勝敗の末に
十二騎士。それは、この大陸にまだ複数の国々が乱立した時代に成立されたとされる、十二騎士団のこと。彼らは神託を得た王より与えられたとされる十二の武器を持って、大陸の統一に貢献したと言われている。
伝説のように語り継がれていることではあるが、少なくとも十二騎士が実在したことは確かであった。なぜならば、十二の武器は残っており、この時代にも十二騎士の名前と共に新たな世代へと受け継がれているからだ。
中でも、エース、キング、クイーン、ジャックの四名の持つ武器は破格の力を持っていたと言う。
そんなことを王都の図書の塔でトヨに説明したことを、アーニィは思い出していた。そして、今目の前にいるのが、エースブレイド・ティルフィングを受け継いでいる、十二騎士のエースだとは思いもよらなかった。
彼らは酒場風の店から街の中心近くにある広場へと移動していた。あたりには人はいない。エースが部下の兵士たちに命令をして人払いをしたからだ。
「男って決闘とか好きよねぇ~。アタシも嫌いじゃないけど、こうも正々堂々とってのを見ると、やっぱ男ってバカだなぁって思うわね。思わない?」
両手を組んで、掌を後頭部に当てながら、実に無関係っぽく気楽に眺めるジュリアが、トヨへと投げかける。
「知らん」
「そう」
トヨの返答は、本当に関心がなさそうなものだった。しかし、戦い自体には興味があった。アーニィが一人で戦うのを眺めるのは初めてであったし、自分の新たな協力者となるであろうエースという男の実力にも興味があった。まぁ、勝つのはエースの方だと高をくくってはいたが。
だからこそ、少し気にかかることもあった。アーニィがぼろくそに負けて、怪我をしてしまわないか、ということだ。もう今後は関係がなくなるのに、そんなことを気にするなんて、どうしたのだろうか、とトヨは思う。そもそも、アイツのせいで妖刀を取り逃してしまったのが事の発端なのだ。アーニィの言うことなぞもう聞かんと言っているのに、何度も怒鳴りつけて言うことを聞かせようとする。そう言う相手にはもううんざりだ。アーニィと一緒にいれば、また妖刀を逃してしまうかもしれない。その可能性がある以上、自分はもうアーニィとは一緒にいない方がいいと思っているのに……。
なぜ、アーニィはこんな決闘などするのだろうか。トヨは距離を開けて向き合っている二人を見ながら、考えていた。
「ふわぁ……ちょいとフラフラするな。飲みすぎたか……まぁ、これはハンデにしといてやる」
あくびを一つ零し、エースが腰に携えていた剣を抜く。それが、エースブレイド・ティルフィングなのか、とアーニィは訝しがりながら注視する。しかし、剣マニアである彼には、エースの手に持ったその剣がどこからどう見ても、他の兵士たちに支給されているような安物の銘も無いような剣であることが分かった。
「あー、これもハンデだ。一般市民相手にはあの武器は使えんよ。まぁ、武器に頼らない、俺の剣技の実力だけで勝利をモノにしてやる」
「へぇ、そいつは残念だな。レアものの剣に出会えるかと思ったのに」
「……ふん、強がってやがる」
半分はエースの言う通りだった。十二の武器がどんな代物かは詳しくは知られていないが、使われていたら勝機は完全になくなっていたことだろう。もう半分は本気でレアものの剣が見れなかったことを残念がっていたのだが、戦えない相手ではなくなったことは間違いない。
アーニィも剣を抜く。右手にはトヨが砂漠の入り口の町で購入した長剣エクスカリバー。左手には、故郷を出た時から持っている使い慣れた短剣。
「ヒュー、二刀流か。流派は?」
「二天流」
「段位は?」
「免許皆伝だ」
「ほぉ~、思った通りそれなりにやるじゃないか」
アーニィの返答を聞き、エースがニタリと笑った。
「免許皆伝! 道理でアイツそこそこやるわけだ」
二人の会話はジュリアたちの耳にも届いており、ジュリアは感心して何度か頷いた。
