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カタナガリ  作者: リソタソ
オニキリマル
47/104

発覚

 アーニィに緩やかな目覚めの時が訪れる。目覚めるためには寝ていなければならない。しかし、アーニィには自分が眠りに落ちた記憶がなかった。

 さて、と寝転がりながら昨晩のことを思い出す。と言っても、まだまだ空がやっと夜の表情から朝の表情に移行し始めてる、夜明け前の時間帯のため、そう時間は立っていない。だから、すぐに何をしていたかを思い出せた。

 寝起きなのに顔が熱い。思い出せば思い出すほどに恥ずかしい気持ちがふつふつとわいてきて、まるで湯に掛けたタコのように色が変わっていく。

 思い切り泣いてしまった。しかも、ジュリアの胸を借りながら。その姿を他人に見られていないことが唯一の救いだろう。さぞ情けない格好だったに違いない。

 言うまでも無く、なぜ自分自身が鳴いてしまったのかも、アーニィは思い出していた。それでも、落ち着き払っているあたりは、昨日よりは心の整理ができていると見える。胸の内はまだ痛む。けれどもう、泣くほどの苦しみではなかった。

 それもジュリアのおかげだな。彼女がいなければ、今もまだ鬱々としていたに違いない。しかし、情けない姿をさらしてしまったのは、やはり恥ずかしい事だ。

 できれば忘れていてほしいのだが、と思ったとき、その後はいったいどうしたのかが、はたと気になった。

 泣き続けて……その後の記憶が無い。そのまま泣き疲れて寝てしまったのか。だとしたら、それも子供っぽくて情けない。しかもベッドに改めて寝かされ、掛布団までかけてもらっていることになる。

 礼を言うべきだろうか。でも、今のアーニィなら、顔を突き合わせるだけでも恥ずかしくて恥ずかしくて堪らない。

 左側のベッドを見てみると、ジュリアの姿はない。こんな朝早くなのに、外出でもしているのか。まぁ、盗みを働くのなら、絶好の時間帯でもあるような気もする。もしくは、もう既にこの町から出て行ってしまったかだ。アイツが俺と一緒にいる理由も何もないはずだ。そもそもの目的が、彼女はトヨに対する復讐をするためだったのだから。

 と、思っていたのだが……。

「……すぅ……すぅ」

 寝息が聞こえた。アーニィの右側から。自分の知らない第三者がこの部屋にまで入っているとは、さすがに考えられない。つまりは……。何となく察しは付くが、アーニィは万が一の勘違いの可能性に欠けて、右へと視線を向けた。

 予感的中、アーニィの右隣ではジュリアがぐっすりと寝入っていた。無防備な寝顔は、長いまつげやすぼめた唇のせいか色っぽい。至近距離ではないが、ひじから手の先ぐらいしか離れてはいない。

 予想はしていた。しかし、驚かずにはいられなかった。

「わっ!!!?」

 アーニィが声を上げると、ジュリアもびくりと動き、目を覚まして上体を起こした。

「何、何!?」

 彼女もアーニィの声に驚き、しかも寝起きとあってか、パニックになっているらしく、あたりを見渡す。

「何!? じゃねぇよ! なんでお前が俺の隣で寝てるんだよ!」

 すかさずお前のせいで驚いたことを告げるアーニィ。ジュリアは寝乱れた髪をてぐしで治しながら、寝起きのむっとした顔でしばしアーニィの言っていることを噛み砕く。そして、あーあー、と言いながら昨晩の記憶を呼び起こす。

「アンタが散々泣き喚いちゃったの、子供みたいにアタシの胸を借りてうぇーん、うぇーんって。良い歳した男の子が泣くのって、結構珍しいもんねぇ」

 と、ニヤニヤと笑いながらアーニィを見る。

「そ、そんなことは分かってる。っていうか、思い出させるなよ、恥ずかしい……」

 また顔を赤くしながら、アーニィが口を尖らせる。当然ジュリアはわざとそんな反応をさせるために行ったようで、いい顔見ちゃった~、と非常に満足げである。

「俺が聞いてるのはその後だよ、その後」

「はいはい、分ってるわよ。って言っても、察しは付くでしょ? 泣き疲れて寝ちゃって、アタシが寝かしつけてやったのよ。全く、チビのこと子供子供って言ってたけど、アンタも相当に子供ね」

