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第一話

//01//


『あなたは電子空間にいるただのデータです』


 そんなことを言われたが、それでも特に不思議に思わなかったし悲しみも覚えなかった。かといって嬉しいかと思えばそうでもないし、結局適当な気持ちにほかならない。

 突然そんなカミングアウトをされたから何も反応が出来ないのかとか言われればそんな感じがしてもならないが、別にそうじゃあないと思う。簡単に片付けられる事でもないだろうな。

 ただ、達観していただけ。

 ふうんそうなのか、と興味なさげに呟いただけ。

 いや、現に興味なんてないんだけれどさ。

 そもそも僕はこの世界で特に不満にも思っていなければ面白くもない。強いて言うなら退屈だということが不満点だと思う。

 だけれど僕はそれに苦痛だと思ったこともないし苦言を呈したこともない。言ったって無駄だからだ。無駄なことは言う意味がない。

 だから僕はその事実を言われても。

 特になにも思わなかった。


『あなたはこれからこの世界のリセットに巻き込まれます。制限時間は二十四時間。ぜひ、有意義な時間をお過ごし下さい』


 ほかの人間にはそれを伝えているのだろうか。僕は尋ねてみた。

 声は機械的に、抑揚もなく答えた。


『いいえ、あなただけとなります。どうか有意義な時間をお過ごし下さい。どうせ消えても記憶は残りません。残らないということはあなたがここでどう過ごそうとも変わりはしないということにはなりますが』


 おしゃべりな声はそう言ってあとは聞こえなくなった。

 ふと、空を見上げるとまだ暗い夜だった。

 日付は、先程変わって十二月二十四日午前零時七分。

 つまりは全人類、今年のクリスマスを送る前に消えてしまうということになる。



 ――クリスマスプレゼントにしては、少々仰々しい気もした。





//02//


 そもそも、どうして僕がその胡散臭い話を信じ込めたのかということを話すことにしよう。普通の人が聞けば戯言に思うだろうし幻聴に思うだろう。現に少し考え始めてみると僕が考えてもなんだかおかしな話だと思うくらいだから。

 そんなことよりも僕はその残された時間をどう過ごそうかと、意外と冷静に考えていた。

 何でだと思う?

 それは僕にも解らない。データというのが理解もできないしどうして消すのかも解らない。

 だって生きているのだから。

 その話によれば僕は十八年の人生は凡てデータだったということになる。それは愚か親から生まれたのもデータだということだ。何とも精密なゲームだ。データだ。

 人生はセーブもできない一度きりのゲームだとか聞いたことがあるが、実際ゲームが終わる時のように人生は呆気なく終わってしまうのだろう。

 だけれど、ここまで他意のある終わり方だとは思わなかった。

 だけれど、僕は意外とそれを受け入れていた。

 どうせならその天の声が羨む程の最後の一日を送ってやろうじゃないかと思い始めていた。

 作戦とかは考えてないけれど、これが抗いだとかいうのだろうか。

 抗いだというのなら、僕は精一杯抗ってみようと思う。

 悔いのないように、生きようと思う。



//03//


 さて。

 それじゃあどうしようか――とふと何世代か前の携帯電話を取り出して画面を見るとメールが来ていた。メールを確認するとそれは幼馴染の岩木からだった。

 ここで岩木について話す必要があると思う。岩木は小学生以来の同級生だ。小学四年生の十月という微妙な時期に転校した僕に直ぐに優しくしてくれたのが岩木だった。

 白いワンピースを着て黒い長髪の彼女は、クラスのマドンナ的地位を確立していた存在だ。僕はすこしの間それを知ることはなかったのだけれど、それを知ってからは思わず戦いてしまったな。だってそんな高い地位にいる存在がスクールカーストに入ったばっかの僕と仲良くするなんておかしな話だし。

 まあ、そういうわけで僕は彼女のいる間では虐められることはなかったが、彼女がいなくなればそういうのは一変してしまった。簡単に言えば僕は隠れて虐められていたということになる。

 僕はそれを隠していた。彼女には笑顔でいて欲しいから。

 だから僕も殴られたりしたところも隠していたし、それを痛いなどと顔に出したこともない。

 彼女が悲しんで欲しくないから。笑顔でいて欲しいから。

 出会ったばかりなのに、僕はそんなことを思っていた。

 そのいじめは彼女と僕が卒業する一年半は続いたわけだけれど、僕は彼女にいじめのことを教えることは一切なかった。

 もしかしたら彼女も気がついていたかもしれない。

 だけれど彼女はそれを表に出さなかったし、僕もそれを表に出さなかった。

 卒業してからは僕たちは別々の中学校に進学した。電話番号は交換していたから毎日電話した。

 当時は携帯電話が流行していたけれど、中学生で携帯電話を持っている人なんてそうはいなかった。

 だけれど転勤族の僕の親は早々に家の電話をゴミ箱に捨て去った。その理由が「いちいち契約しなおすのが面倒臭い」とのことだった。だから僕は中学生で携帯電話を持つことになったのだ。

 それを電話で言うと彼女は「おマセさんだね」とだけ言って笑ってくれた。それがとても嬉しかった。



//04//


 さて。

 僕の中学時代の話をしよう。

 僕は転勤族の親の元、引っ越した。引っ越した場所はその県では第三位の人口を誇る市の中央部にあるベッドタウン。公園の傍にある小さな寮だった。とはいえ、寮に入る立場ではなく寮を管理する立場だった。父親はそういうものを管理する会社に入っていた。

 そういうわけで僕は中学校も別のところになったのは間違いないわけで、入学式に辺りを見渡しても誰も知らない人ばかりだったのを覚えている。

 入学式が終わってクラスでの自己紹介タイム。

 そういうタイムってのはどのクラスでもあると思うんだけれど、僕の場合は少々特殊だったかな。

 先生がひとりひとりに焦点を当てたクイズを出題するんだ。勿論先生と学生は入学式前に入念なミーティングをしている。先生は凡てを知っていて、僕らは凡てを知らない。先生のクイズによってそれを知ろう、ってわけだ。


「はい、それじゃあ……彼の初恋の相手は誰でしょーかっ?」


 メガネをかけたおっとりとした先生が僕をテーマにした問題を出題したときは驚いたというより呆れたな。だってそんなこと僕に聞いていないのだから。

 つまりこの問題は僕にしか解らない。

 流石に答える必要もないし、答えても誰も解らないだろう。

 まあ、そのとおりで誰も正解することはなく僕も答えようとはしなかった。「まあ……小学校の時のマドンナ的な娘でしたよ」とだけ言ったけれど。

 その後は自由に話すこととなる。小学生時代を執拗に聞いてくる人はいたけれど僕は凡て適当に受け流した。

 別に気に入らないわけじゃない。

 彼女と同じ中学校だったのが、気に入らないわけじゃなかった。

 だけれど彼女がいないのはあまりにも悲しくて。

 彼女といた期間はわずか一年半というとても短い期間に過ぎないのに。

 それでも僕は。

 彼女がいない、その事実を受け入れられなかった。


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