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愛のカケラ  作者: シャルフ
4/6

運命のいたずら


 文哉と香織は紹介された県立医大の附属病院へと行った。


「五十嵐さん どうぞ中へ」


 診察室の様な部屋へ案内されると

 40代後半くらいであろうかと思われる医師が

 座っていた。


「どうぞどうぞ おかけください。

 五十嵐・・・文哉さんですね。」


「はい・・・」


「私が担当させていただきます。下平晃司です。」


 やさしそうな笑顔で語りかけてくれる医師に

 文哉と香織は少しホッとした。


「よろしくお願いします。」


 終末医療という言葉のイメージからもっと暗い感じの

 医師でも出てきそうであったが、目の前の担当医の

 先生を見ていると、文哉のそういった負のイメージも

 払しょくされていった。


「五十嵐さん。先程、紹介状に今までの検査結果を見させて

 いただきました。幸いまだ骨転移もないようですので、

 今のところあまり苦しいとか痛いという感じはないんじゃ

 ないですか?」


「はい。痛みなどはないんですが、実は少し疲れやすくなったと

 いうか体のだるさみたいなものが感じられるようになってきました。」


「うんうん。内臓ですからすこしづつ機能障害が出てきているんでしょうねえ」


「ただそれ以外には、あまり変化を感じられないので、本当にそんな大変な

 病気なのかなって未だに不思議な感じがします。」


 本当に文哉は今でも仕事が出来そうなくらい元気だ。


「ハハ・・・五十嵐さんをお見受けすると私も検査結果を見直しそうですよ。

 ただね 骨に癌が転移すると神経を刺激して痛みが出てきます。

 まあ・・・今後注意して見て行きましょう。」


 下平医師は手元の資料を確認しながら


「・・・で、五十嵐さん 急ではありますが、3日後からなら入院する準備が

 整いますが、どうですか?」


「3日後・・・まあ家にいてもすることもないので・・・」


「そうですか。ではこの後 受付のほうで入院の手続きをしてください。

 私も精一杯 させていただきます。どうぞよろしく。」


「こちらこそ・・・お願いします。」


 文哉と香織は頭を下げて入院の手続きに受付へと向かった。


 受付では、入院に際しての説明やら、費用の話など30分くらい

 聞いただろうか・・・会社に行かなくなってから、人の話を聞くと

 いうことにあまり慣れていなかったせいか、文哉をドッと疲労感が

 襲う。




「香織・・・ちょっとソファに座って待っているよ。」


「大丈夫?わかったわ。」


 文哉はそういうと、受付の前にある待合室のソファに腰かけた。             

 ホスピスでよかったのだろうか・・・今更ながらに文哉の頭の中に

 この決断への不安がよぎる・・・


 残される香織や卓也や香澄のことが、不安を後押ししてくる。


 「あと少し待ってくださいって・・・手続きの処理に時間がかかりますって」


 そう言って香織が、隣に座ってきた。


 香織は少し不安げな表情で、文哉に訊ねてきた。


 「ねえ・・・文哉・・・本当にこれでよかったのかなあ?」


 「何が?」


 「病院じゃなくてホスピスで・・・」


 文哉は心の中を見透かされているようで、

 戸惑いを覚えながら


 「いいんだよ。後悔しないって決めたんだから・・・」



 そういって香織から顔をそむけたその視線の先に

 こちらに向かって歩いてくる一人の看護士の姿が映った。


 「・・・真冬?」


 そんなバカな・・・

 

 頭の中が真っ白になる・・・ってたぶん

 こんな感じなんだろうと文哉は思った。


 看護士が文哉たちの目の前を通りすぎるとき、

 胸の名札に目がとまった。


 「高橋」


 間違いない・・・真冬だ・・・


 でもなんでここに・・・それに名前も変わっていない


 まだ一人なのか?・・・それともバツ1?