「煩いな。そこは想像できる。でも、お前が隣で寝ていたのはさっぱり意味が分からないんだが……」

「それね……まぁ、なんて言うかね……」

 と少々言いにくそうに区切ってから、

「泣き疲れて眠るアンタの寝顔がさ、子供っぽくって……ちょっとかわいいかなって思ってさ。つい一緒に眠っちゃった。アタシ、アンタよりも大人だから、母性でも働いちゃったのかなー、あははは」

 ジュリアは照れくさそうに笑う。

「なんだよ、それ……」

「いいでしょ、別に。アンタの泣き姿を見たのとおあいこってことで、忘れてくれない?」

「……分かった」

 アーニィが返事を返すことで、とりあえずこの話には終止符が打たれた。

「でも、まだそんなに明るくないのに、完全に目が覚めちゃったわね」

「俺もだな……どれだけ眠ったのかは知らないけど、もう一度寝る気にはなれないな」

「だったらさ、少しその辺歩いて行きましょうよ。まぁ、別に町を出てしまってもアタシは構わないんだけど。この宿先払いだしね」


 とりあえず、アーニィはジュリアの提案を受け入れることにした。荷物も全て持って、外に出る。正直なところ、もうこの町にいる理由も全くない。強いて言えば、アーニィは港町の方に行って剣を売っている店を探しておきたい、とは思うものの、そうするとトヨにまた出会ってしまう恐れもあるので、口にはしなかった。

 目的は全くなく、とりあえず並んで歩いて町の中心にある通りまで出ていく。まるで空の色をそのまま塗りたくったような、紺に近い青に染まっている街並みは寝静まっている。

「さすがにこの時間は静かだなぁ」

「当たり前よ。ここに居る人達は、みんな昼間に働くんだから。むしろ、寝ていなくっちゃ困るわね」

「どうして?」

「盗みにうってつけの時間が少なくなっちゃうから」

 ジュリアの回答は、いかにも山賊らしいものだった。

「ところでさ、アンタ」

「なんだ?」

「これからどうするつもり? どっか、行く当てでもあるの?」

「どうするかって言われたら……そうだなぁ、またレアものの剣を探しに行きたいんだけどなぁ」

アーニィはさらに思ったことを続ける。

「大陸の主要の町で行った事がないところはもうないし、近くにある村々を巡って武器屋を探してみるかな。王都に帰ったら捕まっちまうかもしれないし……もしかしたら、故郷でももう王都でかけられた嫌疑が伝わって、指名手配されてるかも……」

 濡れ衣なのになぁ、とがっくりと肩を落とすアーニィ。

「ふーん。アンタもお尋ね者なのねぇ」

「お尋ね者扱いされているだけだ。実際に悪い事なんかちっともしてない」

「でも、その嫌疑って晴らせないわけでしょ?」

「……まぁ、そうだな。俺とトヨが共犯だと思われた以上、アイツが容疑を否認してくれない限りは……やれやれ、一緒にいなくても迷惑かけてくれるぜ」

 自分でトヨのことを口にした辺り、もう随分と吹っ切れているのね、とジュリアは少し喜んだ。前向きになっているのなら、胸を貸してあげた甲斐があったというものだ。

「じゃあさ、アタシらの仲間になって、本物のお尋ねものになっちゃう?」

「やだよ」

「うわ、即答。でもでも、アタシらの縄張りで手に入れた剣は全部アンタにあげちゃうわよ?」

 その代わり、働いてもらうつもりだが、それはあえて言わなかった。

「余計にいらないよそんなもん。盗品になんて価値はない。あ、でも……」

「お、揺らいできた? やっぱり剣は欲しいんでしょ?」

「違うっての。剣じゃなくてさ、お前の縄張りってあの東の山だろ」

「ええ、そうよ。それがどうかしたの?」

「山自体には興味はないんだけどさ、その向こう。東の砂漠地帯にもう一回行こうかなって思ってさ。あそこって未開の地だろ? トヨに出会わなかったら、あの砂漠にあるっていう遺跡で大昔に使われていた剣を探そうかなって思ってたんだよ」

「アンタそんなことするつもりだったの? まぁ、たまにトレジャーハンター紛いの奴とか、遺跡調査のためだかの学者連中を縄張りで見たことはあったけどさぁ。アイツら、み~んな帰ってこなかったわよ?」

「それはお前たちが身ぐるみを剥いでしまったからじゃないのか?」

「そうそう、私たちが身ぐるみを剥いで、これ以上砂漠に進まないようにしてたの。偉いでしょ?」

「偉いわけないだろ」

「ははは。まぁ、それは冗談なんだけどね。だって、アイツら剥いで得するだけのお金とか持ってないんだもん。だからずっとずっと無視し続けて来たんだけど、それでも、帰ってこないってことは、砂漠に入ることがどれだけ危険ってことか……」

