報告
軍事施設の執務室、クイーンの居城たる部屋の扉を禿げ頭の文官が勢いよく開いた。
息も上がり、つるつるの頭頂部からは湯気が上がっている。彼はここまで大急ぎで走ってきた。
大急ぎになるのも仕方がない。鳴り響いた鐘は緊急事態を知らせるためのもの。彼は一度何が起きているかを把握するために、見張り台に向かっていた。
その道中に報告をするために見張り台から下がってきた見張り兵に遭遇し、何が起きていたのかをじかに聞いた。巨大な怪物にこの町が襲われようとしていることを。
信じられないような出来事だったが、部下を疑っていては上司は務まらない。自体が事実であると理解すれば、既存の戦力でどうにもできないことは自明であった。怪物などを普通の人間が対処できるはずもない。
すぐさまクイーンに報告し、彼女に前線に立ってもらう必要があると判断し、こうして執務室にやって来たのである。
「クイーン、大変です……」
クイーンは執務室に持ち込まれた長椅子に寝転がっていた。ここにも鐘の音は届いていたはずだが、なんとものんきな格好だ。
「分かっている。外で何やら大事が起こっているらしいな」
無事、クイーンの耳にも鐘の音はちゃんと聞こえていたようだ。鐘の音は街中にだって響き、その意味も誰しもが知っている。逆にこれくらいは察していてもらわなければ、統治者失格だ。
かなりの大事でなければ、鐘の音は鳴らない。それが鳴った意味はちゃんと理解しているだろうから、必ずクイーンは動いてくれるだろう。
ただ詳細を鐘の音だけで知ることはできまい。のんきにここにいるのも、報告を待っていたのだろう。
大事には必ずクイーンは動いてくれる。そう信じた文官は、一旦そのことを置いておくことにした。もう一つ、一応クイーンの耳に入れさせておいた方がいい報告事項があった。いわなければ後でドヤされるのは文官の自分自身だった。
「ええそれもありますが……」
「まだあるのか?」
「しかし、大したことではないですよ。外で起こっていることと比べるとあまりにも小事です。外では……」
「いいから話せ」
「は、はい……あの山賊女がどうやら脱獄したらしく……」
寝転んで話を聞いていたクイーンが急に起き上った。
思わず文官は顔をしかめた。怒られる。こんな下らない事を、大事の前に報告するなんて。いやいや、報告しないと後で叱られるかもしれない。細かい事でも報告はする。仕事はきちんとこなさなくては。
「なんだとッ!!」
クイーンは眉間に深くしわを寄せ、文官をにらんだ。
「ひっ・・・・・」
やっぱり怒っている。一早く知らせるべきことを優先すべきだったか。
そう考えている内に、クイーンは長椅子を下りて、傍に立てかけてあったハンマーを手に取った。
「く……探しに行く」
「は?」
「いいか、外はエリートたちに任せろ。先日のようなことはそうやすやすと起こるものではないわ。息は現場にまかせるから」
「で、ですが。見張りに聞いた話では……」
「黙れ。そんなことよりも今はあの脱獄したバカ娘n方が重要よ。いい。そっちは任せたわ!」
文官の疑問などないものだと判断したかのように、クイーンは颯爽と出て行ってしまった。まだ怪物の件は報告できていないのに。
そんなに、脱獄した山賊娘を探しに行くのが、クイーンにとって大事な事なのか?
文官にはさっぱり分からない。優先事項としては明らかに下なのだが……。なぜなのか。しばし考えようとしてしまうが、すぐに気を取り直す。それよりも任された仕事をこなさなくては。
ども、作者です。
今週は朝に投稿してみました。どのタイミングがベストなんですかね。




