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カタナガリ  作者: リソタソ
盗賊女王とサムライ
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七本の妖刀

 アーニィはトヨが告げた一言に衝撃を受けていた。それは剣マニアを自称する彼自身にとって、非常に許しがたい宣告でしかなく、聞き捨てならないものだった。

「カタナを破壊するだぁ!!?」

 アーニィの眼鏡の奥の目が困惑の色で満ちる。できるならば、嘘であってほしかった。けれど、トヨはこくりと深く頷き、垂れた横髪をうっとおしそうに掻き揚げた。

「ああ」

 凜とした返事が、静かな緑に反響する。まだ二人は山を下りている最中だった。

「いったい、何のために……」

「言えんな」

 また、秘密かよ、とアーニィはうんざりした。勝手について行っている身の上とはいえ、カタナを、剣を破壊すると宣告されてしまえば、黙っている訳にはいかない。

「どんな理由があろうと、そんなことさせるかよ。剣マニアとして!」

 彼は自分の背中と腰の剣に両手を掛けた。すぐにでも剣を抜けるよう構える。

「私を倒してでもか?」

 トヨも、自分の剣に手を掛ける。アーニィは彼女から高圧的なプレッシャーを感じた。あの大剣のせいか、それとも彼女自身の力のせいか、それは分からないが、どちらにせよ、簡単に倒せる相手ではないことはぴりぴりと肌に感じるような威圧が教えてくれた。

「……もちろん」

 アーニィは意を決した。すぐにでもかかってこい、血気盛んな彼女なら飛び込んでくるはず。

「ふ、全く……お前は剣マニアの癖に何も知らんのだな」

 しかし、高をくくっていたアーニィの予想に反して、トヨは呆れたように鼻で笑って、自らの剣から手を離したのだった。

 さすがにそれにはアーニィも拍子抜けした。もしや、血気盛んだったのは自分の方か? などと思うくらいに、頭に冷静さを取り戻す。

「何をだよ?」

 アーニィも剣から手を離して尋ねた。

「七本の妖刀についてだ」

「ヨウトウ?」

 彼にとっては一度も聞いたことのないフレーズで首をかしげる。

「妖刀から説明をしなければならんか……まぁ、その程度なら大丈夫だろう」

 こほん、と咳払いをして、トヨは薄い胸板の前で腕組みをして説明を開始した。

「妖刀、というのは悪しき力を備えたカタナのことだ」

「悪しき力?」

「ああ。悪しき魂、とでも言おうか、作り手であったり使用者の魂が剣に宿る、ということはさっきもお前が言っていただろう?」

「ん、そうだな」

「その中で、もしも悪い人間が、悪い思いを持って剣を作ったり、剣を使用したり、無念な思いがその剣に宿れば……、というのは考えたことは無いか?」

 アーニィの答えとしては考えたことはなかった。それは、もともと剣の道場で教わっていた時分から、復讐などの私怨、すなわち悪い道に剣を使うことは禁止である、と教わっていたからだ。いけないことはやらない、という主義の彼にとって考えるきっかけすらないことだった。

「悪い魂が宿ったカタナってもんは、そんな壊さなくっちゃならないものなのか?」

 トヨの言いたいことは妖刀、というものが悪いものだから壊す、ということだとなんとなくアーニィは察した。それの通りに、彼女は頷き返した。

「その通りだ。妖刀は七本ある。それらは強大な力を持ち、世界を破滅に導くほどの力を持っているらしい。私はそれを阻止せねばならない、世界を救わねばならんのだ」

 トヨは言いながら、自分の大剣、エンシェントの柄に手を掛けた。

「それが、私の背負った使命。エンシェントに選ばれたものの使命なのだ」

 きっ、と彼女は勝ち気な目をアーニィに向けた。それに返すように、アーニィは頷き返す。

「なるほどね」

「妖刀について、それからそれらを壊さなければならない理由について、理解してくれたか?」

「一応は、な」

 実際のところ、アーニィは話の理解こそはしたものの、これらのすべてのことについて、全部鵜呑みにしていい物かどうかは、判断に困っていた。

 いきなり、世界を救うためとか、スケールの大きなことを言われて、はいそうですか、と納得するのもいかがなものか、と疑ってかかるのが、ある程度成長した青年としては当然のことだ。虚偽が混ざっていない、とは言い切れない。しかし、その反面、アーニィには先ほどまでに見てきたことがある。ドラゴンになる銅剣のことだ。それについて、アーニィには一切知りえなかった情報を彼女はすらすらと彼に告げていた。説明だけでは納得できなかったようなことだけど、何よりその実物が目の前にあった。彼女が嘘を語っている、というよりは真実を語っている、と痛切に思わざるを得ない。もしも、そこに違いがあるとしても、トヨが持っていた知識が違う、というだけの話だろう。

