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第三話

//09//


 部活動が長く続いた、そんなある日のこと。


「『クリスマスの妖精』って聞いたことがあるか?」


 柊木さんが唐突にこんなことを言いだした。


「妖精、ですか」


 僕が聞くと、柊木さんは小さく頷く。


「そう。妖精。本当に妖精が飛んでいる光景ではないんだが、幻想的な光景だと聞いた。それに近い、幻想的な光景だとね。あいにく、見たことがないんだが」

「どうしてです?」

「それを見れるのが、何年かに一回。それも偶然に偶然が重なった時だ。しかし決まってその日付はクリスマスの十二月二十五日と決まっている。まったく、おかしな話だ」


 柊木さんは肩を竦める。


「もっともクリスマスの妖精なんて都市伝説に過ぎないがね」

「じゃあ、どうしてそれを僕に?」

「この前、『世界が終わる日に何がしたい?』と言っただろう? それでふと思い出したまでだよ。まあ、ただの戯言だがね」


 柊木さんとそれについて話したのは、それが最後だった。




//10//


 それから僕はまた転校して――結果として中学校を卒業したのは別の中学校だった。それから僕はパソコンが好きだったから県内の工業高専に進学、そうして四年間過ごして。

 話は、十二月二十四日のクリスマスイブに戻る。

 ええと、どこまで話したかな――という第四の壁を打ち破るような戯言はここまでにしておいて、僕はメールを確認した。

 そこには小学校時代の同窓会についてだった。忘年会も兼ねて二十八日に行うのだという。僕はそれを見て思わず失笑しそうになった。

 だって、二十八日には世界が滅んでいるんだぜ。それを知っているのは僕だけだっていうのに、僕は思わずそれを報せてやろうかとメールしようと思ったが――それを堪えた。だって何を言われるか解らない。彼女に、僕が馬鹿な人間だとは思われたくなかった。

 だから僕はそれに出席する旨と――彼女に会いたい旨を伝えた。

 日時は明日の午前十一時。

 待ち合わせ場所は僕らが小学校時代の頃にあった近所の公園。

 正直了承してくれるか解らなかったけれど、彼女は意外にも直ぐに了承してくれた。

 明日――世界が終わってしまうというのに、僕は何をしているのだろう。

 いや。

 明日世界が終わってしまうからこそ、僕は彼女に会いたいのだ。

 そして、あるものを見たいのだ。

 神様がこの世にいるというのなら――そもそも世界を急に滅ぼす時点で僕は神様を信じたくないけれど――頼むよ。最後くらい、いい夢を見せてくれよ。

 ――なあ。



//11//


 そうして。

 十二月二十五日、人類最後の日。

 その午前十一時。

 僕は懐かしの場所へと来ていた。

 公園のブランコを漕いで、僕は人を待っていた。

 そういえば昔はブランコでどこまでこげるかチャレンジしたっけなあ……結果として僕が一回転しちゃってみんなから賞賛を受けたっけ。あれは嬉しかったなあ。

 そんなことを考えていたら、僕の方に向かってくるひとりの女性。

 彼女だった。

 彼女は小学校時代からまったく変わっていなかった。あの状態からそのまま背伸びした感じみたいだ。

 黒い滑らかな長髪の彼女は、コートを着てスカートを履いてブーツを履いて、普通の女の子らしく(元々そうだったけれど)なっていた。

 さらに言うなら、小学校時代に比べてさらに可愛くなっていたことだろうか。

 僕は彼女の姿を見て、暫く何も言えなかった。


「……久しぶり、だね」


 彼女の言葉を聞いて、僕は我に返る。そうだった。メールのやりとりこそ定期的にしていたものの、僕と彼女が出会うのは七年ぶりになる。

 決して会う機会がなかったわけではない。会おうと思えば会えたのだから。

 けれど、僕たちは会おうとはしなかった。

 なぜかは、解らなかった。



//12//


「どこへ行こうか?」


 彼女の言葉を聞いて、僕はメモを取り出す。昨日のうちに考えておいたルートだ。なにせ彼女と初めてのデートだから、気合が入るのも当然だ。二時間前に起きて、何度も服装をチェックして、忘れ物もしないようにした。


「ここに行こうよ」


 僕が言ったのは近くのバス通りにある中華料理店だった。昔からあった個人経営のお店だが、そいつがなかなかに美味い。僕はそれを覚えていたのでインターネットで調べておいたのだ。

 時刻は午前十一時二十五分。今から行けば少し早いお昼ご飯にはなろうが、まあ問題もないだろう。

 彼女もお腹が空いていたようで、僕の言葉に直ぐに頷いた。



//13//


 中華料理店はバス通りにあるマンションの一階部分にある。となりが接骨院だったのを覚えていたけれど、今はもうやっていないらしい。


「ここに入るの、久しぶりだよ」


 彼女が笑うのに、思わず僕もつられてしまった。

 店に入ると、女性のかけ声が聞こえた。僕は「二人です」とだけ言った。女性は微笑みをしてそのまま奥へと向かった。別にどこでもいいのだろうか。

 一先ず出口に近い席へ座る。テーブル席で、奥に僕が座り、彼女が手前に座った。

 女性がお盆に水を乗せてやってきたのはそれからすぐのことだった。

 僕はラーメン、彼女はチャーハンを注文した。

 直ぐにやって来たけれど、それまでの間、僕と彼女が会話を交わすことはなかった。

 食べたあとも会話を交わすことなく、僕は会計をした。二人分で千円かからないくらい。相変わらず安いお店だった。

 店を出て、彼女に訊ねる。


「どうだった?」

「美味しかった」


 彼女は笑っていた。つられて僕も笑う。


「……そういえば」


 彼女は返して僕に訊ねる。


「どうして今日は会おうとしたの?」

「君に会いたかったからさ」


 その言葉はどうなんだろうか――僕は思ったよ。けれど、彼女はそれに違和感を覚えることもなく、小さく微笑んで、


「そっか。それを聞いて嬉しいよ」


 そう、答えた。



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