表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カタナガリ  作者: リソタソ
オニキリマル
97/104

寝ている場合じゃない

 時間は遡り、緊急事態を知らせる鐘が街中にまで響き渡った、その直後のこと。

「大丈夫~?」

 母親がアーニィへ心配そうに声をかける。玄関で靴を履いているアーニィの服の背に、幾重にも巻かれた包帯がでこぼこに浮かび上がっていた。

「大丈夫だよ。ちょっと歩いてくるだけさ」

 アーニィが立ち上がる。言ってはみたが強がりだった。立ち上がっただけで背中はぴりっと痛み、よろめいて左の壁に手を付いた。

「体に無理させちゃだめよ?」

「分かってる」

 母親の心配を背中にひしひしと感じながらも、アーニィは歩き出した。壁に手を伝いながら。

 警報の鐘が街中に鳴り響いたのはアーニィも聞いていた。外で何かが起きている。何かが気になっていた。自分の目と耳で確認したいと思った。

 それにいつまでも寝続けてなどもいられない。復帰に時間はかかりそうだが、少しでも早く楽に動けるようになりたかった。

 鐘の音は無理にでもリハビリを始めようとするのにはちょうどいい理由になってくれるし、何か胸騒ぎがするのも事実だった。

 家を出て気が付いたことは二つ。一つは、街の中央付近、士官学校に近い側がいやに騒がしくなっていた。人の声も、数多の足音も聞こえている。アーニィの家の近所は街の中央から離れているせいか、静けさの方が勝っている。もっとも、もう既に多くの人がどこかにいっているのかもしれないが。鐘が鳴って、避難命令も出ているのだろうか。

 そしてもう一つの気付いたことは、自分が思った以上に歩けなかったことだ。

 一歩歩くたびに、息が上がりそうなほどに背中が痛む。走ることなんてもっても他で、壁に手を付けていないと一歩も進めそうになかった。自分の体のことは自分自身が一番わかっているつもりだったが、痛みも動けないのも想像以上だった。

 途中でアーニィは立ち止まった。ひとまずの休憩。

 どこまで歩いていけるだろうか。街中までいければいいかな。

 アーニィがそう思っていると、道の先から人の姿が見えた。

「ああ、アーニィちゃんじゃないの」

「どうも、おばさん。お久しぶりです」

 ふとましい、近所のおばちゃんだった。

「いやあね、大変よ大変」

 訊いてもいないのに、おばちゃんが口を開いた。身近で何かが起きた時、その情報をすぐに仕入れて広めるのは市井の人達、特に彼女のような、噂と日常の変化に敏感なおばちゃんだ。

「そうみたいですね。避難命令とか出てるんですか?」

 アーニィにとっては渡りに船でしかなかった。

「そうじゃないんだけどね、まぁとにかく大変なのよ。あたし聞いちゃったんだけどねぇ、城壁の向うから赤黒い化け物がやってきてるってのよ。うちのお隣さんのお友達が兵士から聞いたみたいだから間違いないわよぉこれ」

「赤黒い……」

「ええ!もうでっかいって話よ! もう空に届いちゃうくらい!」

 アーニィはここからも見える城壁を見上げた。おばさんの言ったことにはさすがに誇張されているだろう。それほどでかくはない、空まで届くのなら、ここからでも壁の上部から見えているはず。

 ただ、デカい何かが近づいているのは本当だろうし、何よりその正体にアーニィは勘付いた。

 ノウだ。赤黒いのはサビ。あの錆びを操る能力を持つ妖刀でもって何かしらの怪物を作っているのだろう。スケールの大きな攻撃をするタイプだ、船を落下させた時のように。

 ノウが来ているのであれば、妖刀がある。トヨも向かっているかもしれない。

 気配で来ているのは確実に分かっている。かもしれないじゃなく、間違いなくトヨはノウの元へ向かっている。

 今の自分は力になれるのか? 満足に歩くこともできず、剣も振れない、闘うこともできない自分に。

 自分のことは自分が良く分かっている。妥当な判断をするなら、このまま待ち続けるのが無難だ。トヨが勝つことを願って。

 でも。

 今のアーニィにそれはできそうもなかった。

 トヨの力は信じている。トヨもいるのなら、リオも一緒にいるだろう。リオは妖刀も持っているから、それを使って闘えば、例え巨大な怪物といえども、なんとかできるかもしれない。

 けれど、相手は巨大な怪物。どれほどの巨大なのかは想像もつかない。たった二人でどうにかできるものなのだろうか。

 このまま二人が無事に帰ってくることを願っている、願うことしかできないのなど、アーニィは嫌だった。

 何か自分にできることはないか?

 何か自分に。

 巨大な怪物をどうにかできる何かが……。

 そうだ。巨大といえば、あれがある。

 銅剣。ずっとずっと使っていなかった。というか、使い方がまた食分らなかったし、ただのコレクションでしかなかった銅剣が。トヨと初めて会ったときに、あの銅剣は巨大なドラゴンとして二人に立ちはだかった。

 もし、あれが使えるようになれば。巨大な化け物とかいうのを止められるかもしれない。

「もう、大変なの、これからご飯の準備をしようかと思ってたところなのにねぇ……あら?」

 おばさんはまだいろいろと話していたが、アーニィは既に通って来た道を戻り始めていた。


ども、作者です。


今日は遅めの更新になりましたね。野球見てました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