「なんだ、それは」
あいにく、トヨにはその意味が分かっていないようだ。
「師匠から全部の奥義を教わった一人前のことね。要するに、めっちゃ強いってこと」
「そうか。アーニィは強かったのか」
かなり乱雑な解説ではあったが、トヨは何となく理解したらしい。しかし、アーニィが強いというのが彼女にはイマイチ分からない。そもそもきちんと戦っているのを見るのが今回が初めてだから、これまでに彼の実力を計る機会もなかった。
それなら、大した怪我はしなくて済むだろう。そうトヨが安心したとき。
「じゃあ、そろそろ始めよう。お前に初手はくれてやる」
エースは余裕綽々と告げる。
「分かった。では……遠慮なくっ!!!」
アーニィが両手で剣を構えて駆け出す。長剣が届く範囲になってもさらに踏み込み、最初の一撃は左手の短剣での真正面への突きだ。
それを、エースは軽く自身の剣を合わせて弾く。剣が触れ合った瞬間には既にエースは動き出しており、最小限の動きでアーニィの左側へと周る。
「でえやっ!!」
ただ、それをアーニィは予測していたのか、横目でエースの姿を捕えるのと同時に、自身の左わきに右手を当てるように動かし、長剣を横手に切りつけた。
が、それもまた防がれる。きぃん、という力強い音と共に、アーニィの長剣がエースの剣と触れ合った。
それでも、アーニィの攻撃はまだ終わらない。三度目の攻撃はさきほど解き出した短剣を、体の正面をエースの方へと向けるのと同時、体を九十度回しながら、短剣の切っ先をエースの鼻さき目がけて横なぎに切りつけた。
エースが背後に飛び退く。結局、アーニィの三撃目は空を切り、一度たりとも攻撃を命中させることはできなかった。
「ふぅん、攻めるのは苦手か? ほら、次も攻撃させてやる」
エースの余裕そうな態度は全く崩れていない。アーニィとしては、最大限のチャンスを生かす様な、実力を出し切った連撃ではあったが、完封されてしまった。
無論、それでお手上げという訳ではない。もう一度、距離を離したエースへと飛び掛かって行く。
繰り広げられる剣戟。アーニィが一方的に攻撃を繰り返し、エースはそれの全てを捌く。アーニィは常にエースの動きを見て、先読みをし、縦に、横に、斜めに、真正面に、エースに隙を与えないように次々と両手の剣をエースへと向ける。だが、エースの余裕そうな表情は一切崩れない。
エースの動きは素早く、アーニィの攻撃を完全に読みきっているようで、どの攻撃も全く彼には通用していないようだった。最小限に剣をアーニィが狙う箇所へと合せ、一つの剣戟を防げば、次にアーニィが狙う箇所へと剣を向けている。あまりに容易で、目を瞑っていても防げそうだ、とエースはあくびを洩らしそうになった。
実力に大きな差がある。傍目に見ているトヨにもそれが良く分かった。それどころか、攻撃を繰り出すたびにアーニィの動きが精彩を欠き始めている。焦りの所為か、疲れの所為か。ただ、そろそろ一方的な攻勢も終わりを告げそうだ。
全く、アーニィも無謀なことをする。全力の攻撃をひたすらに繰り返していれば、疲れ、次第に力を失っていくのは当然のことではないか。それなのになぜ、ああもがむしゃらに攻撃を繰り返すのか。
「ジュリア、あいつはどうしてあんなに全力で戦っているんだ?」
トヨはふと湧いた疑問をジュリアへと投げかける。
「どうしてって、そりゃあ、アンタをエースだっけ、アイツに引き渡さないためよ」
「なら、その理由はなんだ?」
「理由? そんなの……」
と、ジュリアは素直に言おうとしたが、はたと途中で止めた。トヨに懇切丁寧に説明したところで、理解できそうにないわね。それに、全部知って警戒されたらアタシにとっても面白くはないもの。全部は言わないけど、まぁ、間違ってないことを言っておけば大丈夫ね。
「アンタを放っておけないからよ」
「放っておけない? どうしてだ?」
