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仮装現実  作者: 伊藤 悠
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仮装現実~乗っ取り編~

俺の名前は水木一郎ゼット。


どこにでもいるごく普通のゲーム研究会の部長ゼット。


「おい、ヒロノブ! 何をしている。早く秘薬をつかうんだゼェェット!!」


「わかっている。おい福山! さっさと頭を壊せ!」


「この真赤なハンマーに誓い必ず壊してみせるぜ!!」


今日も楽しく活動をしている。

今年から設立したばかりのサークルではあるが、仲間とともにそれなりに楽しく活動できている。


しかし、最近妙な噂が流れているのだ。


あの無類の変人――柴﨑 詩杏が我々ゲーム研究会を狙っていると。


冗談ではなかった。

何故こんなに楽しく活動している我々が狙われなくてはならないのか。


どうやら最近妙な男子生徒とねんごろの関係となり、二人で徒党を組んで我々ゲーム研究会を狙っているとのことだった。


俺はただ、何でもいいから誰も泣かない世界が欲しかったのだ。

我々ゲーム好きには苦痛でしかない教室から逃れ思う存分ゲームを堪能できるこの部室はまさに聖域なのだ。


誰にも渡すものか。

立ち上がれ。

気高く舞え。

定めを受けたオタク(戦士)よ。


「今こそ我がゲー研を守り通すゼェェト!!」


「何をしている一郎!! それに吸い込まれたら即死だぞっ」


「ゼェェェェェェェェット!!!」





「ふむ。奴らのんきにゲームなぞをしているぞ」


「それはそうだろう。ゲーム研究会なのだからな」


ぼくと詩杏は現在ゲーム研究会の活動内容を調査している。


一台の携帯端末をゲー研の部室に設置し、Skypeを通話状態にして置いておく。

そうすることで彼らの情報は筒抜けとなる。

設置は思いの外簡単であった。


何しろ詩杏は全教室の鍵を持っているのだ。こっそり夜中に侵入し設置するのは容易だった。


「まずは相手の情報を得てからではなければ戦いにはならん。情報強者にならなければならぬのだ」


犯罪なような気がするが、内輪の話なのでなにも問題はないだろう。


「しかし、彼らの会話から察するにすでに我々が乗っ取りを企てていることが相手側にばれているようだぞ」


「ふん、詩杏よ。それは当然なのだ。なぜならばぼくが意図的に流したからだ」


「何? どういうことだ」


「相手を必要以上に警戒させなければならぬのだ。そうすることで敵は策を弄することになるだろう。故にそれを逆手にとれるということだ」


「・・・・・・逆にそれが逆手にとられればどうするのだ」


「・・・・・・」


考えていなかったわけではない。


「それについては安心していろ。ぼくに考えがある」


「本当か?」


「そのような些細な問題は――」


「乱用するな馬鹿者」


さて、そろそろ計画の全貌を明らかにしなければなるまい。


我々が考えた作戦は以下の通りだ。


まず前提として、サークルとして認められるには五名のサークルメンバーが必要となる。


実はゲーム研究会はサークルメンバーが三人しかいない。

人数が三人しかいないゲーム研究会は元々正式なサークルではないのだ。

勧誘活動の場を設けるという名目でサークル設立を認められた仮サークルなのだ。

我々はそこに目をつけたのだ。


我らオカルト研究会二名とゲーム研究会三名を合わせれば丁度五名となる。


これは好機なのだ。


「今こそゲーム研究会を乗っ取って我々オカルト研究会を世に進出しなければならないのだ!!」


「おい・・・・・・これはSkypeなのだろう? ならばそのような大声で叫んでは相手方にも声が聞こえてしまうのでは・・・・・・」


「安心しろ。きちんとミュート状態に・・・・・・」


されていなかった。


「ふざけるなゼェェット!! ゲー研は渡さんゼェェェット!!」


受話器の向こう側から叫び声が響いてきた。


「貴様ふざけるなよ・・・・・・ふざけているのかまじめなのかはっきりしろ馬鹿者がっ!!」


「何だと!! あ、案ずるなこれも作戦の内なのだ」


「嘘をつくな嘘を! 最初の作戦と全く違うではないか」


「ええいっ! 痴話げんかはやめろゼェェェット!」


どうでもよいがうるさいやつだな。


「よし、ゲー研のものよ! ではこうしようではないか。我々の思惑はすでに存じているだろう。貴様らの得意なゲームで勝負し、勝利した暁にはどちらかの研究会として新設立するというのはどうだろうか」


