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カタナガリ  作者: リソタソ
オニキリマル
37/104

速き犯人

 牛が一匹、のんきに草を食んでいる。群れで暮らすことの多い牛、ズクゥだが、たまに大きな角を持った雄が群を抜けて悠々自適な生活を始めることが多々あった。

 腹いっぱいに草を食うためか、それとも闘争にでも敗れたのか。その真意は分からないが、マイペースに草をはむ姿は、寂しそうでもあり、幸せそうでもあった。

 黒く、月明かりにほんのりと白く光るほどの毛並みも悪くは無い。大きな体で、頭の角は勇猛にも思える。実際は草食動物なので、いつ何時外敵が現れてもいいように、警戒を怠ってはいない。

 今も、何かが近づけば逃げることは何も難しい事ではなかった。

 分厚い雲が、月明かりを遮った。今宵は満月、明かりを持たないサバンナの生き物にとって、それは暗闇の中の唯一の光だ。

 世界の全てが暗闇に染まったような、わずかな時間。その隙にがさり、と草が不自然な音を鳴らした。

 何かがいる。それを察した図食うは、草を食むのを止めた。

 だが、その音は牛でもやっと耳にすることができるほど小さく、そしてあまりにも近かった。

 ズクゥの脳天に、頭と同じ位の大きさの岩が直撃した。


 一連のことを、トヨ、ジュリア、アーニィの三人は少し離れた位置から固唾をのんで見届けていた。

 丘を下り、トヨが先陣を切って、足音も立てずに平原を歩いている最中の出来事であった。

「今の、見たか?」

 ボリュームを押さえて、アーニィがトヨに問う。彼には牛の近くに何かが突然現れ、気が付けば牛の頭が砕けて倒れている、という所しか見えていなかった。

「見えた。人だ。人が牛を殺した」

 夜目が利くと言っていたトヨは、驚くべき視力でそれをはっきりと捉えていた。

「見て、アレ!」

 ジュリアが指を指す。その法には確かに人がいた。だが、シルエットでやっと人の形をしているということだけが分かる程度で、その容貌は判然としない。

 初めてそのシルエットを見た時、アーニィもジュリアも、そのあまりにも線の細いシルエットに目を疑った。

 アーニィは牛を殺すのは大男のような化け物みたいな奴だったと考えていたから、ジュリアはまさかね、と自分の嫌な予感が的中してしまったことから、二人とも絶句していた。

 月が完全に姿を現す。シルエットが晴れていく。すぐに犯人の姿が浮かび上がるだろうと思って待っていたが、その期待は裏切られる。

 ほんのわずかな時間で、シルエットが突如として消えたのだ。

「嘘っ!?」

「逃げられたのかっ!!?」

 二人は驚きを隠せないままに、シルエットのいたあたりを見渡した。しかし、そこはまるで元から何もなかったかのように閑寂な様子だった。

「いや……違うっ!」

 トヨは早急にエンシェントを抜いて身構える。ガサガサと激しく、まるで草をなぎ倒しているかのような音が、彼女の耳には届いていた。

「こっちにくる!!」

 トヨは目を見張る。まるで猫のような猛獣が、素早く獲物を追いかけるのに近しい速さで、迫ってきている。

 だが、それが分かるのは耳からの情報だけだった。トヨの目を持ってしても、いまだにそれを捉えきることはできていない。左右に揺れる音を目で追うが、視界に映るのは蛇が通った後のような、草が倒されてできた蛇行した道だけだった。

