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カタナガリ  作者: リソタソ
オニキリマル
66/104

発見

 アーニィたちの客室は、甲板に通じる戸のすぐ近くにあった。けれど、同じような戸はもう一つある。船室の形状はコの字になっており、その内の一つの突き当りがアーニィたちの客室付近の戸であり、もう一つの戸はコの字の右側の縦の辺、その中間にあり、今回アーニィたちが使用した戸は後者だった。

 戸を抜けた先の船室はただの通路ではなく、ロビーにもなっている。

 戸の付近に建てつけのテーブルと椅子があり、そこは乗船客が利用することができる。

 今現在でも、そこの椅子に座る客が一人いたが、それ以前にアーニィたちの目に飛び込んできたのは、ドアの真正面、客室に通じる戸が三つほど並ぶ壁の前に立っていた男女の二人組だった。

 男の方は、壁に肩を付けて寄りかかっている。

「なぁなぁ、今晩どうよぉ。おれ、君が結構気に入っちゃってさぁ」

 男は腰にショートソードを携えてはいるが、風貌も口調も発言も軽い。

 にたにたと笑う彼に、女はむっとして答えた。

「お断りしますわ。わたくしの身は潔白でなくてはなりませんの」

 女の口調は丁寧で固い。丸顔で可愛らしい顔なのに、おでこがでるように後ろでまとめてある髪も、度の強そうなレンズの厚い眼鏡のせいか、四角四面の真面目一辺倒な印象を受ける。服も黒を基調とした軍服のようなもの。

 こう言ってはなんだが、女性らしさも心惹かれる魅力的なものも、外見だけではさっぱり分からないような人だ。

 しかし、ナンパをしている男は背筋をぞくぞくとさせて、口角を釣り上げた。

「潔白ぅ? それってつまりぃ……」

 男の言わんとしていることを察してか、女が「まぁ!」と驚き、顔いっぱいに嫌悪感を露わにした。

「お下品ですこと。わたくし、あなたのような汚らわしい方は軽蔑しますわ」

 もうしゃべることはない、と口を閉じて女は男の脇を通り過ぎようとした。

 男の方は、全く堪えていないらしい。

 女の方を振り返って、

「そんな固くなっちゃダメだってぇ~。折角の船旅だろう? もっと開放的になんなくっちゃあ~」

 懲りずに軽口を叩く。

「開放的になる理由なんてありませんわ。わたくしはただ士官学校に里帰りから戻るだけですもの」

「わぉ! 士官学校っ!? だったらちょうどいいじゃ~ん。おれ、ラーチイってぇ名前なんだけどさぁ~、今度士官学校に入学するつもりなんだよぉ~。だからさぁ、学校についていろいろ教えてよぉ~」

 ナンパ男、ラーチイはここぞとばかりに畳みかける。

「まぁ。そうですの。わたくしはイリーナと申しますわ」

「イリーナちゃんねぇ~。ここは将来の学友のためにさぁ~、学校について教えてよぉ~、なんなら、お、れ、の、部屋でぇ~」

 果たしてこの男は本当に士官学校に入学する気があるのか。

 下心しか無いようにしか見えない上に、実際に下心しかないのであった。

「ええ、教えて差し上げますわ」

 固い女、イリーナの予想外の承諾。

 誘った張本人も、思わず「おっ」と意外そうな顔。

 すぐにラーチイは嬉しそうに微笑んだ。なかなか手ごたえがなくてちょっと戸惑ってはいたが、地味系女子限定ナンパ百戦錬磨のこのラーチイ様が、落とせない女はいないのだ。

 などと、ラーチイは調子に乗って舌なめずり。

「士官学校がどれほど厳しい場所か、清廉な方のみが生きていける場所であるか、あなたのような志を持たぬ軽率な方がいかなる顛末を迎えるか、ここでみっちりと教えて差し上げますわ!」

