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愛のカケラ  作者: シャルフ
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願い


 文哉の容態は、悪化の一途をたどっていた。


 背中の痛みが特にひどく、真冬と香織が


 交互にさすってやらなければならない状態であった。


「真冬・・・もう俺は・・・そう遠くないうちに

 迎えがくるんだろうなあ・・・」


 文哉の口をついて出てくる言葉は、もうこの頃には


 弱音と泣き言しかなかった。


 そんな文哉を、真冬はただ黙々と世話をする。

 そんなことの繰り返しだった。


「高橋くん ちょっと」


 下平医師に呼ばれて、真冬が下平の部屋に向かうと、

 下平は単刀直入に真冬に話かけた。


「高橋くん 五十嵐さんの事なんだが・・・

 先日の検査結果から、もういろんな臓器に

 転移が見受けられる。いつどうなっても

 おかしくないようだ。もうここ何日かが

 ヤマかもしれない。・・・私もしばらく

 動けるようにしておくから、何か

 あったらすぐに連絡をしておくれ。」


 下平から告げられた・・・文哉への死刑宣告・・・


 真冬の頭の中は、真っ白になった。


 真冬は文哉の病室に戻ると、

 先程の下平医師の話を思い出さないように

 また自分の心の動揺を、文哉に悟られないように、

 努めて明るく振舞う。


「文哉・・・体調はどう?背中痛くない?」


 文哉は、体の向きを替えることすら苦しそうに、

 起き上がると、不意に手紙を差し出した。


「真冬・・・これ俺がなくなったら、

 香織たちに渡して欲しい。

 まだ意識のあるうちに、頼んでおきたい。」


 真冬は、何も言えず、受け取った。


「真冬 色々ありがとうな・・・それにすまなかった

 今さら何を詫びても、しょうがないのは、分かっている。

 全部・・・俺が悪いんだから・・・」


「文哉・・・何言ってるの・・・大丈夫

 元気を出して。絶対に病気に勝とう・・・ね」


 今の真冬には、こんなことくらいしかもう文哉に

 かける言葉は見つからなかった。


-深夜-


 ピー ピー


 ナースセンターに、ナースコールのブザー音が

 鳴り響く。


 少し眠りかけた真冬の耳に、信じられない声が・・・


 ”307号室 五十嵐さんの容態が、悪化しています。

  すぐに下平医師に連絡お願いします。”






 真冬はそのコールを受けると、直ぐに当直の下平医師の

 部屋へ駆け込んだ。


「先生 五十嵐さんが・・・五十嵐さんが・・・」


「高橋くん 分かった 直ぐにいく

 君はご家族へ連絡を・・・」


 そう言うと下平医師は、文哉の部屋へ向かった。


「トゥルルルル トゥルルルル ガチャ 

 はい・・・五十嵐ですが」


「高橋です。ご主人の容態が急変しました。

 ご家族の方は、直ぐに病院へおいでください。」


 真冬の声は、涙で震えていた。


「分かりました。直ぐに伺います。」


 香織は、そう答えると、直ぐに子供たちを起こし

 病院へ向かった。


 真冬は電話を切ると、文哉の部屋に駆け込んだ。


 電気ショックで、どうにか持ち直した文哉の周りを

 下平医師と看護師が、取り囲んでいる。


「先生 持ち直したんですか?」


少し安堵して真冬がたずねると


「今はどうにか・・・ただ・・・もう

 体がいつまでもってくれるかだ。

 いろんなところに転移していて

 次いつまで持つか分からない。」


 そう下平は答えて、首を横に振った。


「先生 ご家族が到着するまで、私が

 付き添います。ですから先生は、

 少しお休みください。」


「うん では高橋くん・・・頼むよ

 何かあれば直ぐに連絡を」



 そう言って 下平たちは

 真冬を残して病室を後にした。


 心拍計が、静かに波打つ病室で、

 真冬は、文哉を見つめる。


「俺・・・高校出たら働くよ」


「早く働いて・・・早くお金稼いで・・・

 真冬 お前と結婚する。」



「真冬はちゃんとした病院にいけよ。

 どこに行っても俺がちゃんと

 見つけ出すから。」


「真冬 急げ電車がいっちゃうよ」



 静かな部屋に文哉との想い出が、

 走馬灯のように流れていく。


「文哉の嘘つき・・・ずーと待ってたのに

 全然迎えに来てくれないじゃん・・・」


「やっと会えたのに・・・こんなのじゃあ

 ・・・イヤだよ・・・」


 真冬は、無言の文哉に語りかける。



 遠くから廊下を走ってくる音がした。





「真冬さん 主人は・・・主人は・・・」


 香織が慌てて駆けつけた。


「パパ・・・パパ・・・」

 娘の香澄は、文哉にしがみついて泣いている。


 その後ろで、息子の卓也は、じっと父を見つめている。


「奥さん 今は小康状態です。

 ・・・ただ いつどうなるか

 予断を許さない状態です。」


 真冬がそう答えるやいなや、

 香織は文哉にしがみつく。


「文哉・・・文哉・・・私たちを・・・

 残して逝かないで・・・ねえ・・・ねえ

 また家族4人で、暮らしたいの・・・」


 いつも明るい香織の姿は、そこにはなかった。


 真冬は、そんな香織たちに

 気遣い部屋を出ようとした


 その時・・・


 トゥーーーーー


 さっきまで緩やかに波打っていた

 心拍計が、一本の直線を描いた・・



「先生・・・真冬さん・・・

 いろいろとありがとうございました。

 主人の望むように、最後はまっとう出来たと

 思います。」


 そう言って 深々と香織が頭を下げる。


 廊下を歩いていく香織たちの後姿を見て、


 真冬が、文哉との最後の約束を思い出した。


「奥様 ちょっとまってください。」


 香織が振りかえると、真冬は

 文哉から預かった手紙を差し出した。


「これ ご主人からお預かりしていたものです。」


「えっ 文哉が・・・真冬さんすみません。」



 香織は、大事そうに手紙を受け取った。


 文哉のお葬式の準備に慌しかった香織だったが、

 お通夜の夜、真冬から受け取った手紙のことを

 思い出して、開けてみた。


 それは文哉から、香織と子供たちそれぞれに宛てた

 手紙だった。



 香澄へ


 香澄は、もう来年 中学生だね。

 部活は何をするか もう決めたかな?