「なにゼット? ・・・・・・・」


しばらく静寂が続いた後、ゲー研部長は勝負に承諾した。


しかしそれは当然というものだ。

サークルメンバーが足りないゲー研はこのままではいずれオカルト研究会と同じ道をたどることとなるだろう。

彼らとてそれを避けたい気持ちは当然あるはずだ。

彼らにとってもこの提案はまたとない機会なのだ。


「いいだろう。ただしゲームで我々に勝つことはできないゼット!!」


こうしてオカルト研究会とゲーム研究会の存続をかけた勝負が決定した。

勝負は明日の放課後、ゲーム研究会の部室で行われる。

勝負の種目はそのとき向こうから発表されるとのことだ。


正直勝負の内容を相手方に決めさせるのは気が進まなかったが、重要なのは相手に勝負をする気にさせるということだ。

せっかくここまでこぎ着けたのに向こうが勝負に応じてくれなければお話にならない。

渋々向こうの提案を受けることとなったのだ。


「おい・・・・・・明日の勝負、大丈夫なのか」


「うん・・・・・・まぁ何とかなるだろう。案ずるな」


「ん? 何だ貴様らしくもない。不安なのか」


「まさか。そんなことあるはずがないだろう。なに、すべて任せておけばいいのだ」



こうして決戦の時はやってきたのである。


「ふん、待っていたゼット」


変な口調のこいつがゲー研部長の水木 一郎だ。

教室ではキモヲタとして有名だが、この部室にいるときは実に自信がありそうで、御山の大将といったところか。


「勝負の内容とは、これだ」


そう言って彼は“それ”をテーブルの上にたたきつけた。


「・・・・・・トランプ?」


「そうだゼット。種目はそう・・・・・・誰でも知っている大富豪でどうだ? これならばテレビゲームと違ってやり込んでいないと勝ち目がないなどの不公平な勝負はありえない。しかもこれは今朝買ってきた未開封の新品のトランプだ。イカサマも仕組まれていないゼット」


「ふむ・・・・・・確かに一理あるな。どうする?」


「どうするも何も、我々は奴らの提案に従うしかあるまい。ただし、一つだけ条件がある」


「条件? 何だゼット」


「それは、トランプはそちらの用意したものではなく、こちらで用意したものを使用するという条件だ。むろん、事前にガン付けがされていないか確認してくれて構わない」


そう言ってぼくは今朝準備しておいた未開封のトランプを見せつけた。


「・・・・・・・・・・・・」


彼らは内輪で相談している。

おそらくぼくの用意したトランプを疑い、確認しているのだろう。


「おい、どういうことだ。何故貴様は今日の勝負の種目がトランプだと知っていた。でなければ事前にあんなものは用意できないだろう」


詩杏がひそひそと僕に話しかける。


「詩杏よ。誰も仕掛けた端末が“ひとつだけ”とはいっていないぞ」


「――っ!? まさか」


「そうだ。Skypeはグループ通話という便利な機能がある。これを利用しない手はないだろう。一度は奴らに罠を暴かせたと思わせる必要があるのだ。そうすることで初めて本当の隙が生まれるのだ。なぜなら奴らは一度罠を暴いたということで“安心”という感情が生まれるからだ」