 しかし、そんなうまい話があろうものか。

 イリーナはラーチイの手を掴んで、ずかずかとロビーのテーブル目指して歩き出した。

 ラーチイは「ここでぇ?」とか「俺の部屋じゃないのぉ?」とか悲嘆を露わにしながらも、なされるがままに彼女に引かれて行った。

 全く変な奴らばかりだ。この船にはまともな人間は乗っていないのだろうか。

 アーニィたち四人は一堂にそう思った。

 二人が去った後、彼らがいたあたりの扉がぎぃと開いた。

 中から出てきたのは、かなり痩せたお爺さんだった。目が落ちくぼんではいるが、眼光はぎらぎらとしている。

 こいつもこいつでかなり怪しい。見た目だけではなく、言動もだ。出てきた直後からぶつぶつと呟いて、扉の前を行ったり来たり歩いている。

「なんだアレは」

 トヨが呟いた。

「見ない方がいい。関わらない方がいい。ああいった人には近寄っちゃダメなんだぞ、トヨ」

 トヨの耳元で、アーニィが囁く。

 まさしく変人の老人。アーニィの言う通り、関わり合いになるのはよした方が良さそうな人物だ。

 彼に向かって迷うことなく一直線に進んで行く人があった。

「アイアイ、ご老人。あなた武器に興味はありませんか~?」

 籠を背負った男。頭頂部のまとめた長髪以外は丸坊主のべん髪、袖口が広く、裾が足元まで伸びる程長い服、ふっくらとしたズボン、アンマナも異国風の格好ではあったが、この男も別の国の衣装をまとった、異邦人だった。

