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愛のカケラ  作者: シャルフ
2/6

覚悟


「生命予後は・・・2~3カ月かと・・・」


 医師の言葉が、頭の中で繰り返される。


 隣の香織も、ただただ前を見て

 無言で運転している。


 車中の沈黙を破る様に、

 文哉が語りかける。


「香織・・・ゴメンなあ・・・」


 香織は振り向きもせず、

 車を慌ててコンビニの駐車場に停めた。


「もう・・・急に変なこと言うから・・・」


 みるみる涙声へと変わっていく。


「何も文哉が悪いわけじゃないわ・・・


 でも、でも私これからどうすればいいの・・・」


 香織の問いかけに何も答えることができなかった。


 香織が落ち着くのを待って、

 取り合えず会社へ今後の事も含め

 話をすることにした。


 会社によれば、有給で2カ月は処理し、

 その後は、休業扱いで6カ月間は、

 在籍扱い60%の給料は出してくれるとのこと。


 まあ半年も生きれる保証もないが・・・

 家族のことを考えると心強い。


 総務部の部屋から出ていくと、

 今日は、一番会いたくない奴と出くわした。


「五十嵐 香織ちゃんとお揃いでどうしたの?」


「山田さんこんにちわ」


「あっ 再検査の結果か?」


 山田の顔色が変わった。


「五十嵐・・・もしかして悪かったのか?」


 この男には隠し事は出来ない。

 そう観念した文哉は、


「うん まあな・・・」


 山田は俺の顔色を窺うように、


「五十嵐 命に別条はないんだろ?」


 と恐る恐る聞いてきた。





 その言葉に、今まで平静を装っていた香織が、

 わっと泣きだした。


「五十嵐・・・どうなんだ・・・

 命に別条ないんだろ?