「・・・・・・おまえ」


「そして奴らの手の内もわかっている。あれは既にガン付けされているトランプだ」


「何だって!? しかし封が切られていない。新品だぞ」


「簡単なことさ。封をカッターなどできれいにはぎ取り、またのりなどを使用してくっつければよいのだ。そして奴らは偶数のカードにだけわかるようにガン付けをしている。大富豪などはほとんどの場合カードをわかりやすく昇順か降順に並べて手札を持つだろう。偶数だけにガンをつけるだけでもかなり相手の手札がわかる。つけたガンを覚える手間も大幅に省けるしな。実に狡猾な手法だよ」


「なるほど。それでこちらで用意した本当の新品トランプで五分の勝負に持ち込もうというのだな。いや、恐れ入ったよ」


「・・・・・・」


ぼくは感心する詩杏を一瞥して、すぐにゲー研の連中に視線を戻した。

詩杏の言葉に対してぼくは何も返答をしなかった。


「よし・・・・・・いいだろう。このカードでの勝負をうけるゼット」


「では・・・・・・勝負開始だな」


こうして勝負は開始された。


勝負はオカ研とゲー研の二対二の三回勝負。

一位から四位までそれぞれポイントが振り分けられ、チームの合計ポイントで決着をつけるというものだ。

一位ならば5ポイント。二位は3ポイント。三位は1ポイント。四位は0ポイントだ。

ワン・ツーフィニッシュを二連続決められればその時点で勝敗が決してしまう。


ちなみに、残りのゲー研の一人はディーラとしてカードを配る役目となった。


8切り、階段革命、スペ3返しはあり。その他のローカルルールは一切なしにするという取り決めとなった。


「よし、では始めるとしようか。スペ3がありだから、ハートの3を持っているものからスタートだ」


「む・・・・・・では私からか。では手始めに3のペアからにするとしよう」


こうして勝負が始まった。

周り順は詩杏、水木、ヒロノブ、ぼくの順番だ。


「では5のペアだ」


どんどんカードが出されていく。

僕の番になったときには既に10のペアまで数字が上がっていた。


「どうした。次は貴様の番だぞ」


「・・・・・・パスだ」


「む、カードを持っていないのか。ついていないな。では私はジャックのペアだ」


詩杏のジャックのペアに誰もカードを出さずに再び詩杏の切番となった。


そうして大富豪は続いていった。

僕はことごとく出されるカードをパスしていき、結局一枚もカードを出さずに一回戦は終了した。


せっかく詩杏がトップ通過したものの、僕が四位だったために点数は以下の順となった。


オカ研5ポイント。ゲー研4ポイントだ。


「むぅ。トップとはいえ貴様がビリッケツでは差が開かないではないか」


「・・・・・・」


「ふははは。貴様のねんごろ相手もたいしたことないゼェェェット!!」


「なっ・・・・・・なんだそのねんごろというのは! べ・・・・・・別に私とこいつはそのような関係では・・・・・・」


「・・・・・・リア充爆発しろ」


「ぬ・・・・・・貴様ら~! おい! お前も何とか言ったらどうだ!」


詩杏は顔を真っ赤にして怒っている。


くだらない話にせいぜい花を咲かせてくれ。

ぼくにとっては好都合なので、黙っていることにした。


「では二回戦だゼット」


二回線目、ディーラである福山がカードをカットする際に違和感を覚えた。


「・・・・・・」


やつの手の動きを凝視する。

なるほど。奴らは昨日ここまでの相談をしていなかったが、二対二といった時点で警戒しておくべきだったな。


現在福山が行っているのはイカサマ技だ。


カードをそろえる際に下の方によいカードを固めて持ってくる。そして上から半分近くを持ち上げてカードをカットする。これだけでも素人目には十分カットしているように見えるだろう。そしてカードを配る際に一番上のカードを配る振りをして一番下のカードを配るという初歩的なイカサマ技だが、案外気づかれにくい。ポイントとしては大げさにカードをぱちんと音が鳴るくらいたたきつけるように配ることだ。手の動きだけではぱっと見上のカードを配っているように錯覚させられる。