また、どうして、なぜって、本当に子供みたいなことを言うわねコイツ。若干うんざりしながらも、ジュリアは返答を考える。
それこそ、子供っぽいからじゃないかしら。第一に思ったのはこれだった。しかし、口にすればトヨはむかっ腹を立ててしまいそうだ。ジュリアもアーニィも彼女の子供っぽさは火を見るよりも明らかなことだとは思っているが、トヨはそんな風には思っていない様子だ。
また、それだけであのアーニィが決闘に応じているのも、あまり納得できることではない。他にも何か、トヨを放っておけない理由でもあるんじゃないの、とは、ジュリアの大六感が告げていることだった。
「はぁ~ん、まさかアイツ……」
そして、ふと思い至った答えにジュリアはにやぁと笑った。
「なんだ? 理由が分かっているのか? 一人で納得するな」
ジュリアがうんうんと頷いているのを、トヨは不満そうに見上げながら尋ねる。
はてさて、ジュリアはその答えを言ってしまっていいのだろうか。まぁ、若干彼女のおふざけも入っている答えだというのもあるが、言ってしまったら面白くはないだろう。ここは、ぼかしておいた方がいい。ジュリアはそう判断した。
「ま、とにかくアンタのことを放っておけないのよ」
「む……それじゃあさっきと同じじゃないか……」
当然、トヨは納得がいかないようで、むすっとした顔をする。放っておけない、放っておけないとはなんなのだ。どうして私のことを放っておけないのだ。ジュリアに質問をしてしまったがために、余計に頭がこんがらがってしまった。
まぁ、考えてもどうしようもないと、トヨは再びアーニィ達の戦いに視線を戻した。
相変わらずアーニィの攻勢は続いていたが、ついに終わりを告げた。
長剣を横に振り抜いたアーニィの攻撃を、背後に飛び退いてエースが避ける。
「ふぅ、酔いが冷めて来そうだ。そろそろ、終わりにしてやる」
エースは剣を横に倒し、切っ先をアーニィに向けて構える。決闘が始まってから、エースがやっと戦いに備えたのだった。
攻撃が来る。荒れた息を整えながら、アーニィは防御の姿勢を取った。
エースが地面を強く蹴りつけ、距離を詰めてくる。エースは剣が届く距離まで到達すると、横なぎに剣を払う。
右から左への攻撃。それ右手に持った長剣でアーニィは防いだ。そう思った瞬間には、二撃目が繰り出されていた。一度引いて、剣をアーニィの胸部にめがけて突きつける。それを今度は左手の短剣で防ぐ。
手にかかる一撃の衝撃は重い。だが、痺れる手にいつまでも構ってはいられない。さらに次の攻撃が繰り出されているからだ。
そんな、とにかく素早く、とにかく重い攻撃が、何度も何度も繰り返された。それらはアーニィが予想していたよりもはるかに強烈な連撃だった。
「それっ! 防いで見せろ二刀流!」
エースはまだまだ余裕そうだ。それどころか、攻撃のスピードがさらに向上した。これまでの攻撃はアーニィでも完全に防いでいたことから、様子見のためかハンデのためか、まだまだ力を温存していたらしい。
縦から振り下ろすエースの一撃。鉄の剣がしなって見えるほどの速さで振り下ろされるそれを、アーニィは短剣で防ぐ。
強い一撃ならば、隙ができるものだが、それは素人の場合。この国一番の剣士を自称するエースにはそんな隙はない。
剣同士が触れ合った瞬間には剣を引き、左からの斬りつけ攻撃を行う。腕を目いっぱいに動かせないために、威力自体は少なくはなるが、速さはこれまでに見た中でも一番だった。最も、エースの本気の攻撃に近い速度と言える。
それを、アーニィは右手に持った長剣の切っ先を左下に向けて、腰の鞘に剣を納めるような動作で防御した。
「ほぉ……やるじゃないか」
エースは見逃してはいなかった。アーニィの目が素早く動き、移動する自分の剣の動きを確実に捉えたことを。それは防御が、確実に自分の動きを見た上で行われていることを示す。
自分の速度についてくる人間を、ことに剣士では初めて見た。
「見くびっていたらしい。もう少し本気を出してやる」