 なあ・・・なあ・・・

 香織ちゃんもなんとか言ってくれよ」



 俺の状況が悪いことを信じたくないのか

 山田の声も涙声に変わっていく。


「山田・・・ごめんな・・・

 ただ今日聞いたばかりなんで、

 正直心の整理がついていない

 落ち着いたらゆっくり話そう・・な」


 俺はそう言うと香織と、会社を出て行った。


 気持ちの整理がつかない。

 これは正直な気持ちだった。

 今にも現実から逃げ出したい

 気持ちで一杯であったが、

 家族がいる・・・

 最後の日まで気持ちだけはしっかりと

 持とう・・・


 文哉はそう覚悟したのだった。




2人を乗せた車が家へ着く


玄関扉がこんなにも重いと

感じたことがあっただろうか


玄関が開く音にきずいたのか

長女の香澄が飛び出してきた。


「パパ・・・検査どうだったの?」 


そう不安げに聞く娘に

ただ笑顔でかえすことしか

できずにいた。


「大丈夫だったんだね・・・よかったあ」


娘の笑顔にどこかホッとしていると

後方からその余韻を打ち消すように

香織の声が・・・


「宿題したの?終わったんなら予習、復習でも

 しなさいよ。」


「もうやったよ・・・いちいちウルサイんだから・・・」


先ほどの天使の笑顔もどこえやら・・・

娘は自分の部屋にもどっていった。


居間のソファに座って一息つくと、

文哉はキッチンの香澄に話し出す。


「香織」


「どうしたの?」


「今晩 子供たちにきちんと話そうと思うんだけど・・・」


香織は息の呑みこんだ・・・


「まだ・・・子供たちには、早いんじゃあ・・・」


「早いも、遅いも、あと2カ月しかないんだから

 残された時間を大切にあの子たちと暮らしていきたいんだ」


 ゆっくりと自分に言い聞かせるように

 語る文哉に、香織は黙って聞くことしか

 出来なかった。






 長男の卓也も学校から帰ってきて、

 平日に4人で食卓を囲むって

 いつ以来だろう・・・


「父さん 検査どうだったの?」


 卓也もまた文哉の体の事が気になっていたようだ。


 文哉はゆっくりと家族に語りかけた。


「卓也も香澄も、それからママにも聞いてほしい。」


 子供たちも文哉のただ事ではない様子に

 持っていた箸を置いた。


「父さん 今日病院に再検査にいってきて・・・

 実は・・・病気が見つかったんだ。」


「パパ・・・病気ってなんの病気?」


 香澄は不安げに話しかける。


「うん・・・ガンだったんだ。」


 予期せぬ答えに子供たちの顔色が変わっていく。


「ガンも早期発見ならば、手術や治療で

 いまは助かるんだけども・・・」


 文哉は一瞬 躊躇しながら、

 意を決したように話を続けた。


「父さんのガンは・・・手遅れだったんだ」


 香澄がそこまで聞くとワッと泣きだした。


「香澄 落ち着くんだよ。

 父さんはあと2、3カ月しか生きていられないんだ。」


 卓也は目に涙をため、香織に聞きなおした。


「母さん 本当なの?・・・父さん・・・父さん」


「卓也、香澄 お父さんの話をちゃんと聞いて

 お父さんの言うことは信じられないかもしれないけど

 全部本当なの・・・」


 香織も堪え切れず泣きだした。


「卓也、香澄・・・お前たちの成人・・・結婚式見られそうに

 ないんだ・・・ごめんよ・・・」


 文哉も今まで我慢していた涙がとめどなく頬を伝う。


「でもな・・・父さん 今までの人生に後悔してないよ

 ママと出会えた・・・そして卓也と香澄に出会えた

 パパってもしかしたら・・・

 人生の幸運を使い果たしちゃったのかなあ・・・」


 そう言うと文哉も言葉を続けられないぐらい

 泣き続けた・・・


 家族4人の鳴き声がしばらく泣きやむことはなかった。




-翌朝-


いつも通り目が覚める。


「そっか 今日から会社・・・行かなくていいんだ」


 少しホッとした気持ちと

 どうしようもない不安な気持ちが、

 心を揺さぶった。


 1階の居間に降りると、子供たちはまだ起きてはいなかった。


「あっ おはよう・・・まだゆっくり寝てればいいのに」


 香織はいつもの口調で何事もなかったかのように

 語りかける。


「うん・・・そうだな・・・病院も来週からだしな・・・」


「文哉・・・もしかしたら・・・良くなるかもしれないし

 ・・・私・・・信じてるから」


 香織はそう言うと文哉を見つめた。


「ありがとう・・・がんばってみるよ」


 そう言って文哉は、寝室へ戻っていった。


 ベットに入ったからといって、すぐに寝られるほど

 疲れてもいない・・・


 文哉は天井を見ながら、会社のこと、家族のこと

 いろんなことを考えながら

 いつのまにか眠りに就いていた。


・・・・・・・


 川辺の道を自転車に二人乗りした

 ・・・若い男女


「文哉・・・どこの大学いくの?」


「俺 大学には行かない。」

            

「えっ 大学いかないの?」 


「ああ 高校出たら働いて・・・早くお金稼いで・・・

 真冬 お前と結婚する。」


「えっ・・・もう文哉のバカ・・・

 でも・・・ありがと・・・」


「真冬 お前はこっちで看護師になるの?」


「うん 一応決まってはいるけど・・・

 でも・・・私も文哉のそばで探すよ・・・」


「はあ?なに言ってるの?

 真冬は看護師の道があるから

 ちゃんとしたとこいけるだろう。

 俺は高卒で今から就職活動だぞ。

 どこいけるかわかんないし

 真冬はちゃんとした病院にいけよ。

 どこに行っても俺がちゃんと

 見つけ出すから。」


「私・・・文哉のそばがいい」


「ったく 真冬は・・・」





 思い出したように目が覚めた。


「真冬・・・どうしてるんだろう・・・」


 高校生の頃のことを急に思い出した

 文哉は、最後にもう一度あの子に会いたいと

 いう思いが抑えられなくなった。


「香織・・・」 


「あら、お昼にはちゃんと起きてくるのね」


小悪魔のような笑顔で、そう言って笑う。


「俺 明日から2~3日、田舎に帰ってくるわ」


「えっ? うん・・・まあ・・・ごゆっくり

 お父さんとお母さんにも話しておかないと

 いけないでしょうからねえ・・・

 でも私は子供たちの学校があるから無理よ。」


「ああ それはわかってるよ。一人でいい。」


「お父さんとお母さんによろしくいっておいてよね。

 病気の息子を一人で帰したなんて思われたら

 顔も合わせられなくなっちゃう」


「ああ 大丈夫・・・じゃあちょっと用意してくる」


文哉は、慌てて支度をするために部屋に戻った。



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