ただの村人が邪神の力を手に入れました
村があった。その村に遊んでいる一人の少年と少女が一人。
「大きくなったら、僕はねこの村を守るんだ」
無邪気な言葉。
「そうだね、私も負けないよ。絶対に騎士になれるように頑張るよ」
「ええ!お前にそんなこと出来るかよ」
「やってみなきゃわからないでしょ」
こんな言い合いでも楽しかった日常。
だが、当然そんな毎日は続かなかった。
「え?」
「だから、私は騎士になれるの、才能があるらしいよ。ずっと待っているからね」
ショックだった。能力を受けるため洗礼に言った際彼は何の才能もないと言われたのだ。
そんな彼が笑顔で別れた少女が居なくなる現実を受け止める以外にできなかった。
彼女は待っていると言ってくれた。才能のないと言われた俺を。けど村の連中は俺の両親が死に、俺に何の才能もないとわかると一気に今までの態度を変えた。
さんさんいじめられ、晒され、有る事無い事を押し付けられた。
「ごめん。俺、行けそうにないや。ごめん」
そうして俺は自殺を図った。身投げ。どうせなら誰にも見つからない用に谷に落ちよう。彼女はもう何年も帰ってきていない。少なくともこの村で遺体が発見されなければ、彼女に迷惑を掛けることはないだろう。
「辛い人生だったなぁ。ああ、人の人生はどうしてこうも理不尽なのだろうか」
その言葉を最後に彼は、崖から飛び降りた。
☆ ☆ ☆
「・・・・ここは?」
目が開いた。体が痛い。同時に自分がまだ死んでいないことを実感した。ただ、暗くてあまり見えない。
「目覚めたか」
声が聞こえた。下の感触は柔かかった。おそらくベットにでも寝かされているのだろう目の前に居たのは爺さんだ。杖を持ち、目が開いているのかそうでないのかわからない。
「あなたは?」
「ワシか?そうだな、戦いに敗れ生き場所を失ったただのジジィかな」
「なんですか?それ」
爺さんの言葉の意味は理解できなかった。
それもそのはず、なぜなら眼の前にいるのは、かつて邪神と呼ばれ、神話の対戦で一人で他の神々を相手にできるくらい強い存在だ。
そんなことを彼が知るはずもなく。
「お主、何故こんなところで身投げを?見たところまだ若い」
「そうですね。まぁ軽く人間に絶望しまして」
彼はこの爺さんに色々質問された。
その全てを答え終えると。
「ふむ、おかしな話じゃな」
ふと爺さんが語りだす。
「何がですか?」
「お主のことだ。ほほう。器か、やれやれ全くいつまでたってもあの愚か者どもは消えないな」
「・・・」
何を言っているのか理解できない。
「さて、お主の傷だがもう治っておるぞ」
「え?」
そう言われ体を動かすと何の痛みもなかった。
この一瞬でそれをこなす事ができたのは彼がまだ神だからなのか、それとも・・・・
「何をしたんですか?」
「別にただ、長年生きているとこんなことも出来るんじゃよ」
やはり、この老人の言っていることは理解できない。
「さて、お主にはわしのやってもらいたいことをお願いするかの」
「やってもらいたいこと?」
何故?と首をかしげる。
「なに、命を救ってやったんだ。願いの1つくらい聞いてくれ」
「はぁ、誰も生きていたいなんて思っていないですよ。第一、自殺志望者を捕まえて何を救ったっていうんですか?」
それが理解できていない。
「気付いていないのか。仕方あるまい。本当に衰退しているのだな」
「アナタは、一体何をしよう言うのですか」
「別に、ただもう長くないからな。誰かに俺を託したかっただけだ」
そういうと爺さんは俺の頭に手を置いた。
「お前に俺の全てを預ける。この力を使うのはお主自身だ。どう使おうが構わん。若造が命を簡単に捨てるなよ。可能性はまだまだ無限大だ。そして、それこそお前の才能!神と器として完成されたものだ。どうせ捨てるもの、俺がもらうぜ」
彼の頭の中に色々な情報が入ってくる。戦い方。魔法の使い方。体の感覚や、考え方ですら、それはまるであの爺さんと同化した気分になった。
「これは。はぁ。そういうことか」
爺さんの言ったことも何かも理解した。
「アンラ・マンユ。それが今の俺の中にある能力の真名か。俺らしい名だ。だが、俺はアンラ・マンユなんて名前は嫌だから、いっその事名を改めよう。俺には名乗るべき名前も持っていなかったし、『アバドン』なんてどうだろうか。うんいい響きだ」
今までにない力を感じた。拳を握る。
村にはもう帰らない。この力を得た今。今更あそこにいる必要はない。
もう、やるべきことは一つだけだ。彼女に会いに行くだけ。
「なんとか、会いに行けそうだよヴァレリア。でも、やっぱりごめん。約束果たせそうにないなぁ」
そう言って彼はその場から消えた。
神の力、瞬間的移動。スキルや能力ではなく神の権限であるため、特にデメリットはないが、あまり人の多いところでは使用しない方がいい。
◇ ◇ ◇
「ハァッ!」
訓練に勤しむ一人の少女が居た。彼女の名はヴァレリア。村を離れ、いつか少年と夢見た願い。一緒に人々を守ろうという願い。村を出てもう5年。私は現在15歳だ。
世間一般では、もう成人。それでも彼女は彼の存在を待ち続ける。
「相も変わらずに随分熱心なことで。そろそろ時間だ」
声をかけてきたのは私の同期でしかも私と同い年の女性だ。名前はジェシカ。此処で話せるのなんてこの子だけだと思う。
「もうそんな時間なの?わかった、今行く」
ヴァレリアが自室に戻り、騎士団の正装に着替え、いつもの集合場所へと向かった。
「ああ、今日もいい天気だな。それじゃ、手を向くなよ!。いつもどうり厳しくね。ここは秩序が重視されている国だから」
「「「はい!!」」」
団長のいつもの言葉を聞き終え、町の見回りだ。王国騎士は最も強く、最も賢く、最も正しくあれ。これがこの騎士団のポリシー。
堅苦しいと思うかもしれないが、それで守れるのならば安い。
「はぁ。出会いねぇな」
「おっさん臭いわよジェシカ」
「だって、任務ばかりでいい人とも会えないし、その点アンタは想い人がいるようだけど」
ジト目でジェシカがヴァレリアを見るが、等の本には「そうだねぇ~」と何処ふく風である。
「絶対!いい男を見つけてやるんだから!」
何故か対抗心を向けられたと言わんばかりのヴァレリアの表情。
幼馴染のことを思わない日はない。