その言葉はアーニィの実力を認めた証であると同時に、より一層の激しい攻撃にさらされることになることを表している。
でも、アーニィはにたり、と笑った。
彼はジュリアにこんなことを言っていた。勝算がある、と。ほんのわずかではあるが、エースが本気を出すことによって、勝利へと確実に近づくと、彼は考えていた。
さらなる攻撃が来る。一撃を防いだ瞬間には、もう二撃目が、さらにそれを防げば次の攻撃が来る。
まるで嵐のような連撃だったが、アーニィはそれすらも両手の剣を使い分けて防ぎ切っていた。どの攻撃も完全に目でとらえられる。エースの素早さは、トヨのものと比べるとまだ遅い。彼の攻撃を目で追えるのはトヨの戦いをこれまで眺めている機会があったからかもしれない。
それに焦りを見せ始めたのはエースの方だ。全部の攻撃を防がれているのは予想外のこと。ただ、アーニィの実力をある程度計っていながら戦っていた彼には、これぐらいはできるのではないか、とは思っていた。
二天流。それは防御を中心にした流派である。その免許皆伝であるならば、防御のスペシャリストということでもある。ならば、こと攻撃を防ぐことに関しては秀でていると思えば、アーニィがエースの攻撃を防ぎきっていてもなんら不思議ではない。
しかし、それは彼の体力が十分にあれば、という条件付きだとエースは思っていたのだ。エースはアーニィに一方的に攻撃をさせていたときのことを思い出す。攻撃を繰り返すたびに、動きに精彩を欠いて行き、目に見えて体力を消耗している様子だった。最後の方の動きは、避けるのが簡単すぎて退屈なほどだった。息も荒れていた。
そのため、今の体力ではアーニィに自分の攻撃を防ぐのは無理だと思っていたのだった。しかし、現状を見れば、体力の消耗を全く感じさせないような防御を見せている。
まさかこいつ、わざと攻撃に手を抜いて、体力を消耗しているように見せていたのか? それで、俺が攻勢に転換するのを待っていたんじゃないか。自分が最も得意な防御を中心とした戦闘をするために。
豪雨のような止めどない攻撃を浴びせながら、エースはアーニィの狙いを察した。
アーニィの思惑は、エースが思い至ったものと全く同じだった。攻撃をするのはアーニィはそこまで得意ではない。二刀流という特色は、連撃をするのには適してはいるが、その分体力を非常に消耗する。だからこそ、防御に徹した方が長く戦える。それに、戦いは一撃でも決められるのだから、無為に攻撃をする必要などないのだ。二刀流の使い手であるからこそ分かる長所と短所。それをうまく理解して戦ってこその、免許皆伝の腕前だ。
アーニィは温存した体力を活用し、ある程度の余裕を持ってエースの攻撃を完封していた。
エースは、見事に罠にはめられたのだ。確かに彼は強い。実力は十分。しかし、彼の持つ余裕が、実践を長い間離れていた判断の鈍りが、まんまと罠にはめられる原因となった。
が、それでもまだ覆せると、エースは攻撃の手を緩めなかった。無論、それだけの実力もある。しかし、その決断を選んだのは、ここで負けるわけにはいかない、この国一番の剣士が、負けてしまってはならない、というプライドによるところが大きかった。
さらに数分間、こう着した戦闘は続いた。最高潮になったエースの素早さと重さを兼ね備えた攻撃を、まだまだアーニィは防ぎきることができていた。
そして、ついに状況が変化する。
わずかな時間だったが、変化を見せたのは、数十、百近くにも上る攻撃を繰り返したエースの方だった。
アーニィが受けた、斜め下から切り上げる攻撃。防いだ短剣と左手に、じん、と衝撃が伝わる。しかし、その衝撃が明らかに弱くなっていることに、アーニィは気が付いた。
攻撃をしたエース本人も、それには気が付いていた。原因も分かる。
自分の息が上がっている。上下する胸の動きが激しくなっている。そんな反応を見せる自身の体に、エースは苛立ち、歯ぎしりをする。
