その13.つむじ風
薄っすらと意識が戻り、身体から重力が失われる。
目も開かず、指先を動かす事すらままならない。身体が言うことを聞かない。
辺りが眩しいことは目を瞑っていてもわかる。
しかし、立っているのか、横になっているのか。
沈んでいるのか、浮いているのか。
上なのか、下なのか。わからない。
まるで地面から空に落ちそうな気分だ。
すると、突然全身を水中に埋めたような、身体に重力が戻る感覚。
同時に辺りの光がフェードアウトしていく。眩しさは消え失せ、闇。少しずつ目を開けた。
どうやら…一瞬の出来事のことだったらしいが、流れ来る情報のおかげで何百年も生きてきたように感じる。
虚ろな目に半開きの口。
今回は目の前にあった鏡のお陰で、どれほどのアホヅラだったのかを確認できた。ひどい。
重力を操る魔法のようだが、いまいち使い道というか、使い方がわからない。しかしとりあえずは、すごい魔法らしいから、そのうち色々と試してみよう。
「貴方は、この星を支配する可能性を手にした、と言っても過言ではないわ」
おっぱいが、もとい、サキュバスが物騒なことを言い出す。
「支配、だって?」
思わず声がひっくり返る。使い道も使い方もわからないし、そんなに怖いものなら使い方なんて知らなくてもいいんだけど?!
「例えば、貴方の周りだけの重力を変化させたとするわ。そこに矢や石が飛んできたら、どうなる?」
「重力が上がれば矢や石は落ちるし、重力が下がればスピードも変化する、のかな?」
正直、物理とかそのあたりの成績は人に言えないくらい悪かったから、どうなってどうなるとかはよくわからんけど。
「全て貴方が思ったように、物を動かすことが出来るのよ」
なるほど、色々思いついたぞ。
俺はシェロちゃんの手を取り、空いた手を自分の胸に当てる。
「グラビティ」
薄紫の光が手から放たれ、俺とシェロちゃんを包み込む。途端に身体が軽くなり、なんとなくフワフワする。
「うわぁすごい!身体が浮いてるみたい!ほわほわしてるよぉ!!」
シェロちゃんが驚くのも無理はない。おっぱいがふわふわと揺れている。
「俺たちだけ軽くなるようにイメージしたんだ。成功、かな」
俺がそう言うと、ヒュッとつむじ風が通る。まるで風の勢いでくるりとひとまわりしたような視界が巡る。
『必ず貴方の役に立つわ。面白いものを見せてくれてありがとう。またその魔法を使う時に見せてもらうわ』
サキュバスの声が頭に響くと、店もサキュバスの姿もなく、俺たちは路地に佇んでいた。店の入り口があった場所は、苔生したレンガの壁になっており、初めからそこには何もないようだった。
「何も、なくなっちゃった、ね…」
シェロちゃんが呆然と立ち尽くしながら小さく呟いた。
「まあ、またあの魔法を使ったらサキュバスも出てくるんじゃないかな、きっと」
さて、と…お昼ご飯の材料を買って、それからギルドに戻って依頼探しだ!
ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!