表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛のカケラ  作者: シャルフ
3/6

想い出は過去へ


-駅-


 電車の扉が開く。

 降りて行く人はわずかしかいない。


「このホームに立つのは、何年ぶりかなあ・・・」


 ホームから見える景色の中に、わずかばかり残る面影を見て

 文哉は22年前・・・高校生だった頃を懐かしむ。


・・・・


「文哉・・・ちょっと待ってよ」



「真冬急げ。電車が行ってしまう」

                

・・・・・



「そうだそうだ。改札通ると間に合わないから、

 よくあの柵を乗り越えてホームに入ったっけ・・・」


 不思議なもので、何年も歳月が過ぎたはずなのに

 この場所に立つとまるで昨日の出来事のように思い出されていく。


 文哉は改札を出ると、すぐ隣の待合所にあるベンチに

 腰をかけて携帯電話を取り出した。


「トゥルルル・・・トゥルルル・・・」


「はい もしもし田所米穀店です。」


「あっ 晴彦? 俺・・・五十嵐だけど・・・」


「おお・・・文哉か?どうした?急に電話なんかかけてきて」


「うん・・・ちょっと会えないかなあ?」


「別にいいけど・・・今度いつ帰ってくるんだ?」


「実はさあ・・・・今、駅にいるんだ」


「駅ってどこのだよ?」


「・・・おまえんちのすぐ近くの」


「ええええ・・・なんだ帰ってきてるのか。それを早く言えよ

 でもなんでまた・・・今日は平日だぞ・・・」


「ちょっと・・・あってな・・・」


「お前リストラでもされたのか?」


「違うよ・・・でもまあ・・・似たようなもんだけど・・・」


「まじか?・・・まあいいわ。じゃあ今晩合うか?」


「おう・・・じゃあ今晩な」


 田所晴彦 こいつは中学の時からの親友で、

 昔っから悩んだときには、いつもコイツが

 俺の聞き役・・・イヤ相談役だった。

 この年になってもやっぱり変わらない・・・



 文哉は電話を切ると実家へ向かった.


「ただいま」


「文哉・・・おかえり、体は?大丈夫なの?」


「ああ大丈夫だよ。それにそんなに急に悪くはならないよ」


「文哉 ゆっくりしていきなさい」


「ありがとう・・・母さん」


 40を過ぎてから涙腺がゆるくなってきたのか

 母の言葉に涙が出そうになるのを堪えた。


 家に入るとさっそく畳の上で仰向けになった。

 懐かしい畳の香りと共に、

 物ごころついた頃からのこの家での思い出が

 走馬灯のように文哉の頭を駆け巡った。


・・・・・


「文哉・・・遊んでばっかりいないで

 少しは勉強しなさい・・・」


「お父さん・・・文哉の絵が今度公民館に張り出されるんですって

 なんでも地区のコンクールで選ばれたんですって・・・・

 お父さんからも文哉を褒めてあげて・・・・・」


「文哉・・・なんで大学に行かず就職するなんて言うんだ。

 お前は自分の将来をちゃんと考えてるのか?」


「父さんに・・・俺の気持ちなんてわかるかよ・・・」


「文哉・・・お前は父さんと母さんの気持ちがわかっているのか・・・」


 昔から俺はいつも 父さんと母さんの深い愛で守られていた

 その中で俺は甘えて生きてきただけなのかもしれない


・・・・・


「文哉・・・文哉・・・」

 

 母の呼ぶ声で目が覚めた。

 いつの間にやら、眠っていたようだ。


「田所くんが来てるわよ あなた約束でもしてたの?」


「えっ? もうそんな時間?」


 俺は慌てて玄関に向かった。


慌てて玄関に飛び出した文哉を見て、晴彦が怪訝な顔でたずねた。


「文哉・・・お前もしかして・・・寝てたんじゃねえだろうな?」

 晴彦は文哉に疑いの視線を投げかける。


「悪い悪い・・・ちょっと油断したら・・・」


その言葉を聞いて晴彦は、少しムッとした顔をし


「まあ・・・久々ということで許してやる」


 そう言って満面の笑みで文哉を迎えた。





「なあ文哉・・・どこいく?」


「どこでも・・・っていうか俺もこっち久々だしよく知らないし」


「う~ん・・・じゃあ 麦 にでもいこうか?」


「えっ?・・・あの店まだあるの?俺たちが高校生のときからだぞ」


「ああ・・・まあおばちゃんは隠居して息子の代になってるけどな」


「へえ~・・・でも懐かしいな・・・」


 高校生の頃、バイト代が入ると、よく晴彦たちとこの「麦」という

 居酒屋へいったものだ。ここのおばちゃんの料理が、ウマくて

 母さんの料理よりも、おばちゃんの料理のほうが、実は俺にとって

 おふくろの味だったりする。


 ・・・居酒屋 麦・・・


 カウンター10席程に、座敷席が3つ

 店の内部はあの頃のままだ。


 懐かしい店内を一望した文哉は、晴彦の方を向き

 小声でたずねる。

 

