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カタナガリ  作者: リソタソ
オニキリマル
43/104

決闘

 もくもくと紫煙が昇る。銀髪の男の加える葉巻の先と、彼の口から吐き出される煙は、つんとする刺激的な臭いを辺りに充満させていた。

 アーニィはその煙草の臭いがあまり好きではない。にもかかわらず、嫌な臭いは煙とともに彼の顔面に直撃しており、これは堪らない、と椅子ごと移動し、直撃を受けないジュリアの隣まで移動していた。

 なぜ、彼が臭いに悩まされ、面倒な移動をしなければならなかったのかと言えば、銀髪の男が、アーニィ達のテーブルに同席したからであった。

「って、ことはキミは妖刀ってカタナを探しに砂漠の向こうからわざわざやってきた、と言う訳か」

 男は葉巻の灰を灰皿に落とすと、樽ジョッキに注がれた麦酒を一気に煽った。この男、まだまだ朝も早い時間だと言うのに、ぐびぐびと酒を飲みまくっていた。両手の指先を合わせて円を作ったくらいの幅と、十数センチの高さのある樽ジョッキをもう五杯は空にしていた。トヨが暴食なら、この男は暴飲だ。それでいて全く酔っぱらった素振りを見せないのだから、この男、相当なザルらしい。この男の態度には、兜を外して銀髪の男の背後に待機している二人の兵士も不満気な顔を見合わせていた。

 でもって、彼は積極的にトヨから話を聞き出していた。トヨもそうそう自分のことを話しはしないが、少なくともアーニィ達の知っている、妖刀を探して大陸を旅している事、それは何が何でも成し遂げなければならない使命であること、などをさらに追加された肉料理を食べる合間に答えていた。それを逐一まとめる銀髪の男は、よほどな聞き上手でもあるようだ。この男、ロリコンじゃなかったら相当モテたんじゃないの、とジュリアは思うのだった。

 葉巻の臭いもあってか、ぶすっとした顔で腕を組んでいるのはアーニィだ。なんだかおもしろくない。さっきまで自分と同じようなむっつり顔をしていたのはトヨだったのに、今では好きなだけご飯を食べていいと言われたおかげか、すっかりご機嫌になっていた。それに妖刀のことまで初対面の相手に話してしまうなんて、彼女は何を考えているのか、さっぱり分からない。

 が、妖刀の話なんてそう簡単に信じられるものではない。話したところで、何を言っているんだこいつは、と妄言か何かと判断して聞き流すに違いない。かつての自分が、鵜呑みにしなかったように。

「妖刀、妖刀ねぇ……」

 案の定銀髪の男はその単語を繰り返しながら、葉巻を吸う。頭の中で妖刀に繋がりそうなことを探しているようだが、無論、普通に生活をしていく上で知れるようなものではない。

「妖刀について何か知っているのか?」

 期待を込めた目でトヨは隣にいる銀髪の男を見上げる。

「いいや、知らないな。さっき初めて耳にしたくらいだ」

「……そうか」

「だが、キミにそんな残念そうな顔をさせる訳にはいかないな。よし、この俺がキミの妖刀探しに協力してやる」

 その言葉が指し示すのは、まるで浮世離れしたトヨの話を信じるということ。強力に名乗りを上げたことも驚きだが、それ以上に簡単に妖刀のことを信じた銀髪の男にアーニィははぁ!? と声には出さずに口を大きく開けて驚いた。

「協力? そんなものはいらん」

「その使命とやらは、絶対に成し遂げ、なおかつ早い方がいいんだろう? だったら、俺の協力を受け入れておけ。なんて言ったって、ここいらの兵は全部俺の指揮下にある。奴らを使って、妖刀をすぐに見つけてやる」

 自信ありげにそう言うと、一度ちらりと目線をアーニィの方へと向けてから、

「それに、金の心配だってないからな」

 と嫌味っぽく言った。ただでさえいけ好かない男なのに、そんなことまで言われてしまえば、さすがにかちんと来る。

「ちょ、ちょっとエース! 何を言ってるんですか」

「師団を私用に使うなんて、他の団長たちに知られたらこってり絞られますよ」

 自分達を使われるとあっては、これまで後ろで待機をしていただけだった二人の兵士も、不安げに進言する。

「俺の師団だ。別に構わないだろ。どうせ、戦争も内乱もそうそう起こるこたぁないんだ。むしろ、退屈過ぎて死にそうなんだよ、俺が。お前たちにも良い暇潰しになんだろ」

「しかし……」

「エースの少女口説きのために利用されるだなんて……私たちも、他の者も納得はしないでしょう。それにここでの仕事だって……」

「仕事なんて見回りと見張りばっかじゃねぇか。それに、お前らが納得するかどうかなんてどうでもいいんだよ。将は俺、駒はお前たち。いっそのこと新しい仕事だと思って、俺の手足にしてやる」

