないから少し離れてろ」


 片腕を3人の前に伸ばして制する。


 衣のボウルに入れたフェルニル肉に、バットのパン粉を満遍なくまぶし、余分なパン粉を軽くはたき落とす。


「さて、揚げるぞ」


 ゆっくりと鉄鍋の端に沿って、衣を纏ったフェルニル肉が皮を下にして沈んでいく。


ジュワーッ


 途端にパン粉の香ばしい香りが漂ってくる。


 2枚目3枚目…次々に同じように油に入れていく。


「ピクシー、少しだけ弱くしろ」


「ハーイ!」


 AIで家電を操作するのってこんな感じなのかしら?


 ジュワーーーーーーッ

 プツプツプツプツプツプツ



「「「ゴクリ」」」

 少しづつ色づき、香ばしい胡椒の香りがするフェルニル肉に、3人が同時に生唾を飲む。


「はっはっは、もう少し待ちなって」



 水に晒しておいたキャベツをザルにあけ、フェルニル肉を裏返す。程よくキツネ色…よりやや濃いめに色がついた表面から大きな泡が立つ。


 ぶっちゃけフェルニルってどんな肉か分からんし、しっかりと火を通した方が無難だろう。こんな異世界で腹を壊してみろ、耐性のない俺は、最悪死ぬかもしれない。焦りは禁物だ。もう少し。もう少し待つんだ俺。


 4人揃って無言。真顔で時折喉を鳴らしながら油の中のフェルニルを凝視する。



 表面の泡が小さくなり、音もまた、静かになる。


 トングで網のついたバットに上げる。静かだったフェルニル肉がジュワーッと音を上げ、その香りもまた、一層豊かに広がっていく。


「「「じゅるっ!うわぁ!美味しそう!!」」」


 女子3人、よだれを垂らしそうな勢いで揚げたてのフェルニル肉に群がる。



 そう、これはフェルニル肉のチキンカツなのだ。



「少し置いて、寝かしておくんだ。そうすると芯まできちんと火が通る」


「えー、ヤキトリ様ぁ!今すぐ欲しいよぉ〜!」


「早く!こればかりは主従に構っていられません!」


「今までのどんな男たちよりも魅力的だわ!」



 頬を紅潮させ、上目遣いのシェロちゃん、ドライアド、サキュバスのおっぱいがぎゅうぎゅうと迫ってきて柔らかい。しかしこれがあくまでもカツの話であるのがちょっと悲しい。ちょっとだけ。



  真っ白で縁に金の装飾を施してある皿を4枚並べ、ザルにあけていたキャベツを均等に盛り付ける。

 少し冷めたカツをまな板(リペアとヒールの魔法で新品同様、除菌もバッチリです)に乗せ、ナイフを入れる。


 ザクッ


 切り口から肉汁が染み出してくる。思ったよりも柔らかく仕上がっている。


 ザクッ ザクッ


 それぞれ食べやすいサイズに切り分け、皿に盛り付けた。


「ソースがあれば良いんだが、今回はフェルニルの味見も兼ねてということでこのまま食べてくれ」


 調理台の端で4人並んでフォークを持つ。


「「「「いただきます!」」」」


 サクッ ジュワー


 衣のさっくりとした歯ざわりが新鮮だったようで、3人とも目を丸くする。噛むと熱い肉汁が口の中に溢れ、肉の香りが鼻に抜ける。塩コショーがアクセントとなり、後を引く旨さだ。


 思っていた臭みのようなものもなく、紛れも無いチキンカツの完成だ。


「あたしの好きなフリッターよりも何倍も美味しいよ!!

サクサクでジュワジュワで!」


「この何百年、一度も食べたことのないフリッターです!!

このパンの粉もとっても香ばしくて!!

一度も食べたことのないフェルニルです!!」


「ああ…穴という穴からこの香りが噴き出してしまいそう!

ああんっ!もっと!もっと!もっと突き上げて!」


 俺がバイトしてた店ではこんなに感動してくれることはなかったな。なんか感動だ。1人おかしい奴がいるが。


「美味いか?良かったよ。もう一品あるから、ゆっくり楽しんでてくれ。よく噛んで食べるんだぞ」



 俺はチキンカツを一切れ、口に放り込んだ。


ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!


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異世界タクシー 〜行き先は異世界ですか?〜
こちらも連載中です。宜しくお願いします。
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