「晴彦・・・あれがおばちゃんの息子さん?」


「そうそう・・・なんか料亭で板前の修業してたらしいんだけど・・・

 料理はおばちゃんのほうが全然ウマかったな。」


「フフ・・・ダメじゃん」


そういって微笑みながら二人は奥の座敷の席に座った。


「とりあえずビールとあとは・・・つまみ適当に・・・」


「あいよ」


晴彦とおやっさんの声が客のいない店内に響き渡る。



 晴彦は注文するなり続けざまに、


「で・・・どうした文哉 急に帰ってくるなんて

 本当にリストラされたのか?」


「いや・・・まだかろうじて大丈夫だな・・・」


 テーブルにトンとビンビールとコップが置かれた。


「まあとりあえず・・・カンパイといこう」


 そう言って晴彦は文哉のグラスにビールを注ぐ。


「では久々の出会いを祝って・・・カンパイ」


 文哉はゴクリとビールを一飲みした。


 ウマイ・・・ここ2~3日はお酒を飲める雰囲気では

 なかっただけに、体の芯まで心地よい冷たさが、

 身にしみる。


 そんな文哉をほほえみながら見ていた晴彦が


「・・・文哉。なにか相談ごとか?」


「うんちょっと気になったことがあって」


「なんだよ。気になることって?」


「うん・・・あのさ・・・真冬ってこっちに帰ってきてる?」


 晴彦は予期せぬ文哉の言葉に少し驚いた顔で


「ええ・・・真冬って・・・あの高橋真冬ちゃん?」


「ああ・・・あの真冬だよ」




 2人が知っている真冬って一人しかいないだろうっと思いながら、

 文哉が言葉を返した。


 晴彦は少し戸惑いながら


「お前を追っかけて出て行ったきり、盆も正月も帰って来たって

 話は聞かないなあ・・・ていうかなんでお前ら別れたんだ?」


 文哉が返答に躊躇していると、追い打ちをかけるように


「だってな・・・真冬ちゃんは、お前の傍にいるために

 就職が決まってたこっちの病院を断ってまで、出て行ったんだぞ?

 俺なんか・・・お前が結婚するって聞いた時はてっきり真冬ちゃんと

 一緒になるもんだと思ってたのに・・・いつの間に別れて今の奥さんと

 付き合ってたんだ?」


 文哉は俯きながら、思いつめた表情のままだ。


「あの・・・話せば長いんだけどさあ・・・たしかに向こうで真冬とは

 逢ったよ・・・だけど・・・逢ったっていっても・・・2回だけだけど」


「なんでだよ。お前ら将来結婚するっていってたじゃん」


「うん・・・まあ・・・真冬も夜勤とかなんかで、俺も先輩たちとの

 付き合いで、逢える時間がなかったし・・・それに真冬も

 知らない間に看護寮を出ていっちゃって・・・音信不通になったし・・・」


 晴彦はなにを言ってるのかと、


「音信不通って携帯があるだろ?」


 そう諭すように文哉に言い放つ。


 そんな晴彦に文哉はあきれたように、


「お前は・・・バカか?20年前に携帯なんか持ってねえし」


「えっ?・・・そうか・・・文哉 お前の話なんか古臭いぞ」


 文哉は、真意が計れないといった表情で


「じゃあ・・・聞くな」  


「うそ・うそ・・・で音信不通になって、なしのつぶてか?」              


「ああ・・・俺てっきりこっちに帰ってきてるのかと思ってたから・・・」


「文哉・・・お前なあ・・・会ってどうするの?