 いろんな思いが文哉の頭の中を駆け巡る・・・


 「文哉?」



 香織の呼ぶ声に我に返る。


 「どうしたの?顔色悪いけど?」


 「あっ・・・うん」


 そういうと廻りを見渡してみたが、真冬の姿はもうなかった。



 「少し疲れてるのかなあ・・・」


 「家でゆっくり横になったら?」


 「ああ・・・そうするよ」



 そういうと文哉はもう一度振り返ったが・・・

 やはり真冬らしき看護士の姿はどこにもなかった。


-診察室-


 診察室の扉がノックされる。


 「はい どうぞ」


 看護師が入ってきた。


 「失礼します。下平先生お呼びでしょうか?」


 「ああ高橋くん。実は明後日ホスピス病棟に入院してくる

 患者さんの担当をお願いしようと思ってね。」 




 「はい どうぞ」


 「失礼します。下平先生お呼びでしょうか?」


 「ああ高橋くん。実は明後日ホスピス病棟に入院してくる

 患者さんの担当をお願いしようと思ってね。」  


 「はい・・・どういった患者さんなんですか?」


 「うん・・・まだ40歳代と働き盛りなんだが、癌の発見が遅くてね

 本人の希望もあってこちらに来た次第なんだよ。」


 「ええ・・・」


 「ご家族もまだ小学生の娘さんもいて、なんとか少しでも


 長く生きてほしいんだが、まあ担当看護士は


 同世代の君なんかがね、奥さんも色々相談出来ていいと思うんだ。」


 「わかりました。明後日入院ですね。」


 「ああ・・・それで患者さんの名前は・・・」


 話の途中で緊急信号が入った。


 ”下平先生 302号室の吉井さんの容体が・・・”



 「わかった すぐいく。高橋君 細かい内容は、当日にでも」


 「はい 了解しました。」

             

 そういうと下平はあわてて出て行った。


~入院当日~


 「卓也、香澄・・・母さんの事たのむな・・・」


 「父さん・・・」


 「パパ・・・大丈夫だよね?治るんだよね?」


 そういって香澄が文哉に抱きつく。


 文哉は香澄と卓也を抱き寄せ

 「父さんだって・・・父さんだって・・・

 お前たちを残して・・・父さんは精いっぱい頑張るから

 お前たちも・・・頑張ってくれよ・・・」


 そばで香織も泣いている・・・


 泣きじゃくる子供たちを後に

 ホスピスへと車を走らせた。


 「香織・・・子供たちになんかあったらすぐに

 知らせてくれよ。俺はすぐに駆けつけるから」


 「わかったわ・・・でもあなたは自分の体の事を

 一番に考えてよね。無理しないで・・・」


 「お前には本当に迷惑かけるなあ・・・」


 車は一路、病院を目指した。


-病院-


 「五十嵐さん 病室へご案内します。」


 「あっはい・・・」


 事務の女性の言われるままに307号室へと案内された。


 「先生が来られるまでお待ちください。」


 そう言って事務員は去って行った。




 部屋はベッドとタンスそれにテレビが在るだけの

 殺風景な部屋である。


 まあ 病院なんだしこんなものかと文哉は自分に言い聞かせた。


 「文哉・・・ちょっと殺風景な部屋よね?」


 香織が毒づく。


 やはりこういったとき、声に出して表現できるのが女性である。


 「病院なんだし・・・こんなものじゃない。」


 文哉は諭すように香織に言った。


 部屋の扉がノックされた。


 「五十嵐さん 下平です。」


 「はい どうぞ」


 下平医師と看護士が入ってくる。


 「今日から色々お世話になります。」


 文哉と香織は深々と頭を下げた。


 顔をあげて・・・文哉の動きが止まった


 ・・・真冬?


 下平医師の背後に立っている看護士は、

 間違いなく先日見た 真冬似の看護師だった。


「あっ紹介しておきます。

 今日から五十嵐さんの担当看護士の高橋です。」


 看護士は頭を下げて、「高橋です。」とあいさつをした。


 「高橋くん こちらが五十嵐文哉さん・・・」


 頭を下げていた看護士がゆっくり顔をあげた。


 「高橋さん 主人をどうかよろしくお願いします。」

 香織の言葉に、看護士は我に返った。


 「こちらこそ よろしくお願いします。」


 「高橋くん それでは行こうか

 今日は特になにもないので、ごゆっくりしていてください。」


 そういうと2人は部屋を後にした。


 香織は軽く会釈をし、文哉のほうへふりかえると


 冷たい視線で毒づいた。


 「綺麗な看護婦さんが、担当でよかったんじゃない」


 「うん?・・・ああ・・・」


 そんな香織につれない返事で答える文哉・・・


 「疲れた?少し横になる?」


 「ああ・・・」


 文哉はそういうと悪いことをした子供のように布団にもぐった。


 「先生・・・先程の患者さんのことですが・・・」


 「ああ・・・五十嵐さんの事?」


 「ええ・・・病名は・・・」


 「あっそうか。まだ説明してなかったなあ


 末期の膵臓がんで・・・予後は2~3ヶ月ということだ。」



 「2・・・3・・・ヶ月・・・」


 そういうと看護師は立ち止った。



 「うん? ああ元気そうに見えるだろう?

