相談
三人だけになった客室は、たった二人がいなくなっただけなのに、酷く広くなってしまったようだった。
「なぁ、ジュリア。お前、西に本当に行きたいのか?」
話題を探して、アーニィが尋ねた。
「そうするしかないでしょ」
「お前なら、わざわざ西に行かなくたって、逃げられると思うけどさ」
「アイツらがいたら無理よ。隙がないもの、特にあのじじいはね」
「いや、あの二人じゃなくて、俺達から」
「逃げたら困るでしょ、アンタ達も。それくらいなら素直に応じるわよ。ま、王族じゃなかったら、そんときに逃げ出すわ。逃がしてくれるでしょ?」
ジュリアが含みのありそうな笑顔を作る。
「それは……」
アーニィが口をまごつかせる。ジュリアは山賊で、今まで盗みを働き続けた犯罪者。罰を受けて当然の人間。だが、決して悪人ではなかった。
だからこそ、贖罪をしてもらいたいともアーニィは思うのだが……。
「借り、返しなさい」
ジュリアはアーニィに追い打ちをかけるように言った。
そう言われては、アーニィも承諾せざるを得ない。
「……分かったよ。はぁ」
「なぁ、借りってのはなんだ?」
一人蚊帳の外だったトヨが、首をかしげる。
「なによ、気になるのチビ」
「む。なんか、二人だけしか分からないことがあるみたいで、嫌だ。教えろ」
ジュリアはあんぐりと口を開いた。開いた口がふさがらない。
「アンタ、チビになにしたのよ」
「何って、何もしてない……よ?」
なぜかアーニィは疑問形に言った。それは明らかに何かを隠している、慌てた様子で、ジュリアも彼の言葉とは裏腹に何かがあったのだと勘付いた。
では、何があったのか。
「手ぇ出した?」
「それは断じてない!!」
アーニィがムキに答える。
本当に手は出していないのだが、それでは手を出しているみたいではないか。
とまぁ、そんな答えを若干は期待していたジュリアであったが、実際に手を出していないだろうことは、想像に難くなかった。
どうせこのメガネにそんな度胸なんてあるわけないわ。何かあったのは間違いないだろうけど。
それだけが分かっただけでも、非常に面白かった。
「あはは! まぁ、いいわ。これも含めてアタシの借りってことにしておこうかしら」
「おいおい、さすがにそこまでは……」
「アタシがいなくちゃあ、こんな……」
ジュリアがトヨを見るトヨは、何を話しているのか理解していないらしく、きょとんとしていた。
明らかに、これまでと様子が違っている。それはアーニィも感じていたことだし、ジュリアがあっという間に察するのも無理もないことだった。逆に言えば、それくらいに彼女は変わっていたのだ。
「何か私がおかしなことを言ったか?」
「あぁ、もう、こいつで遊んでるんだから話しかけないでよ!」
「む。遊んでいるのか。私も遊ぼう」
「ちょっとぉ~、このチビめんどくさくなってない?」
「さ、さぁ……」
アーニィが両手を上げて、さっぱり分からないというポーズを取る。
あからさまにとぼけているようで、ジュリアはあまり面白くなかった。
「どうやって遊ぶんだ?」
「ちょっとだけ、年相応になっただけだよ」
「ふーん。そうね。ま、いいわ」
アーニィの言う通りだろう。見た目の通りに、内なる幼さを開放しているようだった。
それがいい事なのか、悪い事なのかは、ジュリアにはどうでもいいことだった。
「まぁ、またよろしく頼む」
「ええ。助けが欲しいときはいつでもいいなさいよ。アタシが借りにしてあげる」
「借りは、助ければできるものなのか? なら、私にもアーニィに借りがあるな」
「へぇ、助けたってことね、アンタがねぇ……」
ジュリアがにたにたと笑う。
トヨがどう変わったところで彼女にはどうだっていいことなのだが、何があってそうなったのかは知りたいようだった。
からかうためだろう。根掘り葉掘り聞き出されるのも恥ずかしいし、なによりからかわれてはたまらない。
アーニィは慌てて話題を変えることにした。
「あーあー! そんなことより、ジュリア。お前、母親には会いたいって思うのか?」
「うわ、話題を変えるにしても、その話にする? チビ、この男は止めておいた方がいいわよ。碌な事訊かないわ」
「む? 止めるって何をだ?」
「あーもう! わざわざそっちに話しを戻すなよ!」
「はいはい。しゃーないわねぇ。答えてあげるわ。っていっても、至極単純に会いたいだなんて思ってないわよ」
「でも、キングの話によれば、母親、クイーンはジュリアを捨てたわけじゃないんだろう?」
「捨てていなくても、アタシを探しに来てはくれなかったわ。王族の子だって言うなら、軍隊率いてでも探そうとするはずよ」
そう言うジュリアの表情に、影がかかる。
憂い。アーニィにはジュリアがどことなく寂しそうに見えた。
もしかしたら、本当は自分の母親がいるのなら、探してほしかったのかもしれない。
アーニィは自分の両親も健在で、不安があれば聞いてももらえたし、自分の夢のための助け舟を出してもらえた。むろん、旅立ちには心配をかけた。
親は子を心配して当然。
親は子に特別な思いを抱いているはず。
それにもかかわらず、ジュリアは実の親、母親に見捨てられたのだ。
「そんなこともしない母親なんて、きっと冷たい血が流れているわ。同じ血が流れていたとしても、家族じゃないわ。会ったところで、母親だなんて感慨もないわね、きっと」
「まぁ、そうだよな」
「そうよ。アタシの家族は山賊の親父と仲間だけ。まぁ、産みの親ってことで、頬を一発アタシに打たれる権利くらいはくれてやるわよ」
けらけらとジュリアは声を上げて笑った。
わざと気丈にふるまっているようにアーニィには見えた。実の母がまだ健在かもしれない。そして、その親が自分のことを見捨ててしまっていたのかもしれない。
それを知ったことは、やはりショックだったのだろう。
話題を間違えたな、とアーニィは反省しながら、目を伏せた。
「待たせてやった」
痛々しい会話は、部屋にキングとエースが戻ってきて、打ち切りとなった。
ども、作者です。
今回のお話は平板な感じですね~。