 お前には嫁も子供もいるし、真冬ちゃんだってお前より2コ上なんだから

 もう家庭があるだろうし・・・急に思い出したからっていっても

 お互い全部捨ててやり直そうとでもいうのか?」


「いや・・・そうじゃないんだ。ただ・・・真冬が幸せならそれでいいんだ。

 今・・・真冬が幸せなら・・・」




 晴彦はけげんそうな顔で、文哉の真意を計りかねているようだ。


「どういう事?」


「晴彦・・・実はな・・・俺・・・末期のガンなんだ」


「ハァ?・・・ちょっとそれ・・・どういう事?」


「俺にはもう時間がない・・・だからやり直すとかそういうんじゃなく

 ・・・ただ真冬が幸せで暮らしているか知りたかったんだ。

心残りがないようにさ・・・」


「文哉・・・お前・・・」


 文哉の急な告白に、晴彦が言葉を失うのは

 無理のない事ではあった。


「文哉・・・お前・・・」


「俺が一緒になるって約束を果たせずじまいだったから・・・

 真冬が幸せになっていてさえくれればそれでいいんだ。」


「末期がんって・・・お前本気で言ってるのか?」


「本気もなにも・・・医者からのお墨付きだぞ・・・余命2カ月って」


「文哉・・・」


店に入ってきた時のテンションが、遠い過去の事のように、

晴彦は無口になった・・・


家に帰ると、おやじも帰ってきていた。


「文哉・・・飲んでも大丈夫なのか?」


 文哉は、おやじが息子の体の心配をするなんて、

 普通は逆なんだけどなあ・・・思いながら


「大丈夫も何も・・・がんばってもあと3カ月くらいなんだし・・・」


 文哉の言葉を聞いた父の眼から一筋の涙がこぼれた


「変わってやれるものなら・・・この俺が・・・」


「おやじ・・・ありがとう・・・」


 文哉は父に対して申し訳のない気持ちが胸一杯に広がった。


「文哉・・・病院にはいつから入院するの?」


「来週からなんだけど・・・おやじと母さんに

 実は話があるんだ。」


 文哉は父と母の顔色をうかがいながら

 話を続けた。


「俺も病気の事・・・いろいろと調べたんだけど

 結局治療をしても、死んでいくのが少し長くなるか

 もしかしたら、短くなってしまう可能性だってあるんだ。

 それならいっそ・・・最後まで普通に生活できる

 終末医療・・・ホスピスに入ろうかと・・・」


「ホスピスって?」


 母はけげんな表情で聞きなおす。


「積極的な延命治療はしなくて、できるだけ普段通りの

 生活をしながら、最後を迎えて行くのが

 目的の医療機関なんだ。」


「治療しないって・・・」


 母はショックのあまり言葉にならないようだった。





「無菌室だとかに入れられて、家族にも会えなくなるのなら

 最後まで一緒にいられるほうがいいかなあと思ってね。」


「文哉・・・でもね」


 母がなにか言おうとした時 父がそれを遮った


「母さん・・・お前は少し黙っていなさい。

 文哉・・・お前が決めたことなら

 父さんたちは、何も言わない・・・

 ただ香織さんにだけは、キチンと納得して

 もらってからにするんだぞ。」


「ありがとう 父さん。明日帰って香織にも話をするつもりなんだ

 あいつはわかってくれると思う。あいつなら・・・」


 最後まで文哉は、自分の意思を尊重してくれる父を

 大きな存在に感じるのだった。


-翌日-


「おかえりなさい」


2日ぶりに見る香織の笑顔が愛おしい。


「香織  ちょっと大事な話があるんだ。」


「どうしたの?」


「明日 病院にいってくるよ」


「いよいよ 入院するのね・・・」


「いや 別の病院に変えてもらおうと思ってね」


思いもかけない文哉の言葉に少し驚きながら


「えっ?・・・どこかいい先生でも見つかったの?」


「いや・・・そうじゃなくて・・・

ホスピスに入ろうと思うんだ」


「ホスピスって・・・文哉・・・それって・・・」


 不安げな表情の香織に、文哉はゆっくりと語りかけた。


「俺なりに考えて出した結論なんだ。

 香織や卓也や香澄の前では、

 最後まで俺らしくいたい。

 意識のない状態で、長々生かされる

 そんな状態でいたくないんだ。」


「文哉・・・でもそれじゃもうあきらめたのと一緒じゃない。」


 香織の言葉に、文哉は一呼吸置いた。 


「香織・・・人っていつかは死ぬんだよ。

 人生の幸福っていうのは、俺は決して長さじゃあないと思うんだ。

 たとえ 人の半分の寿命しかなくても、俺はお前と出会って

 人の倍以上の幸せに出会えたと思ってる。

 だから延命治療してまで生きようとは・・・俺は思わない。」


「・・・わかったわ。文哉がそう決めたのなら、私はついてだけよ」


「ありがとう香織。お前ならきっとわかってくれると思っていたよ」


 翌日 病院へ行き文哉は先生に自分の意思を伝えると

 家から車で30分程の所にあるホスピスを紹介された。

 しかも病院の紹介状と今までの検査結果まで

 送ってくれるという。


 来週 香織と2人でいくことにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