バカ息子
家に戻ってすぐにアーニィ準備をした。準備と言っても、いつものように何本も剣を腰に差したり、背負ったりはしていない。ただ一振りだけ銅剣を持ち出すだけ。母親には出会わなかった。出会わなくて良かったかもしれない。説明もできないし、今は勢いが大切だった。
準備を完了させ、玄関に向かう。靴を履き直して、痛みに耐えながらまた壁に手を付けて立ち上がった。
その時、戸が開いた。アーニィが開いたわけではなく、顔をのぞかせた父、シヴィルが開けたものだった。
シヴィルはアーニィの姿を見ても、特に名にも反応はせず、口に咥えたパイプから紫煙を立ち上らせている。
二人とも、ばったりと遭遇したのは予想外だったろう。立ち尽くす。
特に会話もなく、アーニィには彼に言うこともない。壁に手を付きながら、アーニィはそのままシヴィルを無視して、彼の脇を抜けて外に出ようとした。
出入口ですれ違う。アーニィは腰を曲げて壁に手を付きながらでしか歩けない。思わず、止められてしまうかもと思った。
すれ違う瞬間に、アーニィはシヴィルをけん制するように睨みつけた。止められるのも、横槍を入れらるのも嫌だった。
「……早よういかんか」
家に入りながら、シヴィルが言った。アーニィは立ち止まり、振り返った。
「止めないのかよ」
「止める理由なんぞないだけじゃ」
シヴィルも振り返る。視線はアーニィ自身には向けられず、彼の手元へ。
「銅剣を持っとるのか。そいつを使うときは気を付けろ」
シヴィルの忠告に、アーニィは眉をひそめた。
「どこで手に入れ家は知らんが、そいつに宿った命は簡単にゃあつかえん」
「……」
「振るときに思いを込めな。そいつに宿った命を使えるだけのありったけの気持ちをよ」
忠告。いつ以来だろうか。剣について何かを言われるのなんて、家を出てからはなかったし、道場で修行をさせられていたときもまともに耳を貸したことはなかった。
それでも、今はありがたく感じた。今は自分のためにこの銅剣が必要なのではない。リオのため、トヨのためにはこの銅剣を使えるようにならなければならない。
「ああ……」
アーニィは自然と返事をしていた。でも、それだけでは自分の心にある感情は満足してくれなかった。
「ありがとう」
教えてくれたことに対して、アーニィは素直にそう思った。
何かを言われても、それを聞くのは嫌だった。嫌というより、ただ気恥ずかしかった。アーニィはそのまま歩き出した。
「ち、バカ息子め」
シヴィルは去っていく息子の足音を聞きながら、ぼそりと無感情に呟いた。この男も、息子に似て不器用だった。
ども、作者です。
今回こそはちゃんと予告更新を間違えないように……。