 新しい友達にも一杯出会えるんでしょう。

 恋人は・・・まだ早いぞ。

 ちゃんとパパは見ているから

 コソコソしてもすぐにバレるからな!!


 香澄をこんなに早くパパのいない子に

 してしまってゴメンな。


 香澄はママに似て、凄い美人になるだろうから

 パパはその姿が見れないことが、

 一番悔しくてあいかたありません。


 いつまでも香澄はパパのものです。

 これからも勉強を頑張って、健康でいてください。


 それでは・・・さようなら    

                パパより






 卓也へ


 卓也は来年受験ですね。

 部活もいいけど、将来後悔しないように

 ちゃんと勉強もするように。


 それと長男である卓也に、父さんから

 お願いがある。


 母さんと香澄のことを頼む。

 中学生であるお前にこんなことを

 頼むのは、酷ではあるけど、

 父さんにはもう・・・どうしようもない。

 すまないが頼んだぞ。


 お前といつか酒を一緒に飲みたかったが、

 それももう叶わぬ夢になってしまったことが

 悔やまれる。


 父さんの分も、お前は元気でいてくれよ。

 さようなら 


                 父より



 香織へ


 香織や子供たちを残して、先立つ事は、

 申し訳ないと思っている。

 すまない。


 子供たちのことを頼む。


 香織には、いつも助けてもらってばかりだったのに

 何一つ返せなくてごめん。


 あとひとつ 香織に謝らなければならないことがある。


 高校の頃に付き合っていた彼女のことなんだけれど、

 俺は結婚の約束をしていた。


 だけどその後、離れ離れになってしまって、

 その約束を果たせないままに

 香織と出会って結婚した。


 しかしその約束がずっと心に重くのしかかっていて、

 実は入院する前に帰省したのも、その彼女に会うためだったんだ。

 だけど 彼女はいなくて会えず仕舞いで入院したんだ。


 ところが偶然にも、その彼女と会うことが出来た。


 香織もうすうす感ずいていたのかもしれないが、

 それが、看護士の高橋さんだ。


 ずっとだまってってすまなかった。


 ただわかってほしい。


 俺の妻は香織であって、俺の家族はお前たちだけだ。


 香織や子供たち以外に、高橋さんへの手紙も同封している。


 渡すか渡さないかは、香織に任せる。



 最後に、香織はまだ若い。

 もし新しい恋に出会えたら

 俺の事は気にせず、前向きに生きて欲しい。


 香織  君に出会えてよかった。


 さよなら ありがとう        

                文哉



 香織は最後まで読み終えると、まだ封の開いていない手紙を

 大事にしまった。


 お葬式も滞りなく終り


「では香織さん 俺たちはこれで・・・」



 そういって晴彦と真冬が、帰ろうとした。






「真冬さん・・・これ 文哉からの手紙です。」



 香織は、そう言って大事そうに手紙を出してきた。


 少し驚きながらも、真冬はその手紙を受け取った。


「今 読ませていただいてもいいですか?」


 そういって真冬は手紙を開けた。




 真冬へ


 この病院で、君に会えてから、 

 俺は、タイムスリップ出来ないか

 なんて真剣に考えた。


 真冬と離れる前に戻れたら・・・

 でも それは無理な事だし、

 今までの人生を否定するという事は

 香織や子供たちまで否定することになる。


 これが俺と真冬の運命だったんだ。


 でもこの病院で、真冬と一緒に過ごせた

 時間は、神様がくれた最後のごほうび

 だったのかもしれない。


 真冬 幸せになってくれ。

 最後のお願いだ。


             文哉



 読み終えるや真冬の目から、涙があふれ出た。


 そんな真冬を見て晴彦は、


「真冬ちゃんもこれで、ひとつの区切りになっただろ?

 新しい恋に向けて歩き出さなきゃあ」

 と真冬を励ます。


「いいえ 私 20年も待ち続けたのよ。

 そうしたら目の前に文哉が現われた。

 そうして奥様には、申し訳ないんですけど

 文哉と一緒の時間をすごす事が出来た。

 だから・・・これからもずっと

 文哉を待つ・・・またふらっと現われるかも

 しれないわ。

 私にとって文哉は、最初で最後の恋・・・

 彼から残された愛のかけらをこれからも

 ずっと大切にしていくわ。」


 真冬の言葉を聞いて、香織も負けない


「あら私だって・・・真冬さんに獲られてたまるもんですか

 世界中で一番 文哉を愛する自信が私にはあるもの

 私だってこれからも文哉の妻で居続けるわ」


 そんな二人を見て晴彦はあきれながら

「文哉 あいつもてやがるなあ・・・こんな美人2人に

 愛されて・・・だから罰があたったんだなあ」


 晴彦の言葉に、真冬と香織は顔を見合わせて

 笑った。


 そんな二人の頬を、風がすっと撫でた。

 

 それはまるで・・・文哉が・・・


 2人にお別れの挨拶をしているかの


 ようであった・・・・・


                           (Fin)

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