墓場
「にーさん、ちゃんと意識ありますか?」
「あるよ……・これで何度目だ?」
「何度でも訊きますよ。にーさんはいつ気を失うか分かりませんから」
実際、アーニィは本当にいつ気を失ってもおかしくはなかった。背中に大けがを覆い、彼の背にリオの上着をかけてもらってはいるものの、流れ出る血は止まらない。いつぞやみたいに、出血多量で意識を失うのも時間の問題だ。
しかし、気を失う訳にはいかない。トヨ、アーニィ、リオの三人は墓場を目指していた。トヨの感じる気配のおかげで、ノウが海の中に入って逃げたのは確認済みだが、追えるはずもなかった。トヨもどこにいるのか明確には分からないそうだ。
それで、改めて別の場所、墓場を目指すことにした。ただ、こちらもトヨの感じる気配のおかげで、墓場に妖刀がある可能性、ノウの仲間がいる可能性は極めて低いことも確認済みだった。
それでも自分の目で確認しないと。そういう思いが、アーニィにもトヨにもあった。
そしていま、墓場に向かい歩いている最中だ。怪我を負ったアーニィは上着を渡し、上半身がほとんど下着姿になったリオの肩を借りて、やっと歩いているというありさまだった。
そんなアーニィの姿を見上げているトヨ。
「なぁ、アーニィ」
「なんだ?」
「私が運んでやろう。その体性じゃ歩き辛いぞ」
その体勢、というのはアーニィよりも背の高いリオの肩を借りているせいで、アーニィは背伸びをしながら歩いている、若干無理のある体勢のことだ。逆にそのおかげで意識的に歩く必要があり、意識を失わずに済んでいるとも言えるのだが、歩き辛いと言えば歩き辛い。
ただ、トヨがアーニィを運ぶ方が無理がある。
「トヨには無理だよ」
「む、無理ではないぞ。お前くらい……」
トヨがアーニィの足に手を伸ばし、両足を掴んで持ち上げる。
「足を持ち上げるな! 動けなくなるだろ!」
アーニィの言うことも気に留めず、トヨはぐんぐん足を持ち上げる。
「痛い痛い痛い! トヨ、余計なことは止めてくれ、背中が曲がってるから! 傷が縮んで痛むから!!」
なぜもこう、トヨはムキになるんだ。アーニィはトヨの抱える複雑な心境に気付いてはいない。リオはそんな二人の会話を耳にしながら、やっぱり仲がいいな、と思いながら歩いていた。
墓場の下までやって来た。墓場は海へ突出した小さな丘の上に作られている。港から歩いていけば石畳の階段があり、そこを登れば墓石の並ぶ墓場だ。
階段を上って見ると、やはりここに妖刀を持っているような人間の姿は全くなかった。誰一人として人がいる気配はしない。
ただ、誰かがいたという形跡は会った。
「これは……」
リオは墓場の現状を目撃して、ちくりと胸を痛ませた。リオは時折この墓場にまでやってくる。他ならぬ自分が幼い頃に死んでしまった両親の墓参りのために。
その両親の墓が掘り起こされている。土があたりに盛られ、ぽかりと開いた穴の中に目をやると、二つの柩があった。その柩の蓋はしっかりと締まっている。周りの穴に、茶色い泥に混じった汚い水たまりができあがっていた。
なぜ、自分の両親の墓が掘り起こされているのだろう?
このタイミングで……、そう言えば、ここに妖刀があったのだと、トヨやアーニィは言っていた……。
「まさか……」
リオが何かに気付きかけたとき、すたすたと足音が聞こえてきた。
「遅かったのう……」
その姿を見て、リオとアーニィは目を丸くした。
「親父……」
アーニィの父、シヴィル・マケイン。腰に差した剣とは別にスコップを持っている。服は泥にまみれ、顔や首のあたりに軽い傷が付けられている。
「なんでここに」
アーニィが尋ねるが、シヴィルは全く堪えずに、黙々とリオの両親の柩の上に土をかぶせていた。
「いつからここにいたんだよ」
アーニィが再び問う。
「ちょいと前じゃ」
「父さん、ここに他に誰かいませんでしたか?」
「おったが、おらんようになったわ、三人とも」
リオの問いにはシヴィルはすぐに答えた。
「三人?」
トヨが訊いた。
「一人は初めに、もう二人はあとに……お前らが気にすることじゃないがな」
シヴィルは多くを語らない。
「三人、もう一人妖刀を持つ奴らの仲間がいたのか……」
トヨが呟く。
三人、と聞いてリオには察しがついた。
「女の子と、男でしたか?」
シヴィルはこくりと頷いた。
「女の子? それって、あの……」
アーニィも気が付いた。女の子と言えばあの片腕の無い少女しかいない。そうじゃないかと思って問うと、リオは頷いた。
そうか、あの女の子も……まさか……生きていたとは……おもわ……なか……った……。
「父さん、その二人、いいえ、三人が欲したものって、これですか?」
リオが手に持っていた妖刀をシヴィルに見せた。
シヴィルの目がぎょっと大きくなる。
「そいつは……リオ、おめぇ、何ともないのか?」
手を止めたシヴィルが尋ねる。
「……ええ、”何ともない”と訊くってことは……父さん、これが何か、何を起こすのか知っているんですね?」
尋ねるとシヴィルが黙った。これまでの沈黙とは違う、言葉を失う沈黙だ経った。
それでも、今しか訊けるチャンスはない。そう思ったリオは質問をたたみかける。
「そして、自分の本当の両親のお墓が掘り返されているのは……。父さん、あなたの知っていること、教えてくれませんか? 関係あるんでしょう。父さんと母さんの死とこのカタナ……死んでしまった、事件について……」
そこまで言われると、シヴィルはもう観念するしかなかった。
「ああ。もう潮時じゃろう……全てを教えよう。ただ……」
シヴィルは顎をしゃくり、アーニィを指した。
「まずはそいつの治療じゃ」
アーニィはいつの間にか、ぐったりと体重をリオに傾けていた。どうやら、気を失ってしまっているようだ。
ども、作者です。
ちょっと落ち着いた話ですね、やっと。




