予感
「いやぁ、いいんですか、こんなごちそうになっちゃって~」
ずらりとテーブルに並べられたごちそうを見て、リオがでへへと笑う。
船は今、王都とウェスタンブールの合間にある、小さな港のある村に停泊していた。そして、船員や客たちは一度船を下り、その村にある小さな食事処に来ていたのである。
目的は……。
「構わん構わん。あなたは我々の船の危機を救ってくださった。つまり大恩人に他なりません。いくら感謝しても感謝しきれないほどです。したがって、いくらでも御代はお出ししますよ」
船を救ってくれた救世主への恩返しだ。船長のジムも、事件が解決して一安心といった様子だ。
リオの連れでもあり、一応は協力もしていたアーニィたちも食事には招かれていた。
「む、そうか。ならたくさん食っても……」
トヨが真っ先に食事に手を付けようとする。
「トヨ。お前は何もしてないんだから、遠慮しとけよ」
アーニィが言うと、なぜだ? と言いたそうにトヨは顔をムッとさせた。
「全く……それにしても随分なご活躍じゃない、あなたの妹」
アーニィの隣に座っていたジュリアが、彼に耳打ちをした。
「義理のな」
「見事なご活躍でしたわね。義兄として誇ってもよろしいんじゃありませんの?」
と、店の中に入ってきたイリーナが言った。
「あれ、イリーナさん。護送についていったんじゃなかったの?」
アーニィが疑問を向ける。
イリーナはある仕事をしていた。その仕事は、近くの兵の駐屯所まで罪人、殺人を犯したポンドを連行するというもの。船が停泊したのも、そのためであり、イリーナを待つという目的もあったからだ。
予定では、もう少し時間がかかるはずだったのだが。
「着いていこうとしましたけれど、ワッツ様がご同行なさるそうで、わたくしはそのまま帰らせて頂くことにいたしましたわ。どちらにしろ、本職の憲兵さんがおつきになっているんですから、心配はいりませんの」
どうやら、そうらしい。この村にも憲兵がいたようだ。
「そうか。なら証人も付いているなら、安心かな」
ワッツも協力してくれた。彼がポンドの置かれている状況を明かしてくれなければ、彼の殺人の動機までは見抜けなかったかもしれない。
ポンドを捕えた後、ワッツはもっと早くに言っておけば良かった、と後悔をしていた。殺人が起きてしまったことへの責任を彼も感じていたのだろう。
「ええ。一安心ですわ。ですが、一日ここで過ごすことになってしまったのは、いささか痛いことですわ。遅れた理由をちゃんと理解していただけるか、心配ですわ」
船でウェスタンブールに行くまでは数日は掛かる。それに一日分の時間が増えただけでは、特に問題はなさそうだが、イリーナはやれやれ、と肩をすくめていた。
「ああ、士官学校の……厳しいんだって?」
アーニィは思い出す。士官学校の規律はかなり厳しいらしいと。自分は絶対に行きたくないと思ったものだ。
「厳しいとの言葉が生易しく思えるほどですわ。他の先生方は話が良く分かるのですが、どうにも校長先生が融通が利かなくて……」
イリーナがはぁ、とため息を吐く。
「そいつは災難だな……」
校長。例のクイーン、ジュリアの母親かもしれない人だ。
それに気づいて、アーニィはジュリアを見た。ジュリアはイリーナの言った言葉に、関心を向けていないのか、料理をほおばっている。
聞こえていなかったのか、それとも無視しているのか。
どちらにせよ、深く掘り下げることじゃない。
ジュリアから目をそらして、反対側にいるトヨを見る。
そのトヨは……。
「……」
首を回して、背後の方にじっと視線を向けていた。食事にも手を付けずに、じいっと。
「どうした、トヨ」
「感じる。なぁ、あっちは西だな?」
「西だよ。ウェスタンブールのある……ってことは」
トヨはこくり、と大きく頭を上下させた。
「ああ、感じるんだ。あっちからうすうすとだが、気配を」
気配。間違いない、トヨだけが感じることのできる、妖刀の気配だ。
ということはつまり……。
「あるんだな」
気配の元が、妖刀が。
「間違いないぞ」
力強い、覚悟を秘めたトヨの瞳が、アーニィを見上げていた。
港に停泊している船。港、とは言っても非常に簡素なもので、渡しがあり、そこにボートのような小さな船がいくつか停泊しているのみで、客船でもあるアーニィ達が乗って来た船は、あまりにも大きく、異質なものに見える。
今、船には誰も残っていない。船員たちも一度下り、地に足を付けてゆったりとした時間を過ごしている。
日は暮れ始め、夕方になろうとしている、そんなとき。
船の甲板に、濡れそぼった人影が降りた。
少女だ。あの、片腕の少女だった。
船から海に飛び込んだはずだ。あのとき以降行方は知れなかった。
彼女は、船を飛び込んだ後、泳いで後を追い、船にやっとのことで追いついたのであった。
そして、船の側面をよじ登り、人のいない今になって、降り立ったのである。
少女は、あたりを見回した。確実に人はいない。しかし、いつ現れるかは分からない。
前に乗り込んだときに船内の形はしっかりと覚えておいた。
船員たちがいる方、船前方の船室には、倉庫もあった。そこであれば、目的地に着くまで、見つからずに潜伏することができるだろう。
船の上で、片腕でまた闘うのは忍びない。勝ち目がない以上、彼らを殺すことを第一目的と定めていてはいけない。
ならば、合流すべきだ。この船の目的地も、ちょうど合流の地と同じだった。
西の大都市、ウェスタンブール。そこにいる仲間たちと合流をする。
そう決めて、少女は船の中に再び潜入した。
ども、作者です。
船の上でのお話はこれにて終了です。いかがだったでしょうか。
唐突の推理物っぽいお話になりましたが、こういうのが好きな人もいるみたいですね。
お世辞にも上手だったとは言えませんけれど、なかなかの収獲があったように思います。
では、また次のお話で出会えたら、よろしくお願いします。




