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Fantasy ground  作者: エルマ
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ダリアと悪魔の魔法学 一話

 

 日が高い雪がしんしんと降り積もる寂れたボロ田舎の町。

 ひっそりとしている家々の間を縫うように歩き、黒いローブを着た男の後ろをついていく。

 こんなに雪が降り積もり凍えた風が吹いているというのに自分は薄着でいた。薄汚れたチュニックにズボンといういでたちでこの冷気を防げる姿ではなかった。

 ガチガチと歯がなり体が小刻みに震える。両手首と両足首の鉄の輪とそれに繋がっている鎖がジャラジャラやかましく鳴った。

 自分の後ろを一列に歩いている、同じく鎖に繋がれた子供達の中にも薄着の子がいて共に震えていた。

 その鎖を持っている黒ローブの男は子供である自分が薄着で寒く震えていようがお構いなしで三回の食事以外なにも与えてはくれない。目的地へ向けて一心不乱に歩いている。

 看板がギイギイと揺れる酒場に黒ローブの男は入っていった。暖かい家の中へ入れると嬉しくなり後に続いた。だが、中に入っても暖炉に火はついておらず、薄暗い閑散とした中は外と同じぐらい寒かった。

 黒ローブの男は埃が舞う奥へと入っていき、みすぼらしい店内には似つかわしくない豪華な真っ白の毛皮のコートを着て木の椅子に座っている人物に歩み寄り口を開いた。


「お連れしましたよ、マスター」


「ごくろうさま」


 毛皮を着た人物は声を聞いてようやく男だとわかった。

 若い20代ぐらいの男で女のように長い銀の髪に女のように美しい小さな顔をしている。真っ白な肌に燃えるようなルビーの瞳が印象的だった。


「お腹が空いただろう、早くお城に連れて行ってあげよう」


 毛皮の男の言葉に後ろの子供達が騒ぐ。

 暖かいお城であればいいなと何か食べさせてくれそうな気配に顔が緩む。


「少し待ちなさい」


 毛皮の男はそう言うと椅子から立ち上がり、手を前に差し出してユラユラと動かした。すると白い煙と共に白くて長い杖が毛皮の男の手に現れた。

 長い杖には幾つもの透明な宝石が飾られて綺麗だった。

 毛皮の男はその白い杖をゆっくり降った。すると白い杖のてっぺんから青い光が溢れ流れ出してくる。地面に落ちた青い光は消えずに動き回り青白い光を放って陣を絵描き出した。

 この光景と陣は書物で見たことがある。魔法陣だ。


「さぁ、陣の中へお入り」


 毛皮の男が言う。

 黒ローブの男は早くしろと言わんばかりに子供達に繋がっている鎖を引っ張り子供達を陣の中へと入れていく。

 オレや子供達は早くご飯にありつきたい思いが強く、抵抗せず早々と陣の中に入った。

 みんな陣の中に入ると周りの景色がぐにゃりと歪む。そして徐々に景色はあの閑散とした酒場ではなく、大きな広間へと変わった。

 子供達の驚いた顔が見える。

 急に寒さはなくなり暖かさが体に伝わってくる。側に大きな暖炉があった。

 子供達は暖炉を発見すると弾かれたように側に寄れるだけ寄った。

 周りを見回すと豪華に装飾された高い天井と壁、大きなシャンデリア、大理石の床、大理石の長テーブル、いくつもの革張りの椅子、絵画に彫刻。毛皮の男の言うとおりここはお城の中の様だった。

 毛皮の男が大理石の長テーブルの上であの白い杖を振るうと長テーブル上にたくさんの料理が現れた。

 子供達の喜びの声があがる。

 毛皮の男は次にこちら側を振り向きまた白い杖を振るうと手足にはめられた鉄の輪が高い音を立てて割れて地面に落ちた。

 突然の自由に子供達は喜びに顔を輝かせた。だが、自由だからといって長テーブルにある料理にがっつく事はしなかった。それは毛皮の男が怖かったからだ。毛皮の男は魔法を使える。突然気が変わって得体の知れない魔法を唱えてしまっては困る。

 毛皮の男は怯える子供達にクスリと笑うと


「さぁ、お食べ」


 そう一言いい一番離れた席へと向かい腰掛けた。

 子供達は毛皮の男がなにもしてこないとわかると恐る恐る、ゆっくりと長テーブルに近づき革張りの椅子に座った。

 毛皮の男はもう食べていて、赤いオレンジを口に頬張っていた。それをしばらく眺めて、湯気のでるスープを一口飲んだ。暖かくてとろけそうな味だった。

 家庭的な味ではなくてお店で食べるような味ですぐにスープは空っぽになった。パンは

ふっくら甘く、お肉は油が滴り、柔らかくて溶けていった。

 子供達は夢中で美味しい料理を頬張った。ここがどこだか、毛皮の男の事も忘れて腹を満たすことに没頭する。

 オレは時折毛皮の男を見る。

 毛皮の男はニコニコ微笑み、子供達を眺めていた。

 毛皮の男は子供達をどうするつもりだろう。

 南国の島の小さな町にオレは住んでいた。

 二週間前、午後の昼下がり、原っぱでボールを蹴って遊んでいたらあの黒ローブの男に出会った。

 それからすぐに捕まって、いろんな国を船や馬車、魔術師に頼んで瞬間移動したりしてまわり、5~8歳の子供達、自分を合わせて16人を黒ローブの男は順々にさらっていった。

 毛皮の男が注文したのだろうか、みんな美形で美女ぞろいだった。

 料理はあっという間にどれも空になり、手持ち無沙汰になった子供達は隣の子とどこから来たのかなどを話し始めた。

 同じく席に着いていた黒ローブの男は立ち上がり


 「部屋に連れて行く」


そう言い、廊下の方へ歩き出した。子供達は慌てて席から離れて後を追う。


 「ゆっくりお休み子供達」


 と後ろから毛皮の男の声がした。

 振り向くと大広間から廊下へ移った子供達を毛皮の男は見送っているのが見えた。


 黒ローブの男は早々と歩き、その速度に子供達がついてくるかどうかなんて全く気にしない。歩く速度を緩めてくれる親切さはない。しばらく長い廊下を歩き回り、広いお城だと感心した。

 黒ローブの男はたくさんの部屋がある廊下にみんなを連れてきた。


「ここがお前達の部屋だ。好きな部屋を選べ」


 黒ローブの男はそう言うと追われるかのように去っていった。

 子供達はその後ろ姿を見送り、やっとの解放に安堵の声がもれた。

 部屋は二人部屋で、壁に二段ベッドと窓際に机が二つ並んでいた。


「一緒の部屋になろう」


 そう声をかけてくれたのは、青い髪が印象的で知的な顔をした、4~5歳の同い年ぐらいの男の子だった。男の子は雪国から攫われてきたので暖かいトレンチコートを着ていた。

 それを羨ましく見る。


「僕はアルダ」


「オレはダリア」


 よろしくの握手をする。

 アルダもオレも疲れ果てていてベッドに飛び込み、おやすみを言い合って布団に潜り込む。

 鉛のように重い体は目を瞑るとあっという間に眠りに落ちた。



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