「牛の次は俺達に狙いを付けたってのかよ!?」

「でしょうね。動物だけを殺すだなんて、言ってなかったもの」

 二人とも辺りを見るが、やはり何もいない。腰の高さ位もある背の高い草がただ倒され、ガサガサと音を立てていることしか分からないでいる。

 動くことはできなかった。何が起こるか分からない以上、そうするしかない。

 けれど、一人だけ夜目の利くトヨが突然走り出した。

「トヨ!!」

 彼女は、三人の中でも大事な目だ。近くにいてもらわないと、多少は目が慣れていたとしても、素早く動くそいつを目で見ることなんて難しい事だ。

 一方、トヨの方は迷いが無かった。どこにいるのか、見当がついていたのだ。それだけで、十分だった。

 トヨが横殴りにエンシェントを一閃する。まるで鎌で刈り取ったように、一瞬で草が散り、風に舞った。

 狙いを付けての、確実に当たるだろうと思っていた一撃。しかし、まるで手ごたえが無かった。

「む、いない!?」

 間違いなくここにいると踏んでいた。確かめるように刈り取った草の跡を見てみると、ちょうどその場所までは、そいつが通ったであろう道も続いていた。

 トヨの憶測は決して間違ってはいなかった。それなのに……。

「近くに行きましょ。ここからじゃ、見通しが悪いわ」

 トヨがなぜ攻撃を外したのか考える間に、ジュリアが移動を提案していた。トヨの攻撃のおかげで、多少開けた場所ができたのはありがたい。草の中にいるよりは、そいつが近づいてきたときにだって分かり易いだろう。

 アーニィは頷き、一足早く先へ進んだジュリアを追って歩き出す。

 その、一歩目を踏み出したその時だった。

 どん、と軽い音がアーニィの眼の前で響く。

 そいつは、中からアーニィの目の前に突如として現れたのだった。四つの足で着地したかのように両手を地面に付き、そいつはアーニィを見上げる。ぎろり、と月光を反射する目が動く。

