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仮装現実  作者: 伊藤 悠
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エピローグ ~幸福~



「いや~それにしてもびっくりしたよ。実はお前も偶数のトランプにガン付けをしていたとはな」


詩杏が楽しそうにそう語りかけてくる。


今は屋上で二人でお弁当を食べている。


「そんなに驚くことじゃないよ。あいつらの手の内はわかっていたし、ならば裏をかけるかなと思って念のため用意していただけさ。仮にぼくのガン付けがばれても録音した音声データがあったからお前らもイカサマしていたと脅しもかけれたしね」


「なるほどな。君は実に聡明なのだな」


彼女はいつもと変わらない口調で、いつもと変わらない笑顔をぼくに向けてくれる。



あの後、結局どうなったかというと、イカサマが互いに発覚して勝負が無効に・・・・・・なるかと思ったが、向こうからオカルト研究会でいいから正式な部として発足しないかという意外な提案がった。


彼らはただ教室から抜け出し部室でゲームがやりたいだけであって、まじめに活動する気はないのだという。ならば正式な部として発足させるために頭数としてだけとらえられればぼくらにとって何の不満もなかったわけで・・・・・・


「つまり、ぼくたちははじめからあいつらに踊らされていたということか」


そうなのだ。

奴らは勝ったら勝ったで今度は逆の立場で同じ提案をすればいいだけのこと。


「結局ぼくらは独り相撲をとらされていた訳か」


「まぁよいではないか。君はこれからもオカルト研究に励めるし、彼らはゲームを思う存分堪能できるし、WINWINだろ」


「・・・・・・」


ここ最近、彼女は実に変わったと思う。


ぼくの前にいるときだけは、自然と素の自分を見せてくれるようになった。

誰かが言わずとも、自然と僕らは付き合いだし、今の関係となっているが・・・・・・正直悪くはない。


「おい、ほっぺたにおべんとついてるぞ」


「・・・・・・」


かわいい顔して成績を鼻にかけ、万能な彼女を持つのもいい経験だ。


素の自分で接してくれる彼女にたいして、ぼくも素の自分で彼女に接するようにしている。

しかし、やはり二人きりでもあまりうまくお互い素で接することができない。


それは何故か。


人間は他人に対して真に心を開くことなどできないからだ。


それがひねくれている解釈だと思うなら思えばいい。

しかし、考えてみて欲しい。人は、どこかしらで必ず自分の本心を押し潰して生活しているのだ。他人に気を遣い、どこかで遠慮しなければ他人とともに生活など営めない。それは親しい家族であっても例外ではない。


だから人は他人との信頼ではなく、安心を求めるのだ。


自分が安心して過ごせる空間、コミュニティを作り上げることに必死になる。


ゲー研だってそうだ。彼ら三人が安心して過ごせる場所として、あの部室を確保した。

詩杏もそうだ。楽しく不安なことなど何もなかった兄とのオカ研での部活動。それをなくしてからはひどく不安定な心持ちだったのは彼女の態度から明らかにわかることだった。


だから彼らは安心して過ごせる場所を取り戻すため、あんなに必死になって戦った。


だが、やはり一番は安心の確保だ。


ゲー研の部長は、はじめぼくらに対して敵対心を持っていた。

それははじめの言動でもそうであり、負けた方が吸収されるという条件をあっさりと受けたことからも読み取れる。

自分たちの安心の場をぼくらに荒らされたくないと思ったのと、ぼくらになめられていると思ったのだろう。そのプライドの高さからだろうか、ぼくらを屈しようとしたのだ。


だが、いざ負けてみると彼は自分たちの保身を最優先した。

勝負前まであった敵対心や、プライドなどは二の次だった。

安心の場を守るためにそれらを捨てたのだ。


人と人は真に信頼し合えることなどできない。

だがともに安心することはできる。


安心を得ることは人間にとって必要不可欠な要素である。


ぼくたちはそのために生きている。


そのためならばすべてを捨て去ることもできるのが我々だ。

でも、ぼくたちならきっと大丈夫だ。



だってぼくと彼女は――偽りの仮面の中で・・・・・・仮装現実の中で生きてきたもの同士だからだ。


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