エースは強い。恐らく、この国一番の剣士というのは誇張でもなく本当のことだろう。だが、そんな強さを持っているならば、これまでにこんなに長い間戦ったことはなかったはずだ。加えて、朝からの飲酒や喫煙、自身でも平和ボケだと言っていたが、実践から離れている間の彼の行動は、予想以上に彼の基礎体力を低下させているはずだ。なのに本気で戦うようになれば、自身の体力の低下を顧みて行動をすることなんてないだろう。慢心と油断が、それを余計に加速させる。
それが、アーニィの考えていた勝算だった。無論、見事に的中していた。
体力の減りはエースにも想定外だった。これまでにも焦っていたが、体力が失われていることを実感すると余計に焦り、冷静な判断を失わせた。
「があああああっ!!!」
初めてエースが掛け声を出し、攻撃を食い出した。その一撃は力任せの、とどめを刺そうとする気迫がこもっている。
それに対して、アーニィは剣を合わせて防ぐのではなく、右手の長剣を一度体の後方にまで下げ、勢いを付けて、エースの剣にめがけて思い切り振り抜いた。
がきぃん! と最も強い音が響く。初めての力と力のぶつかり合いだった。
続いてからん、と剣が地面に落ちる音が鳴り響く。空の手を空しく広げていたのは、エースの方だった。
エースの喉元に、アーニィは長剣の切っ先を突きつける。
「俺の勝ちだな」
ふん、と鼻をならし、得意げな顔をエースへと向けるアーニィ。
「……はぁ、分かった。負けを認めてやる」
エースの敗北宣言も偉そうなものだった。しかし、勝ちは勝ち。この決闘の勝者はアーニィとなった。
「へぇ~、ホントにやるじゃんアイツ。まさか勝っちゃうなんてね~」
「……ああ」
アーニィが勝ったのは、ジュリアにとっても予想外だった。けれども、そこまで驚くようなことでもなかった。その程度にしか興味関心を持っていなかったのがその理由だ。
その反面、彼女の言葉を投げかけられたトヨは、唖然としているのか、短い返答しかしなかった。
なぜアーニィが勝つ? アーニィが勝利をしたということは、私はあのエースという男に協力してはもらえないということか?
アーニィの勝利したことの意味を、トヨは目をぱちくりとさせながら考える。それは彼女にとって、望まぬ結果であった。
「負けちまったもんは仕方がない。俺の方からはこれ以上彼女のついて来いだなんて、言わないでやる」
エースが落ちた剣を拾い、鞘に収めながら言う。決闘に巻けたと言うのに、悔しそうなそぶりはちっとも見せていなかった。
「後はアンタらで話し合いな。これからどうするのかを」
捨て台詞を、とエースの相変わらず偉そうな言葉に、アーニィは勝利の余韻を感じる暇もない。
不愉快さを感じながらも、アーニィはトヨ達が待っている方へと歩いて行く。
「おっつかれさんっ。まぁ、作戦勝ちって感じよね~」
近づいてきたアーニィへジュリアはねぎらいの言葉を告げる。けらけらと笑って、とりあえずは彼の勝利自体には喜んでいる。一応は自分の武器を破壊した相手だ。無様に負ける姿を見るよりは、気持ちがいい。
「……どうして勝ったんだ、お前」
トヨの方はと言えば、険しい顔でアーニィの勝利を呪っている目を見せる。
「どうしてって、お前をアイツに渡さないために……」
お前のために戦ったって言うのに、そんな顔を向けられてしまうアーニィも、トヨと同じような顔になる。
「お前が、あの男に私がついて行くのを阻止しようとする理由はなんなんだ」
「それは……」
どう言えばいいものか、とアーニィは頭を搔く。トヨが全部を言ったところで理解してくれる可能性は極めて低い。
「お前が危険だからだよ。アイツは……」
「危険ってなんだ? 私は自分の身くらい自分で守れる。お前より私の方が強いではないか」
「いや、お前の考えているような危険じゃなくってだな……」