 どうも、このエースと呼ばれた銀髪の男も、我が相当強いらしい。やはり、というような顔をして、二人は引き下がった。長い間彼についているのか、聞き分けのなさを理解はしているらしい。そんな二人に、ジュリアとアーニィは少し親近感を覚えた。

「どうだ。俺達の協力があった方が、効率的だぞ」

 視線をトヨへと戻し、最後の一押しとばかりに告げる。

「……そう、だな」

 少し考えた後、トヨが答える。

「お前に協力をしてもらった方が、妖刀を探し出し易くなるかもしれん。少なくとも、こいつと一緒にいるよりは」

 そう言って、トヨはアーニィへと目をやった。その態度に、アーニィは怒鳴りつけそうになった。

「って訳だ君たち。俺は彼女に協力をすることになった。聞けば、この子は特にそこの眼鏡君との協力関係を解消したいらしい。どうだ、ここは彼女の意見を尊重して彼女を俺に預けてはどうだろう?」

 あくまで温厚に、まるで取引をしている商人のような口振りで言うが、その背後に潜んでいる下心が見せ透けているようだった。むしろ、それを隠す気もない。

 あーらら、汚されちゃうのかなぁ、あのチビ。まぁ、それはそれでいい気味なんじゃないかしら。アタシの手で殺すことはできないけど。と、ジュリアは至って無関心、むしろ明け渡してもいいんじゃないの、と思っていた。

 一方のアーニィはと言えば。

「冗談じゃない!」

 真っ向からの反対を示した。トヨは妖刀探しの協力をエサに、うまく言いくるめられている。彼女自体、銀髪の男の思惑になんてちっとも気が付いてはいない。それどころは、そもそもどういう悪意が潜んでいるのか、その種類ですらも、妖刀のことばかりにしか関心のない彼女には分かってはいないだろう。

 明らかに彼女に身の危険が迫っている。これまでとは別の種類の身の危険ではあるが。ごく一般的な人が持ちうる正義感を持っているアーニィにはそれを見過ごすことなんてできなかった。

「お前にトヨを連れてはいかせない」

「アーニィ、それを決めるのはお前ではないだろう。お前は口を出すな!」

「いいから、お前は黙っていろよトヨ!」

「身勝手なことを言うな! それに、私はもうお前の言うことも聞かんと決めたんだ!」

 またまたまたまたアーニィとトヨが衝突をする。

「仲が悪いなぁ、この二人は」

「でしょう? さっきからだけど、ずっとこんな調子なのよねぇ」

 銀髪の男とジュリアはしばしそんなことを言いながら傍観していたが、銀髪の方が二人の間に入った。

「まぁまぁ、メガネ君は納得はしていないってことだな、要するに」

「納得なんてできるわけ……」

「しかし、納得をしてもらわなければならない。となれば、君に対して一つ提案をしてやる」

 そう言って、銀髪の男はもう一度葉巻を咥え、一息吸って煙を吐き出して、落ち着いた様子で次の言葉を口にする。

「見たところ、たくさん剣を持っているようで、ただの収集癖のある男に見えるが、その豆だらけの手を見れば分かる。キミはそれなりの剣の使い手だろう?」

 いつの間に見抜かれていたのだろうか。指摘をされたとおり、アーニィの手は豆だらけで、しかも剣の使い手としても、それなりの自信はある。

「ああ」

 不気味さを感じながらも、アーニィは肯定する。

「なら、ここはお互いの剣でどちらが引き下がるかを決めようじゃないか。キミが負ければ納得してもらう。俺が負ければ俺はこれ以上彼女を連れて行こうとは言わない。どうだ?」

「要するに、決闘で決めようってことか。分かった、それに乗ろう」

 アーニィはすぐさま承諾する。相手の提案ではあるが、承諾をする以外に白黒はっきりつける方法はなさそうだったからだ。

「いいの、アーニィ。そんな簡単に承諾しちゃって」

「ああ。そう簡単に負けないさ」

 アーニィは言いつつ、テーブルを一瞥する。うん、大丈夫。勝算はある。相手の実力が未知数なこと以外は、こちらの方が有利そうだとアーニィは思った。

 ただ、勝算があると思っているのは、相手も同じことだった。

「ってなわけだが、お嬢さんはいいかい?」

「……む、それでアーニィを納得させられるなら」

 トヨは完全に銀髪の男の方の味方についているようだ。アーニィが引き下がることを期待している。

「大丈夫さ。俺がアイツを倒して勝ってやる。なんて言ったって、俺は名実共にこの国で一番の剣士、十二騎士のエースなんだからな」

 銀髪の男、十二騎士のエースはアーニィ達へも聞こえるように、自分自身の実力と言うものを知らしめるように、そう言った。

ども、作者です。年末で多少放出するために更新です。


この辺りで随分前の設定を掘り出しましたが、違っているというポカをやらかしています。何かしらの機会があれば、昔のを修正します。今後はここで出てきた設定を準拠して進むと思います。まぁ、また間違えないとも限りませんが……。ちゃんと資料は作っておいたのになぁ……。思い違いって大変。

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