「ガァァアッ!!」

甲高い、獣の咆哮のような声を発して、そいつはアーニィへと手を伸ばす。

「なっ!?」

 武器を取るような余裕なんてなかった。素早く迫るその攻撃を防ごうとアーニィはその手を掴もうと、自身の手を差し向ける。

 しかし、そいつのてはするするとアーニィの手をかいくぐると、急に引っ込んだ。

 アーニィは、何も……されなかったのか? と何かの攻撃がくることを予感していたため、肩透かしを食らってしまう。

 だが、状況はかなり厄介な状況になってしまっていたようだ。

 アーニィがそいつに再び目を向けると、そいつの手には剣が握られていた。アーニィの腰に携えていた、鈍剣が。

「しまった! 剣を奪われた!!」

 武器を持たない相手に、武器を奪われてしまう。それはすなわち、その武器を使って、自身が攻撃をされてしまうことに繋がる。

 次こそは、間違いなく攻撃が来る。早く避けるべきだ、と思った瞬間には、そいつはもう鈍剣を振り上げていた。

「メガネ!! しゃがみなさいっ!!」

 その言葉を合図にするかのように、急いで戻ってきたジュリアが、かつては槍だった棒を、そいつの背中へ目がけて殴りつける。

 しかし、そいつはとん、と軽く地面を蹴るだけで、自分の身長以上に飛び上がった。

 ジュリアの棒は宙を殴り、しゃがんだアーニィの頭をかすめる。

 そいつはくrくると宙を優雅に回りながら、すとんと上手に着地をする。今度はジュリアの背後に立っていた。

 そして、次の標的はジュリアだった。再び剣を振り上げ、攻撃体勢に入る。

「見つけたぞ!!」

 が、さらにその背後でトヨがエンシェントを振りかぶり、そいつへと一閃を食らわせにかかる。

 それにぎょっとしたのは、ジュリアだった。エンシェントの長いブレードは、明らかにジュリアまでもを攻撃範囲内に収めていたからだ。

 ジュリアは慌てて、頭から飛び込むように横へと回避する。間一髪、エンシェントは倒れ込んだジュリアのつま先の僅か数ミリという地面に刃を埋める。

 ジュリアにも、標的にまでも攻撃は避けられていた。少女は素早い蛙のような動きで飛び跳ねて、トヨの攻撃をいともたやすく空振りさせてしまっていたのだった。

 しかし、今度のトヨはそれでは終わらない。すぐに同じような素早さで、標的へと距離を詰めていた。

「もう目を離してはやらんぞ!」

 再度、トヨは横なぎに剣を振るう。その一撃も、難なく避けられてしまったが、それでもトヨは標的を確実に目でとらえ、隠れる隙も与えないように、さらなる追撃にかかる。

 その様子は、アーニィから見れば、虫がぴょんぴょんと飛び跳ねて追いかけっこでもしているような、目で追えないほどの俊敏なものだった。

「ったく、アイツはどうして見境が無いのかしら」

 苛立ちをぐちぐちと漏らしながら、ジュリアが立ち上がる。次に、しゃがんだまま驚いて尻もちをついていたアーニィへと目を向けた。

「どう? 立ち上がれるかしら」

 アーニィは大丈夫、と力なく苦笑いを浮かべて立ち上がる。しかし、その目が困惑に揺れているのをジュリアは見逃さなかった。

「なぁ、お前は驚かなかったのか?」

 反対にジュリアは何の反応も見せてはいない。アーニィは自身が驚愕をした理由を、あらかじめ彼女は知っていたのではないか、と疑問に思った。

 彼の質問に対してジュリアは、黙りこくる。それは、予想通りの肯定だと、アーニィは受け取った。

「あいつ……あの動物殺し、女だった」

 アーニィは、月明かりの下で、自分たちが退治する相手の姿をじっと見ることができた。その姿は、彼が驚愕し、言葉を失うのに十分な理由となった。

「人間は男か女しかいねいんだから、そのどっちかになるのは当然でしょ?」

 明らかにはぐらかす様な口振りだった。もしかしたら、始めから女だということを知っていたのかもしれない、とアーニィは思う。

「一瞬、何もかもが止まったかと思ったよ。信じられなかったんだ。あのズクゥを一撃で倒したのが女、しかも、トヨとそう背丈も変わらない女の子だったなんてさ!」

 アーニィが見た少女の姿をまざまざと思い浮かべる。思い出すだけでも胸が痛む、凄惨な姿は、異常だとしか言い得なかった。

「随分と痩せこけていた。髪だってぼさぼさだった。まだ小さな女の子なのに、なんで、こんなところで、あんなことを……」

 返答を求めるように、アーニィはジュリアを見る。ジュリアは何かを知っている、そう確信していたからこそ、彼女が気付いていることを教えてもらいたかった。

 これまで、気にも留めていなかったなぜ、という気持ちがどんどん湧いてくるのを彼は実感していた。

 しかし、ジュリアは肩をすくめ、

「さぁね。それを知るためにも、急いで追いかけるわよ」

 と言って、さっさと歩き出してしまった。

 彼女の口からは真相を教えてはもらえないのだろう。アーニィも、彼女に続いてトヨの進んだ方へと走り出した。



 二人は暗闇の中でも、トヨと動物殺しの少女がいる方を突き止めていた。

 一撃、二撃と剣戟の鋭い音がその方を示していたのだ。

 一撃一撃、トヨの攻撃は確実に少女を両断させられるような、強力なものだった。

 それだけではない。一度攻撃をすると、少女はそれに合わせて避けようと、体を後退させようとしたり、ジャンプしようとしたりもする。トヨはそれをあらかじめ予測し、逃さないようにしていた。

 そのため、少女は手に舌アーニィの鈍剣でトヨの攻撃を受けながらでは、少女も逃げ切ることができなかった。

 少女から目を離してしまえば、次は自分が攻撃される番になる。戦いながらも、少女の素早さを身に染みて痛感しているトヨにとって、それはなんとしても避けたいことだった。

 少女は身を隠してからの奇襲をこれまでに行っていた。それを防ぐための猛攻だった。

 トヨは少女のスピードに付いて行きながら、猛攻を続ける。少女もトヨが素早く付いてくるために、防戦一方となってしまっていた。

 それでも、完全に攻撃を受け切れているわけではなかった。大剣エンシェントに切りつけられれば、その長さから生じる重さや勢いが付加される。

 その一撃の破壊力を少女の細い体では受け止めることなど到底不可能な事だった。受け流すか、わざと空中で受けて、トヨのパワーを利用して飛ばされることで、なんとか対処を試みているにすぎなかった。

 逃げる少女。それを追いかけるトヨ。戦いの流れは完全にトヨの方へと向いている。

 注意深く見つめているジュリアとアーニィにも、それは火を見るよりも明らかな状況になっていた。

「なぁ、ジュリア」

 目で追いながら、アーニィがジュリアに尋ねようとする。

「言いたいことは分かるわ。アタシにも見えているから」

 そう、今や二人の目にも、少女の動きが分かるようになっていた。それは、暗がりに目が慣れたとか、月明かりが少女の姿を照らせるように、身を隠す暇を与えられていないとか理由だけではない。