また、このイカサマのやっかいなところはあらかじめある一定の“決め”をしておかないとイカサマにならないということだ。何もわざわざ下のカードを持って行かなくとも一番下のカードさえわかっていれば後は周り順を計算すれば一番下のカードが目的の人物へ渡るように配置することができる。ジョーカーを確実に手札に加えることができるのだ。


こいつは少々やっかいになりそうだ・・・・・・。


「・・・・・・」


ぼくの手札に2が二枚か。

前回ビリッケツだったぼくは大貧民だ。この二枚の2を大富豪である詩杏に渡すことができるが、おそらくジョーカーは二枚ともゲー研の手に渡っているだろう。今回はいくら詩杏でもトップをとることは厳しいはず。

そしてカード交換が発生する以上ジョーカーがどちらにも行き届くということはない。ならばどちらかは必ず平均的かそれ以下の手札になるはずだ。


ここだ。

ここでぼくがビリになってしまってはいけないのだ。


現在のポイントがオカ研5対ゲー研4。今回はトップ二着は既に決まっているようなものだ。


今回詩杏のトップは厳しいのは明白。次の回は詩杏にいいカードを渡すにはどうしてもぼくが三着に入る必要があるのだ。


四着に入ってしまえばぼくから敵へ。敵から詩杏へという最悪の構図ができあがってしまう。そうなればイカサマをしている向こうにまず勝ち目はない。


ここでなんとしてもぼくが三着に入らなければわずかな可能性すらも拾えなくなってしまうのだ。


「では大貧民からスタートだゼット」


「あぁ・・・・・・では、こいつからいくかな」


ぼくが出したのは手札の中でも最強のキングからだ。


「なにっ!?」


「貴様・・・・・・大富豪のルールを把握しているのか」


「誰も出さないのか? ではぼくは立て続けにカードを出させてもらうぞ。本当に誰も出さないのか」


「ぐぬぬぬ・・・・・・」


次の順番である水木がぎりぎりまで悩んだが結局序盤のうちから余裕でカードを消耗する気はないらしく、誰もキング以上のカードを出しては来なかった。


「ではお次は6のペアだな」


そう宣言して6を二枚場に出す・・・・・・振りをして、ぼくは先ほど皆がキングに抵抗するか悩み必死に自分の手札とにらめっこしている間に重ねておいた4のカードを6二枚の間に隠して場に出した。


誰も気づいてはいない。


それどころかさっさと次のカードを出している始末だ。

これでいい。これで既にぼくはカードを四枚消費できたことになる。

向こうがイカサマを使ってくるならこちらも遠慮などしないさ。


これで残りのぼくの手札は9枚となった。

手札は以下の通りである。


♥J,♥10,♦9,♣8,♦7,♥5♠,5,♣3,♠3


絵札が一枚しかないが、既に四枚も消費できたならば上出来だろう。


そうしてゲームが進んでいった。


「ぃよっし!! 一着だゼェェット!!」


「ぐぬぬぬ。この柴﨑 詩杏が貴様ごときに一着を譲ることになろうとは・・・・・・。それにしてもついていなかった。相手方に二枚もジョーカーが渡っているとは」


こうして一、二着は予想通りの決着となり、残すはぼくとヒロノブの決着となった。


「おい、なんとしても三着になるのだぞ。二回続けてビリッケツはゆるさんぞ!」


「わかっている」


この時点でぼくの手札は残り四枚まで減っていた。もちろん例のイカサマを使用してだが。

ぼくの手札は以下の通りだ。

♥10,♣8,♥5♠,5,


やつの手札は残り五枚だ。

やつの手札は“絶対にペアのカードが存在しない”のだから、この8さえ出せればぼくの勝ちは確定となる。頼む、一枚出しなのはわかっている。8以下を出してくれ。

そうすれば早々に決着がつく。


やつが強いカードを温存しようとしたそのときがやつの命取りとなる・・・・・・!