 老人はぎろり、と異邦人の男を睨んだ。

 敵意しかない。ちっとも武器に興味がありそうにも見えない。

「黙れぃ」

 老人はしわがれた声で静かに命令した。ぎろぎろと明らかに気が立っている視線を異邦人に向けていた。

「アイアイ~、そうそう、剣もあるんだよ~。珍しいのがずらりと目いっぱい。お高い物もお取扱いしてるよ~」

 しかし、この異邦人、老人の心情など全く顧みずに自分の話を続けてしまう。

 どうやら武器商人のようで、老人に売買をふっかけているのだろう。

 とはいえ、商売人としては三流と言わざるを得ない。

 客を見る目が全くない。老人が剣を買うと思うのだろうか。

 それに何より、老人のつるっぱげの額に浮かぶ、青筋に気が付かないのだろうか。

「だまれぃ言うとろうがっ!!!」

 ついに老人はブチギレた。椅子に腰かけていた、関係のない人達も一斉に老人の方を見る。

「アイアイ~、そんなに怒鳴らなくたって~。気に入る武器も見つかるかもしれな……」

 自分が怒りの原因だともつゆ知らず、武器商人の異邦人は商談を続ける。反省の色なし。

 もはや我慢の限界だった。

 老人は武器商人を無視して、戸をあけ放ち、自分の部屋へ入り、もう二度と出てこまいと戸を閉め切ってしまった。

「アイアイ~……」

 武器商人は残念そうにそうつぶやいた。言葉の意味は全く分かりっこないが、非常に寂しげなのはがっくりとしている様子から伝わってくる。

 だから、という訳ではないが、アーニィがその武器商人に近づいた。

「剣、取り扱っているんですか?」

 アーニィが尋ねた。剣を売っていると聞いて何にもしないのは、剣マニアとしてあるまじき行為。例え金がなくとも、アーニィは武器商人が取り扱っている

 という珍しい剣を見たかったのだ。

 ぴくり、と武器商人の耳が反応した。

「アイアイ~、剣あるよ、あるよ~。ワタシ、ウェイ・トン言うね~。今後ともごひいきに~」

 武器商人、ウェイ・トンはもうにこにこしていた。

 いやはや腐っても商人。寄ってくる客、それすなわち飛んで火にいる夏の虫。

 逃さぬとばかりにアーニィに早速売り込みを始めた。

「アイアイ、あるよあるよ~、珍しい剣い~~~~っぱい! ほらほらこれなんて……」

 そう言って、背負っていた籠から取り出したのは一本の短剣。

 長さは僅か四十センチほどで、柄も刃の幅も全く同じで、つばも無い。確かにこれまでに見てきた剣とは全く持って形状の違う剣であった。

「まさかそれ、ピーショウって短剣ですか? 実物は初めて見ましたよ」

「アイアイ~、ワタシの生まれた国で古来より暗殺剣として使われてきたピーショウそのものだよ~。アイアイ~、お若いのによ~~~く知ってるね~」

「うへへ、そ、そんなこたぁ、ないですよ~」

 アーニィは褒められうへへと笑う。分かる人には分かるんだからぁ~、も~、と自分の長所がこの旅で初めて認められ、大層嬉しいのである。

「そっちの籠のも見せてもらっていいですか?」

「アイアイ~、いいよいいよ~」

 許可を貰って、籠いっぱいの武器を見せてもらう。

 一つ一つを取り出しはしないが、剣だけではなくメイスも斧も鉄扇、ナックルダスター

 などなど種類も国籍も問わない武器共がごった返していた。

 アーニィは剣にしか興味はない。しかし、剣だけに限って見ても珍しい物もそうでないものもたくさんあった。名前の分かるものも、そうでないものも。

「うっへ~、こいつはすげぇなぁ……」

「アイアイ、凄いのはこれだけじゃないよ~。籠に入れてあるのは実用品。装飾を施した観賞用の剣もお部屋に取り揃えてあるよ~」

「あ、後で見に行ってもいいですかっ!?」

「アイアイ、もちろんいいよいいよ~。でも、ワタシ眠たくなってきたから、明日の朝に来て欲しいね~」

「やったー!!」

 アーニィがいつになく興奮気味だ。

 なぜこうも興奮するのか、収集癖のあまりない女子三人にはさっぱりと分からなかった。

 むろん、剣に対する興味だってアーニィほどにはない。

 その中で一人、トヨが進み出て、アーニィとトンに近づいた。

「おい、お前、妖刀を知っているか?」

 何となくではあるが、この男は剣について詳しい。もしかしたら、妖刀について何か知っているかもしれない。そう思ってトヨは尋ねたのだった。

「アイアイ~、妖刀ね~知ってる知ってる~」

 トヨが目を見開く。アーニィもぎょっとした。

「ホントか!?」

 トヨが食いついた。

 やった! これで妖刀にまた一歩近づける。トヨもかなり興奮気味だ。

「ほんとほんと~。妖刀ね妖刀。はて、そんな剣あったかな~?」

 しかし、こんな言葉が返ってきた。

「……さては、妖刀を知らんな?」

「アイアイ、そんなことないよ~。ちょっと待っててね~。思い出すよ~」

 うーん、うーんとトンは頭を捻る。

 いくらトヨとは言えども、こんな反応をされてしまえば、この男は間違いなく妖刀について知らないのだと分かる。

 もちろん、トンも妖刀などは知らなかった。客の話に合せておいて購入欲を募らせる。いわゆる営業トークだった。

「む。話していても無駄だな。いくぞ、アーニィ」

 あきれ果てたトヨはもうこの場にいても意味はない、と立ち去ろうとした。

「あ、ちょっと待ってくれよトヨ! 俺にはまだ……」

 自分の背後に向けて移動するトヨへ向けて、アーニィは振り向いて視線を移そうとした。

 そのとき、彼の視界の端にちらりと女の姿が移った。

 その女は四人がこのロビーに入った時からずっと、建てつけの椅子に座り、テーブルに肘をついてずうっとキセルをふかしていた。

 アーニィの位置から見えるのは、ほとんど彼女の後姿。

 ウェーブがかった長い金髪と、背中から腰の丈夫辺りまでぱっくりと開いた派手な赤いドレス。そして、キセルを口から離すときに動かして、

 ちらっとだけ見える女の手には、全ての指に大きな宝石が付いた指輪がはめられている。

 なんともお金の臭いがしてきそうな女だ。

「あいつって……」

 アーニィはやっと気が付いたようだ。あの女に、彼は見覚えがあった。

 知り合いでもなんでもないのだが……。

 それを確かめるために、アーニィはトンに「また後で」と言った後、リオの元に駆け寄った。

「なぁ、リオ。あいつって……」

「にーさん。やっと気が付きました? にーさんも知っての通りの"喰い荒らし"ですよ」

 それを聞いて、アーニィはやっぱり、と声を洩らした。

 すると、ぐるり、と女の方が体を回して、アーニィ達に向き直った。

「アンタ、アタシのことを知っているのかしら? もしかして、アタシと寝たことがあるの? ううん、無いわね。アンタみたいなボウヤ、興味はないもの」

 ふぅ~、と女は紫煙を含んだ息を吐いた。

「なぁ、なんだアイツ?」

 トヨがアーニィに尋ねる。彼の代わりにリオが答えた。

「あの人、ウェスタンブールで有名な遊び人なんですよ。喰い荒らしのバーバラって、呼ばれているんですけど、商人、貴族、将校の相手をして散々お金を貢がせている悪女なんです。悪女」

