剣士じゃない
「剣士じゃない……だと?」
「ああ。私は使命を背負った者。それ以外の何物でもない。この大剣エンシェントを使うのも、すべては我が使命のため、いや、こいつこそが私の使命そのも……」
そこまで言いかけて、トヨは、はっとして眉を顰めた。
「貴様! また私を策に嵌めて情報を聞き出そうとしたな!?」
「ちげーよ! お前が勝手にしゃべっちまうんだろうが!」
「むむむ……」
納得いっていないように口を噤むトヨ。彼女をしり目に、アーニィは折られた剣の破片を集めて、それぞれを砂を集めた小さな山の中に埋めた。
「何をしているんだ?」
奇妙なことをしているアーニィにトヨは腕組みをしながら聞いた。
「墓を作ってるんだ。剣の」
「バカかお前は」
即答するトヨ。
「バカじゃねーよ。いいか、剣っていうのはな、作ってくれた鍛冶師、使っている剣士たちの思いの詰まった、鍛冶師にとっては子供、剣士にとってはかけがえのない相棒なんだよ。魂を籠めて作り、命あるものとして扱われる。そんな剣をこんな風にガンガンぶち壊しやがって……」
「……確かに、魂が宿る、というのは分からんでもないが、墓を作るほどか?」
「当然だ。それが剣士として、そして剣マニアとしての俺のマナーだ」
「そうか……私はこの剣たちが私に感謝しているような気もするがな」
「どこがだよ。自分のこと壊されて喜ぶような剣なんて……」
「こいつらは盗品なんだろう? だったら、元の持ち主のもとにも帰れず、ひたすらに命を奪う道具として誇りも何もない、ただの欲望の奴隷として使われていたも同然だろう。私だったら、そんな立場から、殺されたとしても救ってくれた人に一応は感謝するがな」
「……お前、剣士じゃないとか言いながら、意外と剣に魂が宿るとかそう言うのは信じるんだな」
アーニィは剣を埋め終えて、立ち上がり砂の付いた手を払った。
「そりゃあ当然だ。何しろ、このエンシェントが……はっ! な、なんでもない」
また自分から余計なことを言ってしまったと気付いて取り繕うトヨ。しかし、アーニィはその一言を聞き逃しはしなかった。
「このエンシェントが……まさか、その剣には確かな魂が宿っているとでもいうのか!?」
「な、ち、ちが、ちが、ち、違う!! そんなこと、あ、あ、あ、あ、ああるわけが無かろう!」
「その慌てぶり、もはやその通りだと言っているようなもんだぞ! さぁ、本当はどうなんだ! というか、その剣にはどんな魂が宿っているんだ!!」
「な、何も宿っていない、一切合財、ちぃぃぃぃぃぃっっとも魂なんか宿ってはいないからな!!!」
トヨはもう、決して何も言いはしまいと、全力で否定する。アーニィもこのまま押し問答を続けていても、口を割らせるまでは時間がかかりそうだと思っていた。そこで、彼は別の方向から攻めて見ることを考えた。
「そういやよ、お前カタナを捜しているんだったよなぁ」
「り、理由は言わんぞ……」
トヨも警戒しているようで、背を向けながら表情を読まれないようにしている。
「いやいや、それぐらいは推測ができるぞ……さては、お前の使命はカタナを探し出すことにある!」
びくり、とトヨが背筋を伸ばす。
「べ、別に、カタナを捜すのは……私の趣味だ」
つま先で地面を掘るトヨ。明らかに嘘をついてると、アーニィもはっきりと分かった。
「おっと、そう来たか。なら、そんなカタナを捜すのが趣味なトヨちゃんにとっておきの情報があるんだぁ~」
「と、とっておきの情報? ま、まさか、か、カタナが関わるのか!?」
トヨが振り返る。その食いつき方からしても、彼女にとってカタナ、というものが非常に重要なのだと痛いほどに伝わってくる。
「あー、もしかしたら、カタナかもしれない、という情報なんだが……気になるか?」
あくまで可能性としてカタナが関わるかも、というくらいだったが、トヨはそれでもぶんぶんと頭を上下させて頷いた。
「じゃあ、その剣に宿る魂について教えてくれ!!!」
「なっ!? だ、ダメだ!! それは絶対にできん!!!」
案の定、トヨはぶんぶんと首を振って拒否した。
「ははーん、じゃあ、折角だけどこの情報は教えてやれんなぁ」
アーニィはにたりにたりと得意げに笑いながら、大げさに肩をすくめて言った。
「ぐぐぐ……」
悔しそうに歯を食いしばるトヨ。
「宿る魂のことを部外者に教える訳にはいかん、だが、その情報とやらも気になる……おい、アーニィ、他の条件ではダメなのか?」
「他の条件? そうだなぁ……使命について全部を教えてくれるか、それか……その剣を触らせてくれるかだなぁ」
アーニィが提示したことは、さっきまでのやりとりでトヨがすでに断っていたことだった。
「ぬぅ……」
唸るトヨ。どちらにしてもこんな得体のしれない剣マニアにさせるのは気が引けていただが、カタナかもしれない情報を捨て置くこともできない。しばし、彼女の心の中で葛藤があった。
「その中なら……よし、この剣を貴様に触らせてやる」
「……なにぃ?」