説明するのも恥ずかしい。しかし、言わなければトヨも納得することはないだろう。ならば……と、アーニィがしばらく言い淀んでいた時だった。
「それに、お前よりアイツの方がよっぽど頼りになりそうだ」
トヨの言葉に、アーニィは頭をがん、と殴りつけられたような衝撃を覚えた。
「た、頼りって……俺はアイツに勝ったんだぞ?」
「アーニィは確かに勝った。でも、お前は怒る。私が何かをしようとすると反対をする。お前は私に言うことを聞かせようとする」
「仕方ないだろ。それは状況が……」
「状況がなんだ! 言っただろう、私は何が何でも自分の使命を果たさなくてはならないんだ。そのためだったら、状況がどうとか関係はない!」
トヨはアーニィのせいで妖刀を逃したと言っていた。決して彼だけが悪いわけではない。しかし、どれほどの後悔をしても逃してしまったものは、あの時のチャンスがもう一度巡ってくるとは限らない。あのときに強行突破をすると言っていたのも、そう思っていたからだ。そうまでしても、逃してはならないと思っていたからだ。
トヨの使命に対する心情は、アーニィにだって理解できないわけではない。すねているだけにも思えるが、それほどにまでこだわるほどに、彼女には重要なことだったのだ。
「アーニィといたら、また妖刀を逃してしまうかもしれない。でも、アイツだったら協力をしてくれるとはっきりと言ってくれている。アーニィといるよりも、妖刀を破壊するチャンスをモノにできそうだ」
だから、と継いでトヨは自身の思いを述べる。
「私はアイツに協力をしてもらう。アーニィ、お前の協力はもう……いらない」
アーニィは怒る気にもなれなかった。かといって、哀しいとも似つかない。強いて言うならば、ただひたすらに空しい気持ちだった。
「俺は別に、彼女に付いてくるようにこれ以上言わないと言ったから、彼女の意志で決めるのならば構わないが」
いつから聞いていたのか、いつからそこにいたのか分からないが、エースがアーニィの後ろにいた。
「そうね。そう言う条件だったものね」
言葉を交わす気がなさそうなアーニィに代わってジュリアが言う。
「ああ、私の意志だ。お前に協力してもらう」
「そいつは良かった。キミが望むのなら、俺は俺の持っている全てを掛けても、キミの使命を成就させてやる」
まるで初めからそう言うつもりだったように、エースは自信満々に言う。
「……分かった。勝手にしろ」
もう、アーニィが何を言っても、どうにかなるとは思えなかった。アーニィは顔をうつむかせながら歩き出す。歩調は早くどんどんとトヨ達から離れていく。
「あーあ、折角頑張ってたのにねぇ、可哀そうねぇ」
そんなことは思っていないだろうが、嫌味でも言うようにトヨやエースたちに聞こえるようにジュリアがわざとらしく言う。
「お前はどうするんだ?」
トヨがジュリアに尋ねる。
「そうね……アタシはあのメガネの後を追うわ。随分と落ち込んでいるみたいだし」
「分かった」
「短い付き合いだったけど、サヨナラくらいはいいなさいよ?」
「……む、達者で」
「良く言えました。じゃ、さようなら。夜には気を付けなさいよ~」
かかか、と笑いながら、ジュリアがトヨに背を向け、今は道の先で小さくなったアーニィを追いかけていく。
その後ろ姿を見ながら、トヨは思う。これで良かったのだ。私の決断は、何一つとして間違ってはいないのだ、と。
「では、これからどうするかな? もしも、すぐに何かをしなければならない予定がないのなら、俺の屋敷へと招待してやる」
「……ああ」
本当なら、今すぐにでもこの町を飛び出して、取り逃がした妖刀の気配を探るべきだろう。それは分かってはいたが、なぜか今のトヨは、何かをする意欲も湧かなかった。
ども、作者です。早速「あれ、前の設定となんか違う」的な部分がありますが、まぁ、忘れているんです。お話的にはちょいとターニングポイントになりそうなのに、かき上げてからは設定違うことにばかり気が取られてしまいますね。