 

 しかし前の病院からの検査結果を見ると


 全身への転移も時間の問題かもしれん・・・」





 入院して・・・2日目。


 「おはようございます。五十嵐さん検温の時間です。」


 「あっおはようございます・・・」


 看護師の高橋さんとの会話はどこかぎこちない。


 「高橋さん・・・」


 「・・・はい」


 「高橋さんって・・・下の名前はなんていうんですか?」


 「えっ・・・五十嵐さんそれって口説いているんですか?フフ・・・」


 「いや・・・よく似た人を知っているので・・・」


 「それも良く聞く口説き文句ですね・・・」


 何を聞いても・・・うまくはぐらかされる・・・


 不意に扉が開く。


 「文哉・・・おはよう」


 このタイミングで香織の登場とは・・・気まずい


 「それでは、また午後に検温にきますので、何かありましたら

 いつでも言ってくださいね。」


 香織の登場と入れ替わる様に

 高橋さんは出て行った。


 「ありがとうございます・・・

 文哉・・・どう調子は?」 


 「うん?・・・ああ変わらないよ」 


 「そうなの。よかった・・・」


 香織の安堵した表情が・・・いろんな事を忘れさせてくれる。


-病院 玄関-


 病院の正面玄関に一人の男の姿が・・・


 田所晴彦だ・・・


 「やっぱり・・・都会の病院はでっかいなあ・・・

 受付は・・・」


 「すみません。入院患者で五十嵐文哉の病室はどこですか?」


 「はい。どこの科かわかりますか?」


 「えっつっと・・・ホスピス?ホスピタル?」


 「フフ・・・ホスピスでしたら3階になります。

 患者さまのお部屋は各階のナースセンターでお尋ねください。」


 「ありがとう・・・ちょっとおもしろかった?」


 この男はどこへ行ってもマイペースである。


 晴彦はエレベーターで3階に上がると、

 すぐ前方にあるナースセンターにいた看護師に声をかけた。


 「すみません。五十嵐文哉の病室を教えていただきたいんですが・・・」


 「はい・・・五十嵐さんは・・・」


 その看護師の姿を見て晴彦は唖然とした・・・


 「真冬・・・ちゃん?」


 「田所くん?」


 とっさに看護師の口から晴彦の名前がでた。


 「えっ?なんで・・・なんで・・・真冬ちゃんが・・・

 ここ・・・文哉がいるんだよね・・・えっ・・・どういうこと」


 「田所くん ごめんなさい・・・文哉にはだまっていてほしいの・・・」





 看護師の高橋は小声で晴彦に嘆願した。


 「田所さん こんにちわ。もしかして文哉のためにわざわざ?」


 晴彦がドキッとして声のほうを振りかえると、香織が立っていた。


 「あっ・・・香織さん・・・こんにちわ」


 「すみません。わざわざ来ていただいて、今ちょうど文哉は寝ているところ

 なんですけど・・・ところでお二人はお知り合いなんですか?」


 「えっ なにが、どうした?えっ えっ えっ 誰と」


 これほどわかりやすい性格の男もそうはいない・・・


 「田所さんが高橋さんにさっき親しげに声をかけていたでしょ?」


 「あああああ いやちょっと道をたずねてただけだよハハハハ」


 「あの田所さん・・・ここ病院の廊下なんですけど・・・」


 香澄はさらに疑いの目で晴彦を見る。


 「ハハハハハそうだよね・・・ちょっとめまいが・・・」


 「田所さん・・・どういうことですか?」


 「実は・・・香織さんにこういうことを言っていいのか

 わからないんだけど・・・こちらの真冬ちゃんが・・・

 文哉の高校時代の彼女・・・」


 「えっ・・・文哉もなにも言ってなかったのに・・・」


 「いや・・・香織さん ちょっと落ち着いて・・・」


 「高橋さんも知っていたんですか?」


 「いえ・・・私も・・・入院当日の・・・驚いてしまって・・・」


 「文哉は、知っててここに入院したんだわ・・・」


 香織の顔がだんだんと高揚していく。


 「香織さんちょっと落ち着いて・・・たぶんあいつも知らなかったと

 思うよ。だって・・・入院するまえに・・・真冬ちゃんのことを

 探しに田舎に帰ってきてくらいだから・・・」


 そう話した瞬間に、晴彦は自分の大きなミステイクに驚愕した・・・


 「えっなんですって・・・田所さんそれってどういうこと・・・」


 「イヤ ちょっと落ち着いて・・・あの・・・文哉は・・・

 最後に昔の恋人の幸せな姿をひとめ見れたらっていうだけだよ。

 へんな誤解は・・・ 」


 「高橋さん・・・あなた文哉とどういった関係だったんですか?」


 「ちょっと香織さん、落ち着いてってば・・・今 文哉と真冬ちゃんは

 なんでもないってば・・・文哉がそんなことするはずないじゃないか。」


 香織は深呼吸をした。


 「分かってる・・・分かってるけど・・・」


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