 男を喰い荒らすだけでなく、男の資材も喰い荒らす。

 気が付けば彼女の行動から”喰い荒らし”などという異名が付けられてしまったのだった。

 向き直った女、バーバラのドレスの表にも、大量の宝石がちりばめられていて、さらにネックレスやらブレスレッドやらにも宝石が。少々化粧は厚くとも元来の美しい顔のせいか、目に痛い程に煌めく宝石たちも、彼女の美しさを際立てているようだった。

 宝石は全て貢物だ。喰い荒らした男達が資産をなげうって貢いだ金の行く末だ。

「あら、そんなに正面切って言われるなんて初めてよ。まぁ、悪女だろうとなんだろうと言われても構わないわ」

 貢物に身を包んだバーバラは決して悪びれることはない。

「だって、男の価値なんて金と宝石を貢がせる、それらだけに尽きるもの。アンタたちもそんなお金を持って無さそうな、剣ばっか持ってる男よりも、もっとお金のある男を旅の共に選んだ方がいいわよ」

 女に指さされたアーニィであったが、良い気も悪い気もしない。

 多少の良識があれば近づきたくもない女でしかないのだ。

「確かに。宝石は貢いでもらいたいわね」

「おいジュリア。なに同意してんだよお前……」

「いいでしょ? アタシだってお金大好きなんだからぁ~」

 似たようなのが自分の傍にもいた。アーニィは、はぁ、とため息を吐く。

「……ま、アタシの場合は、貢物よりも盗品の方が好みだけどね」

 と、ジュリアが小声で言う。

 それもそれで問題なのだが……。

「珍しいですね。あなたはウェスタンブールにいるものとばかり思っていたんですけど。王都になんの用があったんですか?」

 リオはまだまだバーバラに話しかけていた。

「王都で一稼ぎしようと思ったのだけれど、王都の男は貴族以外ろくに金を持っている連中がいなくって。王都の男連中はいつもお仕事お仕事、泥臭い……ううん、汗と潮の臭いにまみれた漁師ばっかりで、お金の臭いが全くしなかったのよ。だから、今は諦めて帰っている最中よ」