「でも、トヨはそこに住んでいたって言ってたじゃないか。少なくとも、入っていくだけでは死にはしないさ。それに、誰も帰ってこないってことは、そこに眠っている物を誰も持ち帰ってはいないってことだろ?」

「そうとも言えるわね。って言うか、アンタの場合はモノじゃなくて剣でしょう?」

「そうだけどさ……」

「でも、剣があるとは限らないわよ。お宝がある可能性っていうのも、否定はできないけど……そう考えたら、ちょっと浪漫があるわねぇ」

「だろ?」

「それなら、アタシも付いて行ってあげようかしら。誰も手にしたことのないお宝、一体どれくらいの値段になるのかしらねぇ……うふふ」

 ジュリアが目を金にしながら不気味に笑う。随分と山賊らしい奴だな、と思いつつも、一人で砂漠に行くよりは心強い。

「じゃあ、これから砂漠を目指すか」

「ええ。途中でアタシのアジトで水とか食料とか補給しに行きましょう」

 二人の意見が合致する。五日にも満たない期間ではあるが、随分と仲良くなったようだ。また、ジュリアといればアーニィは当分トヨのことを思い出さなくても済む。一人よりは心強いと思ったが、それは精神的な面でも大きな支えになりそうだった。

 二人は決意を新たに、北の町ノルストダムの出口へと向かう。その、途中のことだった。

遠くの空が茜色に染まり始め、日の出が近いことを告げている。その明かりに照らされているのか、長く伸びた影を伴って立ち尽くす、男の後姿を見つけた。

道のど真ん中に立っているその男の服装には見覚えがあった。茶色のローブ。随分と土汚れが目立っているそのローブのフードを外し、黒い髪をあらわにした男が、後ろを、アーニィ達の方を振り向いた。

真っ白な肌に、不健康なまでに痩せた顔。厳しい目つきがアーニィ達の姿を捕えると、彼らの方へと近づいてきた。

二人はとっさに身構える。

「おいおいおいおいおいおいおいおい、うそだろぉ……なんでお前らがここにいるんだよぉ……」

 ねっとりとした口調でしゃべるその男は、王都で退治した影を呼び出す、刀身の黒く染まる妖刀を持っていた、サルと呼ばれていた男だ。

「お前が……どうしてここに!?」

「それはこっちのセリフだよぉぉぉぉ。はぁぁぁぁ、折角心配で心配で仕方なくって、この町まで戻ってきてぇ、とびっきりの作戦を用意しておいたのによぉぉ。あぁ、また俺は失敗しちまったのかぁ? あぁぁぁ心配だ心配だぁぁ」

 泣きそうな顔でそんなことを言う彼は、頼りなさそうで、情けない。しかし、彼の実力を知っている二人は気が抜けなかった。

「作戦? なんのことだっ!」

「言うわけないだろぉぉぉ。君たちは俺達の敵なんだから……あぁ、いやいやいや、待った待った待った。そう言えば君たちはあの褐色のミコの仲間じゃあなかったんだよなぁ」

 そう言いながら、サルは二人とその周りで視線を泳がせる。

「おやおやおや? ミコの姿がないぞぉ?」

 ミコ、というのは恐らくトヨのことだろう。

「生憎ね。もうあのチビとは縁を切ったわ」

 ジュリアが敵意を籠めた目で見ながら言う。すると、サルの表情が見る見るうちに明るいとびっきりの笑顔になった。

「そうかあ! そうだったのかあ! そうならそうと早く言ってくれよぉぉ。無用な心配をしちまったじゃあないかぁ。あーはっはっは! それなら今頃ミコは……良かったぁ、俺の心配は杞憂だったんだぁああああ!」

 コロコロと表情が変わるこの男が不気味で堪らない。

「おい、作戦って一体なんだよ!」

「だからぁ、言うわけないじゃないかぁ!!」

 あっはっは、とサルは高笑いをする。この男、一体何を考えているんだ。アーニィは睨みつけ、腰の短剣に手をかける。

「待って、メガネ」

 しかし、ジュリアの手が彼の前に差し出され、抑えられる。

「なんだよ?」

「チビ女ってさ、ヨウトウってやつの気配を感じられたんでしょ?」

「ん? ああ、そうだけど……」

 アーニィには、なぜ今になってそんなことを尋ねるのか分からなかった。

「じゃあさ、なんでアイツがこの町にいるのを、チビ女が察知していないのかしら」

 そうだ。あのトヨのことだ。妖刀の気配を感じれば、今すぐにでもすっ飛んでくるだろう。なのに、そのトヨの姿は無く、目の前では平然とした様子で、何事もなく妖刀を所持しているはずの男が立っている。この状況が明らかにおかしい事にアーニィはやっと気が付いた。