「まずはこれからだ」


「・・・・・・」

やつの出したカードは・・・・・・


ハートの7だった。


「8切り・・・・・・そして5のペアだ」


「うっ・・・・・・!」


「出さないのか? ならばぼくの勝ちだな」


「ぐぐぐぐ・・・・・・」


「よし! よくやったぞ! えらい! それでこそ我が部員だ!」


まったく、人がどれだけ苦労しているか知らないで好き勝手いてくれる。


「ば・・・・・・馬鹿な・・・・・・」


危なかった。もしやつが二枚出しを持っていないことに気づいていなかったらどうなっていたことやら。


これでチームの総合ポイントはオカ研9対ゲー研9の同点となった。

つまりチームのどちらかがトップをとればその時点で勝ちは確定となるのだ。

ここで詩杏を確実にトップに持って行かなければ、ぼくたちの負けだ。


「さて、では最後の勝負になるゼット。おい、福山。シャッフルするゼット」


「おう」


「・・・・・・」


うまくいったか。


これがぼくの最大の切り札だった。

先ほど捨て札を隅に寄せる振りをしてジョーカーを一枚ギって(握りこんで)袖の下に隠していたのだ。

どうせ富豪である詩杏には二枚渡せないし、二枚ともジョーカーが見当たらなければ流石に奴らも不自然に感じるだろう。だが一枚見当たらない程度ならば不手際で説明がつく。


明らかに慌てている様子の福山。しかし言い出せばイカサマをしていることを公言していることとなるので、言い出すことができない。なんと滑稽だろうか。


だがまだ苦労はここからだ。

不審に思っている福山がカードの枚数を数えると困るのだ。


「なあ福山とやら。貴様ゲームが得意なのか」


「ん・・・・・・まぁな」


「何のゲームだ。ぼくも少しではあるがゲームをやるのだ。特に最近はボードゲームにはまっていてな」


「そうか! ならばタクティクス戦略系のゲームをやるといい! こつがいるが楽しいゲームだぞ」


「おい福山。何を敵とじゃれ合っているのだ。さっさとカードを配るんだゼェェット」


「わ・・・わるい・・・・・・一郎」


これで何とかごまかせたはずだ。

やつがボードゲームやタクティクスゲーム、カードゲームが好きなのは事前の調査でわかっていたからな。話を振れば必ず乗ってくるとは思っていたが、ここまでうまくはまるとは思っていなかった。


こいつらは本当にゲームが好きなのだろう。

そこに関してはぼくと同じだな、と素直に感じた。

オカルトが好きなぼくと、ゲームが好きなゲー研。


ぼくと彼らは似たもの同士なのかもしれない。


そうして最終決戦が開始された。


予定通りジョーカーは詩杏の手に入った。そしておそらくオカ研の先ほどのトップ、水木にもだ。


ここからはもうぼくのできることはない。

できることはすべてやった。

なるべく場を乱すことに専念はするが、あとはお前次第だ・・・・・・詩杏!!




どーも。

みんなの柴﨑 詩杏ちゃんです。


今起こっていることをありのまま話すぜ!


部活存続の危機をかけてトランプをしているのだ。

な、何を言っているのかわからんと思うが、私も何をしているのかわからん。


だが、今回トップをとったものが勝者だということたった一つ。たったひとつのシンプルな答えはわかっているつもりだ。


今回ジョーカーを私に渡したあいつはおそらくトップをとるのは厳しいだろう。なぜなら先ほど大富豪だった水木とやらがもう一枚のジョーカーを押さえている可能性が高いからだ。つまりこれは部の存続を賭けた部長同士の真剣勝負なのだ。


オカ研のヒロノブとやらが無難に4のカードを出した次の瞬間の出来事だった。


「何っ!?」


あやつめ、いきなりキングを出したのだ。


「ふん、先ほどと同じ手は食わんぞ!」


すかさず水木もエースで対抗する。


それに対して全員がパスを繰り返し、水木から仕切り直しだ。


水木が出したのは6のペア。それに対して私も続き7のペア。ヒロノブが10のペアを出したかと思ったら今度はやつめ、ジャックのペアを出してきたのだ。


馬鹿なことを。そのようなことをしたら後半弱いカードしか残らんぞ。


「ふん。貴様の部員はどうやらただの馬鹿のようだな」


「なに!? 私ならいざ知らず、こいつのことを馬鹿にするような発言はゆるさんぞっ!! こいつはな、こいつはな、貴様なんかよりよっぽどいい男なのだ!」


なにやら恥ずかしい台詞を口走ってしまった気がするが、ここまで来てしまったのならもはや関係ない。私のためにも、いいや、私たちのためになんとしてでも勝たねばならぬのだ。