「へぇ~。またウェスタンブールでも食い散らかすんですか」

「そのつもりよ……でも、その前に……」

 バーバラが勿体ぶって言った直後、ぎぃ、と甲板に通じる戸が開いた。

「……ふん! ふん!」

 入って来たのは、大股で歩く、見るからに怒っている様子の商人ポンドだった。

「あいつからは、お金の匂いがするわね」

 大股で歩くポンドを見て、バーバラが呟く。

 ジュリアも似たようなことを言っていた。女の鼻にはお金の臭いを感じ取る器官が特別に付けられているだろうか。

 ポンドの向かう先は自分の部屋であろうが、そちらへ行くにはバーバラの背後を通らなければならなかった。

 バーバラにとっては鴨がねぎをしょってくるほどの好都合。

 金が自分から近づいてきてくれているのだ。

「はぁい、あなたちょっといいかしら?」

 バーバラは猫なで声でポンドに声をかけた。甘く妖艶、男好きしそうなフェロモンが香ってきそうな声だ。

 立ち止まり、ポンドは条件反射でもするようにバーバラに顔を向けた。

 予想通り。後はアタシの魅力でさっさと落として、一夜を共にしてウェスタンブールに到着する頃には、お金を根こそぎ宝石に代えてしまえるわ。

 と、バーバラはそう考えていたのだが……。

 ぴたりと合わせた視線は思い通りのものではなかった。

 バーバラは思わず雌豹のように細めた目をぎょっとさせる。

 ポンドの目は、額に浮かんだ青筋がそのまま目ん玉に移植されたような、怒りと軽蔑を露わにした険しい目だった。

「うるさいっ!! ワシに寄るなっ!!!」

 虫の居所が悪かったらしい。バーバラは突然に怒鳴られて、思わず萎縮してしまった。

「ったく……金の亡者め……」

 ポンドはぶつぶつと言いながら歩みを進め、角を曲がって奥の部屋へと向かって行った。

 さて、全く思惑通りにいかなかったバーバラは……

「あらあら、フラれちゃった。全く、王都は散々ね」

 大層涼しげな顔で再びキセルをふかし始めるのだった。

 全く、彼女には反省と言うものはないらしい。

 ここまでブレていないと、欠点よりも美点のように思えてしまう。

 これまでそうやって生きてきた、という強い自信があるのだ。だから、生き方を変えることもないだろう。この人もまた、乗客の中で変っている人間の一人だった。

「なぁ、そろそろ部屋に戻るぞ。道草のし過ぎだ」

 しびれを切らし たトヨが、ついにそう言って先に歩き始めた。

 確かに、ここで無駄に時間を食ってしまったかもしれない。

 もっとも、ただ単に行きかう乗客たちを見ていただけだったのだが、たいして興味のないトヨにとっては、いかほどに退屈な時間だっただろうか。

 三人もトヨに付いて、自分達の部屋へと戻って行った。

 ポンドの部屋とは真逆にある、アーニィ達の部屋。連れということで四人全員が一か所に詰められてしまったが、四人で寝泊りするには十分の広さのある中部屋だった。

「まぁ、にーさんの剣マニアっぷりは今に始まったことじゃなくってですね、それはもう小さい頃かなんですよ」

 はてさて部屋に戻った途端に再び始められたのは、リオによるアーニィの過去大暴露大会。アーニィはふてくされて、ベッドにごろんと横になってしまっていた。

 そりゃあ、同じ部屋にいるって言うのに自分の過去を他人に暴露されるのなんて、耐えられるものじゃない。寝よう寝ようとしても、話や反応が気になって、寝入ることもできなかった。

「にーさんの両親が大切にしていた剣を持ち出して、ずうっと眺めてうっと~~~りしていたり、振り回したりとか、日常茶飯事でしたね。ニチハンですよ、ニチハン。で、そんな大切な剣だったんですが、なんとにーさんぶっこわしちゃいましてー。そりゃあもう、お父様にもお母様にもさんっざんに怒られちゃいまして……」

 けらけらけら、と笑い声が上がった。他ならぬジュリアだ。

「アンタ相当なアホガキだったのね~」

 うるせぇ。こちとら好きで剣を破壊したわけでもねぇんだよ。

 なんてことを思いながらも、アーニィはタヌキ寝入りを続ける。

 反応すればどうせまたからかわれる。

「親か……」

 トヨがぽつりと零した。その声はどこか悲しげだった。

 理由はアーニィにしか分からない。彼女が過ごしてきた過去。それを垣間見たことがたった一度だけあった。

 一人で、どことも分からぬ砂漠の洞穴で、ひたすらに剣の修行をしていた幼い頃の記憶。

 それを、トヨは思い出しているのだろうか。

「……そういえばですね。さっき武器商人に尋ねていた"妖刀"ってなんですか?」

 リオもトヨの悲しげな雰囲気を察したのか、話題を変えた。

「変ったカタナのことさ。変な力を持っている。トヨがそれを探して旅をしているみたいでさ、俺はそれを手伝ってるんだよ」

 のそり、と起き上ってアーニィが答えた。大変簡素な説明だったが、それくらいの説明で十分だろう。

「別の理由もあんでしょ~?」

 ジュリアが茶化すように言う。

 うるせぇ。

「む。そうなんだ。お前、妖刀を知らんか? お前達の故郷にあるかもしれないんだ」

「申し訳ないですけど、自分は知らないですね。そんなカタナがあるんですか、こんな小さな大陸でも、世界は広いもんですねぇ」

「……そうか。むむむ、西にならあると思うんだが……」

「自分が知らないだけですよ。ウェスタンブールは王都並の大都市ですし、軍事施設も剣術道場もいくつもあります。カタナの使い方を教える道場は多くはありませんが、カタナを持っている道場も多いと聞きます。いくつかの道場を尋ねてみれば、きっと見つかりますよ」