 話のスケールの大きさ、世界を救うため、などと言うことは眉唾物であることに変わりはないが、妖刀、というものがあるということは極めて事実に近いだろうとアーニィは判断した。そんなところで変に嘘を吐けるような女の子ではないと、トヨについて思っていることも、その判断を後押ししていた。

「理解はしたよ。ただ、たとえ妖刀とか言うものを見つけたとしても、そう簡単に壊さないでくれよ?」

「……どうしてだ?」

「ぜひとも、俺の知らないその妖刀とやらをこの手で持ってみたい! 振り回してみたい! 重量を感じてみたい!!! ぐへへ」

 トヨは絶句した。やれやれ、この男はつくづく剣にご執心らしい、とあきれたため息を零すのだった。

「ところで、その妖刀についてどれだけ知ってるんだ?」

 元の調子に戻ったアーニィが尋ねると、トヨは答えにくそうに、少し躊躇いがちに口を開いた。

「……七本あるだけだ」

「それだけ?」

「ああ」

「名前とか鞘の色とか誰が持っているとか……知らない?」

「知らん。私が聞いていたのは、七本の妖刀があって、それが世界を混沌に導く、というだけだ」

 おいおい、とアーニィは額に手を添えた。

「それじゃあ、ほとんど前情報無しでこの大陸中のあらゆるところで探さなくっちゃならないってことか!?」

 砂漠で一粒の決まった砂粒を見つけるような、途方もない作業だ。

「そ、そのための旅だろう! それに、探している間により自分の力を高めることもできる」

「高めるのはいいけど、衰えちまうくらい時間がかかるんじゃないの?」

「そ、そんなにはかからんだろう!」

「根拠も無いのに良く言うよ」

「う、うるさい! わ、私だってできれば早く見つけたいから、ああやって町や村に訪れてはいろいろと聞き込みに回っているんだ!」

「成果は?」

「……無い。というか、そもそもカタナがない村や町が多すぎなんだ!!」

「そりゃそうだろう。カタナは高級品、しかも作っている所も限られる……まぁ、王都に行けばそれなりに持っている人はいるんじゃないか?」

 ただ、結構な金持ちが持っているようなものだから、そう簡単にお目に掛かれないし、いきなり大剣で切りかかってぶち壊そうとすれば、兵隊に捕まって打ち首にされそうなものだった。

「……むぅ。とりあえず、王都でもっと聞き込みをせねばな」

 とりあえず、当面の目標はそれに定まったようだ。口を膨らませたトヨが歩き出して、アーニィはその彼女の横に並んで付いて行く。

 歩いているうちに、少し開けた場所に出た。山道は一本道の左右に均等の距離で木々が並んでいるようなきれいに整備された道だったが、急に出てきたそこは、まるで踊り場のように広く円状に木々が駆られている。そして坂道の中に急に現れた平坦な台地だった、

「……妙な場所だな」

 トヨがいぶかしげにあたりに目を凝らす。

「休憩所、みたいなもんじゃないのか?」

 対してアーニィはいかにも気楽そうに、あくびを洩らしながらその広場に一歩足を踏み入れた。

「どうだ、休憩はできそうか?」

 そんな彼に、トヨは意味深に問いかけた。

「あー……こりゃ無理そうだ」

 眉を八の字にしながら、アーニィは剣に手を掛けた。

「だろう?」

 トヨもエンシェントを背中から下ろして、引きずりながらアーニィの隣に立った。ざわざわと、二人を取り囲んだ茂みの中から物音が聞こえていた。

「こんな展開、前にもなかったか?」

「あったよ。はー、単純な奴らの考えそうなことだぜ」

 二人の心配通り、茂みの中からは人が姿を現した。そいつらは全員が男で、頭に紫色の頭巾を被っている、ついさっき、山を登る際中に見た山賊たちと同じ格好をしていた。




ども、作者です。七英雄とか、七ってつくととても語呂がいいですね。七魔王、七聖剣、七賢人、七福神、うーんどれもかっこいい響きですね。

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