アーニィにとっては予想外のことだった。剣に宿る魂について聞き出すか、それとも剣を触る方を取るか。それだったら、剣を触る方がいいかもしれない。なぜなら、魂についてならこの意外と口の軽いトヨと言う少女なら、そのうちぽろっとこぼしてしまうかもしれないからだ。
「よし、じゃあそいつを触らせてもらおうじゃないか」
アーニィが言うと、トヨは背中に納めていたエンシェントを取り出して、剣先を地面に突き刺した。
「さぁ、柄を取るがいい」
エンシェントの石突に付けられた、紫の飾り紐が揺れる。
「よぉし、それじゃあ遠慮なく……ぐへへ」
「お前はなぜ剣を目の前にするとそんな変な笑い声を出すんだ……」
呆れるトヨのことなど気にもせず、アーニィは相変わらず妙な笑い声を浮かべながら大剣エンシェントの柄を掴んだ。
「柄は……ふむふむ、細身だがかなり丈夫な鉄製の物か。これだけ長くて太い刀身を振るうのだから、これぐらいじゃないと駄目だろうから当然か……」
アーニィはぶつぶつと冷静な分析を呟きながら手を上下に動かして柄を摩った。
「じゃあ、これは一体どれくらいの重さになるんだ?」
「持ってみればいいだろう」
「お、そこまで許可してくれるのか……ならお言葉に甘えて」
アーニィが両手で柄を持って、ぐいっ! と力いっぱいに持ち上げようとした。
「ぐぬ、ぐぬぬぬぬ!」
眉間にしわを寄せるアーニィ。見るからに重そうな剣に対して、彼もまた渾身の力でもって持ち上げようとしているのがよく分かる。
しかし、肝心の大剣エンシェントはぴくりとも動かなかった。
「おい、トヨ。この剣、地面にどんだけ深く突き刺したんだ? ビクともしないぞ」
アーニィはここまで動かないのは、地面に深く刺さっているせいだと考えた。
「いや。先っちょだけ埋まってるだけだ。ブレードの一割にも満たないくらいしか刺さっておらんぞ」
「嘘だぁ、こんなに動かないんだぜ?」
アーニィはしばらく動かそうとしたが、やはり、ちっとも動かなかった。
「……もしかしてこれ、とんでもなく重いのか?」
「もちろん。だが、お前が感じる重さと、私が感じる重さは違うがな。ちょっと手を離せ」
アーニィがトヨに言われたとおり手を離すと、代わりにトヨが剣の柄を取った。
「ほいっ」
そして、かるーい掛け声と共に、トヨは片手で大剣エンシェントをひょいっと持ち上げてしまった。
「……嘘だろ?」
「目の前で起きている光景はまさしく現実だ。ほら、私が手渡ししてやるから、持ってみろ」
トヨが剣を水平に持って、アーニィの方に差し出す。もう、目の前で少女が三メートル近くある剣を片手で持っていて、しかも水平にしている時点で、アーニィにはこの光景が異常以外の何物でもないように思えてきた。
「ああ」
ともかく、アーニィは両手で剣の柄を持った。重さをほとんど感じないのは、トヨが重心を持っているからだろう。
「一人で持ってみろ」
アーニィが両手で柄を握ったことを確認すると、トヨはそう言って手を離した。
「うわっ!!!」
がこん! と大剣の刀身の方が傾いて地面にぶつかった。
「な、うぐぐ……ダメだ、ちっとも持ち上がらない……」
「だろう?」
得意げに言うトヨ。しかし、こうなると次に疑問に思うのはトヨについてだった。
「なぁ、お前は一体全体、どうしてこんな剣をあんなに軽々しく振り回すことができるんだよ?」
「むぅ、また質問か……。まぁいい。私もいろいろと言い過ぎた分、お前もいろいろと気になっているのだろう。それぐらいなら教えてやる」
トヨはそう言いながら、アーニィからエンシェントを取り上げて、自分の背中に背負い直した。その様子にも一切の苦は見て取れず、落ちた木の枝を持ち上げるのとほとんど同じ位容易そうだった。
「このエンシェントは、使い手を選ぶ。さきほどからお前が気にしている例の魂という奴のおかげだ。その魂に選ばれたのがこの私ということだ。だから、お前たち普通の人間が重すぎると感じる大剣であっても、私ならこうやって振り回すことができるのだ」
「なるほど……。じゃあさ、その大剣に込められた魂とやらを解放するなりなんなりするのがお前の使命なのか?」
「むぅ、また鋭いところを突く……。詳しくは言えないが、深くかかわっていることは事実だ」
「なるほどね……うーん、魂を持った大剣の持ち主が、カタナを捜している、か……。じゃあ、カタナを捜すのは……」
「待て! それ以上はもう聞くな! もうお前にこれ以上のことを言うことはできん。剣を触らせた分、今度はお前が私に例の情報を教えてくれる番だろう?」
「……まぁ、そうだな。よぉしじゃあ、耳をかっぽじってよぉく聞いとけよ……」
「ああ」
トヨは、アーニィに言われたとおり、両方の人差し指を耳に入れてぐりぐりと回した。
「よし、さぁ、早く教えてくれ」
「……あ、ああ」
トヨの素直なのか、それともただの天然ボケなのかよく分からない行動に、アーニィは怪訝な顔をしながらも、説明を始めるのだった。
剣士じゃない♪剣士じゃない♪素敵な気持ち♪
と、ふとタイトルを書いて思いついてしまった作者です。