「ホントかっ!?」

「保証はできかねますが……虱潰しに道場に行ってみるといいですよ。虱潰し作戦ですよ、シラツブです、シラツブ」

 よし、とトヨが手を握る。やる気が随分と溜まったみたいだ。

 リオも上手くやる気を引き出してくれる。

 なんだかんだでウェスタンブールに帰ることはもう避けられないことだが、やることが決まれば、不思議と気の迷いも薄れてくる。

 アーニィにできることは、トヨの精いっぱいのサポートだ。一人だけにしてしまうと面倒なことにだってなりかねない。

 ウェスタンブールの地理にも精通した自分がいれば、さぞ妖刀を探しやすくなることだろう。それだけは非常に嬉しい事だ。

「そうそう、道場で思い出したんですけど、昔、ニーさんは他の道場の珍しい剣を強奪しに……」

「おいリオ! ここでまた話を戻すのかよっ!!!」

 船内にアーニィの叫び声が響き、夜はどんどん更けていった。


「……ふぁあ」

 トヨが大きな欠伸を零した。

「そろそろ眠いですね。寝ましょうか」

 あれから、また随分とアーニィの過去話を暴露された。

 アーニィは恥ずかしさのあまり、掛け布団で頭を覆っている程だった。

 かなり時間も経っていて、ジュリアもトヨもリオも、眠気に襲われている頃。

 いざ、明かりを消そうとジュリアがベッドを降りた時だった。

「なんじゃああああこりゃああああああああ!!」

 がばっ! と寝入ろうとしていた三人が跳び起きた。

 外から、男の叫び声が聞こえてきたのだ。

「なぁ、今のってなんだ?」

 トヨが尋ねる。

「さあ、でも……」

「外……船内からじゃなくて、甲板の方から聞こえてきましたね」

 四人が顔を見合わせる。

 先ほどの大声が嘘のように、室内をしんとした静寂が包み込んだ。

 そして、どたどたどたっ! と慌ただしい足音も聞こえてきた。

 それらは船を作る板を震わせ、次第に遠くなっていった。

「他の客たちじゃないかしら。そろいもそろって、外の様子を見に行ったのね」

「俺達も行ってみよう」

 アーニィの一言に、みなが同意した。

 四人は連れだって、部屋を出て一番近い扉から甲板に出た。

 甲板は相変わらず寒空の下にさらされ、海風夜風が吹き荒れる。

 しかし、風もどこかざわめいているようだった。

 甲板を見渡せば、一つの場所に明かりが集まっている。アーニィたちが出たのとは真逆にある、ロビーに通じるドアの付近だった。

 アーニィたちは甲板の、船尾側にいた。つまりは、今客たちが集まっている

 辺りは船の中央辺りで、そこへ行くには階段を降りていく必要があった。

 アーニィを先頭に急いでそちらへと向かうと、予想通りこれまでに出会った客たちが集まって、円を作っていた。

 つんとする嫌な臭いを四人は嗅いだ。身近にあって、嗅ぎたくもない不愉快な臭い。

「何があったんですか?」

 客たちが集まる場所に、四人が辿り着き、そのうちの一人、女士官学生のイリーナに声をかけた。

「これを見れば分かりますわ……刺激が強いので、気の弱い方はあまり見ない方がいいですわよ」

 忠告されたが、四人は遠慮することもなく、円の内側を覗きこんだ。

「……これは」

「む……」

「あ……これは手遅れね……」

「あぁ……なんて姿に……」

 そこにあったのは、装飾の施された短剣が胸に突き刺さり、どろどろと血を流して横たわっている、バーバラの死体だった。

ども、作者です。今日は夜中に更新です。


この辺りのお話は、正直かなり迷走気味ですね。何をするかの目的は決まっていたのですが、どういうお話をするかどうかで悩みに悩み抜き、たまたま見ていた古い海外ドラマを見たためにこんな話になりました。


いやぁ、唐突にハマって大きく影響を受ける。良くあることですねぇ。しみじみ。

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