「ほらよ、キングのペアだ。誰もだせんだろう」


この後の展開は似たようなものが続いた。

誰かが出した弱いカードに彼が強いカードを出す。それをさらに上回るカードを水木が出すというパターンが続いた。そしてあれよあれよという間に水木の残り手札が3枚となったときだった。


水木が単体で2を出してきたのだ。


「!?」


私たちは青ざめた。


なぜなら水木はここまでジョーカーを出していないのだ。

となれば残りのカードは当然ジョーカー。ジョーカーより強いカードは存在しないので、当然これに対して私がジョーカーを出さなければ我々の負けは確定だ。


だが、ここでジョーカーを出したところで、次にジョーカーを出されてしまえばそれでお終いだ。


「・・・・・・」


どうする。

どうすればいい・・・・・・?


どうすればよいのだ・・・・・・!


私は助けをこうように彼の顔を見つめた。

彼の目は私をまっすぐに見つめていた。


その瞳は何となく、諦めるなといってくれているような気がした。


ええい、ままよっ!!


私は決死の覚悟でジョーかを出した・・・・・・


しかし・・・・・・


「スペ3返しだ・・・・・・詩杏よ」


「なっ・・・・・・!?」


仲間であるはずの彼に私のジョーカーが打ち破られた。


そんな馬鹿な・・・・・・。


またか。


また私は仲間に見捨てられるのか。


いやだ。


そんなのはいやだ。


特に彼に見捨てられるのだけは・・・・・・誰か・・・・・・



「ふっ。何をうつむいている詩杏。まだ俺たちのバトルフェイズは終了してないぜ」


「・・・・・・へ?」


「考えても見ろ。やつの手札は十中八九ジョーカーとエースだ。2は既にないから現在の最強はエースとなる。仮にジョーカーが不発してもいいように念のためエースを残していくというのは実に理にかなっている。だがな、お前は一つだけ見落としをした。それはその残り手札では“ペア”に対抗することができないということだ」


「――なっ!?」


「詩杏。お前の手札・・・・・・ペアが複数個あるな」


「あ、ああ・・・・・・しかし何故――」


「そんな些細なことはどうでもよい! さあいくぜ!」


彼は4のペアを繰り出した!!


それに対して私は10のペアで対抗。


既にジョーカーともう一枚しかない水木と、弱いカードしか残っていないヒロノブは対抗できない。


大富豪には絶対に犯してはならないルールがあるからだ。



そう―― 一番強いカードであがってはいけない。


それはペアであっても同じことだ。

だから水木はAとジョーカーのペアでは絶対にあがれないのだ。


私がペアを出し、彼がペアを出し、その繰り返しが続く。


「そそそそそそんな馬鹿なことがぁぁぁあるかゼェェェェェェェェット!?」


「そしてこれが、最後のカードだ」


「馬鹿なぁぁぁぁぁぁ!?」


「俺を、俺たちを誰だと思っていやがるっ!!」

「私たちは、オカ研だ馬鹿野郎ォォォォォ!!」


最後にエースを出し、我々の完全勝利だ!!


「やった、やったぞ!!」


「お、おい!」


思わず抱きついてしまったが、構わん。好きなやつに抱きつくのは自然の摂理なのだ。あいつ風にいわせれば、そのような些細なことはどうでもよい、だ。


「アハハハッ」


楽しい。

楽しいなぁ。


こんなに楽しいのはいつぶりだろうか。

兄とともにオカ研で騒いでいたときより楽しいかもしれない。


こいつとならやっていける。

そんな気がしたのだ――


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