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その8,紅茶

 シェロちゃんのおじいさんの家、我が住処に戻る。

 日も落ち、外は既に薄暗くなってきていた。


 掃除をし、綺麗になった暖炉に薪をくべ、ピクシーが火を入れる。役に立つじゃないか。



 今朝はこの汚いテーブルに突っ伏して寝たが、今夜はそうはいかないだろう。なにより疲れた。


 その突っ伏した時の椅子にニコニコしながら座っているシェロちゃんも、今日からここに住むと言って聞かない。


 ベッドも直さなければならないし、直したところで『本日早速、初夜を迎えまーす』とはいかないよな。本当に変質者と違わないもんそんなの。


 困った。困った?俺には困った時の神頼みがあるじゃないか。


「お茶持ってきたから飲む?」


 シェロちゃんの声に頷きながら革の巾着袋をまさぐる。


 これは…また魔書だ。面倒くさくなってない?とりあえず魔書読ませとけばなんとかなるっしょとか思ってるな。


 どれどれ…。


 俺はまた巾着袋より一回り大きい魔書を取り出す。


 ピクシーを召喚した魔書は手のひらサイズだったな。

 使う魔力やそのレベルに応じた大きさなのか、それともサイズによって封じる魔法が限られるとか?


 まぁいい。このサイズならきっとまた使える魔法に違いない。


 帰路に街の店で買ったであろうお茶とポット。

 暖炉の上で沸かしているお湯もちょうど良い温度になった頃だ。


 嗅ぎ覚えのある香りが鼻を撫で、無意識にスンッと吸い込む。これは、紅茶だ。


 紅茶は茶葉を擦って茶葉由来の酵素で発酵させたものだったかしら。りんごと合わせればアップルティーに出来そうだ。


「あ、また魔書がある!その袋、なんでも入るしなんでも出てくるんだね!!」


 そうなんだよ、なんでも出し入れし放題。仕組みは分からんが。


「さて。この魔書からまた魔法を覚えよう。変なのじゃないといいな。また気絶なんてなかなか気分の良いもんじゃない」


 立ったまま紅茶を一口飲み、部屋の中央にあるテーブルに本を置く。

 おもむろに表紙を開くとまた脳内に魔法の情報が上書きされる感覚。ピクシーの召喚の時には無かった。

 上位魔法になると脳みそが追いつかないのかもしれない。


『リペア』


『ヒール』


『エンチャント』



 すこやかロリータ様の声が頭の中に響く。


 どうやらこの本は『なおす』本だったようだ。


 つまり、あのベッドも、ドアも窓も、全て直すことが出来る。


 ふむふむ、ヒール、ということは病気や怪我も治すことが出来そうだ。


 エンチャント、は多分、物に何かしらの付加をかけられる、と考えれば良いかしら。


 ふむふむ、ふむふむ。


「ヤキトリ、様?大丈夫??」


「ああ、この本で『リペア』、『ヒール』、『エンチャント』を入手した。明日シェロちゃんの家も直せるぜ」



 ガタンッ


「いった〜い!」

 びっくりして立ち上がろうとしたシェロちゃんが膝をテーブルにぶつける。

「どうした?もしかしてこれも上位魔法だったか」


「上位どころか!ヒールやリペアは下位魔法だけど、エンチャントは王様とか教皇様とかが、褒美の品にかける魔法なの!たまに装備職人のドワーフが使えることもあるけど、魔力の消費が上限を超えるから命懸けの魔法だよ!!」


 そんなに凄い魔法なのか。褒美を与えるような立場でもないし使い道は今のところ分からないが。それによくあるご都合主義過ぎないか?


 とりあえず寝床の確保が必要だ。


 俺はベッドに向かって手のひらを広げかざす。

 詠唱とか必要なのかな?そんなもん分からん。


「『リペア』」


 光の筋がベッドに向かって飛んでいくと、その光が燃えるようにベッドを包み、まるで新品のように変化する。


「ベッドが丸々直っちゃった…」


 シェロちゃんがその場にペタッと座り込んでしまう。


 今の一瞬で、ベッド本体、たぶん布団だったであろうもの、枕だったんだろう風化しかけてたもの、それらの小さな傷や失った部分さえも全て直してしまった。


「リペアの魔法で直せるの、物の一部だけだと思ってたよ!これだけ直すのに、普通なら何度も何度もリペアしないといけないもん!」



 なるほど、魔法の威力や効果は魔力に準じるということだな。

 攻撃系の魔法なんかだと大変なことになりそうだ。

 出来れば攻撃系は習得しないで生きたいな。


「そうだ。良いことを思いついたよ」

 俺は疲れている。なるべく休みたい。心身ともに回復したい。


「布団に『ヒール』を『エンチャント』」

 再びベッドが光に包まれる。


「成功していれば、毎日寝てるだけで回復だ!」

 布団って元々そんなものだった気がするが。

 しかしこの目論見が成功すれば怪我や病気も治りが早いだろう。


 今夜はもう寝よう。魔力を使ったせいか眠たい。

 ほらピクシー達は巾着袋に入りなさい。

 もうだめだ、俺はこの、ベッドで、回復を…。


 ベッドに倒れこむ。

 もぞもぞと隣に横になるシェロちゃん。

 いつの間にそんなセクシーなスリップ姿に…。


 シェロちゃんも、ベッド、で寝るのかい…

 明日はたっぷり、回復してるぞ…


 シンと静まった中、パチパチと薪の燃える音だけが響く。


 ブラックアウト

ここまで読んでいただきありがとうございます。拙い文章ではありますが、評価、感想など頂けたら励みになりますのでよろしくお願いします!

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異世界タクシー 〜行き先は異世界ですか?〜
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