「ふふふ、ふふふ。ばれたかなぁ」

 ニタリ、とサルが笑う。

「もしかして、アンタ今、ヨウトウっての持っていないんじゃないの?」

 ジュリアがズバリと告げる。アーニィもそう考えれば納得できた。サルはと言えば、それに対する返答をせずに、暫く目を瞑ってじっとしていた。

 が、ぱちり、と目を開くと最初の時のような鋭い目つきに、顔に似合う残忍な表情を浮かべる。

「良く分かったねぇ……でも、もう遅いよ。ミコはもう、俺が張っておいた罠に引っかかったみたいだからさぁ」

 そう言うと、サルはくるりと半回転をして走り出した。向かうのは町の外。

「待てっ!!」

 と、アーニィは追いかけようとする。

「ちょ、アーニィ……後ろっ!」

 しかし、またしてもそれを、ジュリアに止められる。なんだよ、と言われたとおりにアーニィが振り向く。

 目に映ったのは異様な町の風景だった。二十、いや三十、もしくはもっともっといるかもしれない、大量の立体的になった人型の影が、ぞろぞろと走り、街の西へと向かっていた。

「あれは、アイツの妖刀が発生させる黒人間!」

 影たちは、アーニィ達にはちっとも見向きもしない。その代わり、一心不乱に走り、西へ、西へと進んで行く。

「さっき、あの男が言ってたじゃない。ミコが罠にかかったって。それって、あのチビが……」

 それを聞いた途端に、アーニィは男がいた方を見る。男の姿は無かった。道はまっすぐに伸びており、順当に進んでいるのならば、まだ後姿が見えているはずだった。しかし、それが見えていないということは、街の路地の方へ隠れたのだろう。恐らくは、影が進んで行った方角へ。

「ヤバい事になったわねぇ……」

 ジュリアは他人事のように言う。それもそのはず、ジュリアとアーニィはもうトヨとはなんらの関係が無いのだ。

 ただ、アーニィの方はそうとは思っていない。

「追うぞ」

「追うって、あの黒人間達? それとも、あのローブの男?」

「両方だよ……でも……」

 どちらを追えばいいのか、アーニィはしばし考える。もしも、あの影たちが進んで行った先にトヨがいるのなら。あの数を相手にすることになるだろう。そうなれば、トヨのことが心配だ。

 だが、すぐに解決をするのなら、サルを倒せばいい、かもしれない。しかし、どこかに隠れている可能性もあり、先ほどアーニィが思った、西の方角へ行っているという線も、あくまでも予測でしかない。もしかしたら、相当時間がかかって、手遅れになるかもしれない。

「……はぁ、砂漠行きは断念ね」

 とジュリアが零す。

「アンタ、あのチビのことが放っておけないんでしょう? だったら、チビがいるかもしれない、あの黒人間の進んだ方へ行きなさい。本体の方はアタシが探してみるから」

「いい、のか?」

 ジュリアは妖刀とは全く関係が無い。トヨといるならば、嫌が応にもかかわることになるけれど、今は無理をして関わり合いを持たなくてもいい。

「いいのよ。ほら、早くいきなさいな。まぁ、あのチビなら心配いらないと思っているなら別だけどさ……違うでしょ?」

 その問いに、アーニィはこくりと頷く。

「……ありがとう、ジュリア」

「どうも。ってか、早く行きなさい。路地をまっすぐ進んで行っても、街の外には出られるから。あの黒いのが見えなくなる前に、早く行きなさい」

 アーニィは、ぽん、と背中を押された気分だった。また、ジュリアにうまく励まされたな。

そう思いつつ、西へと続く路地を見る。

「また会おうな。そん時は、砂漠に一緒に行こうな」

「ヘンなこと言ってないで早く行きなさい」

 やれやれ、なんだかジュリアが本当に母親っぽくなってきたな。

 なんてことを思っていたのは、ほんのわずかな時間だけだった。もう一度礼を言うと、アーニィは走り出す。西へ向け、トヨが、放っておけないあの子供じみた女の子が、いるであろう方角へ向けて。





ども、作者です。


次がかなり短いので、今日中か明日にでも続けて更新をしようかなと思います。

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