 彼女を目でとらえられない最もの理由は、その速さにあった。目が追いつけない程のスピードがあったはずなのに、それが今では鈍くなっている。

 少女が目の前で立ち止まっていた一瞬だけでしか見えなかったことも目に留まる。まるで体を隠すためだけのような真っ白で質素な服、それが草や土に汚れてしまって、みすぼらしいと思えるほどに体が細いこと。

「トヨの奴、殺しちまう気じゃないだろうな」

 ふと、アーニィはそんなことを呟いてしまった。弱々しく、そして痛々しいその姿に心配を寄せていた。

「さぁね。でも、それだって時間の問題よ」

 ジュリアが至って冷静にそう言った次の瞬間にも、トヨの攻撃が少女を襲った。攻撃を受けて弾き飛ばされ、地面を転がった少女が立ち上がる。

 肩で息をしており、見るからに体力がそがれている。それが少女の素早さが失われている原因だろう。次の攻撃を受けて、手にした剣で防ぎきれそうにない。

見てはいられず、アーニィは目を背け、ジュリアを見る。

「なぁ、ジュ……」

「さっきからなぁなぁうっさいわよ! 言わなくてもいいわ。アタシだってあの子には興味あるわ。ここであのチビにみすみす殺させたりなんてさせないんだから」

 アーニィは、ジュリアの目に決意の色が灯るのを見た。

 彼は頷く。ここはジュリアに任せよう。アーニィがそう思ったときには、ジュリアは走り出していた。

 相手は見るからに疲れている。目の前の痩せ細った少女に、トヨは特別な感情などを抱くことは無い。

 息が荒れ、動きも精細を欠き始めている。これまで間を置かずに動き回っていたが、今は息を整えようとしているのか、じっとトヨの出方を、伸びっぱなしの前髪の隙間から伺っている。

 狩るのなら、次がチャンスだ。あくまで狩る対象としか見ていない彼女に、憐憫の情も何一つとして湧くことはないのだ。

 トヨが動く。冷徹な一撃を、少女へ向けてエンシェントを横なぎに切りつける。

 少女は防がず、それを跳んで避ける。

「跳べば、逃げることもできんだろ!」

 だが、それはトヨが誘導した行動だった。次の攻撃は、あの細い腕では受け切れないだろう。空中でなら、避けることはできない。次の一撃こそがトドメとなる。

 トヨはエンシェントを持ち替えて、刃の向きを持ち変える。

 まだ少女は地面に足を付けてはいない。着地の瞬間に身構えることもあるだろうが、低い位置に狙いを付けて、横に振り切れば捉えることができる。

「もらった!」

 着地をする瞬間、トヨは攻撃を……することができなかった。

「じゃまよ」

 ドン、とトヨの背中をジュリアが蹴りつける。トヨはバランスを崩して前のめりに倒れそうになった。

「な、なにをす……」

 トヨがそう言いながら振り向いた時には、ジュリアは既にいなかった。まさか、とすぐに前方へと視線を向ける。

 掛け声を上げながら、ジュリアは少女へと棒を突きつけていた。

 少女は着地をしていた。ゆえにその攻撃を難なく避けることができた。

 アイツに追いつけるわけがない、とトヨはすぐに加勢をしようとする。しかし、体力も底を尽きようとしている少女、ジュリアの攻撃を避けるも、反撃はしなかった。

 その余裕ももうないのだ。トヨはそれに気が付いた。なおのこと、トドメを刺すにはこの上ないチャンスだ。

 トヨがエンシェントを短く持ち、ジュリアの方へと走ろうとする。

「来ないで!」

 しかし、ものすごい毛㎜なくでジュリアはトヨへと叫んだ。

「そいつは私が……」

「アタシに任せなさい! アンタは引っ込んでいて!」

 そんなこと、誰が聞き入れてやるものか。とトヨはジュリアの制止も振り切らんばかりに、その目に激しい闘志を燃やしていた。

「まぁ、ここはジュリアの言うことを聞いてくれよ」

 ぽん、とトヨの肩にアーニィの手が乗せられる。涼しいのに汗をかいており、息も上がっている。急いで走って来たのだろう。

「お前まで……」

 トドメを刺せると思ったのに、やっとそのチャンスが来たのに邪魔をされ、トヨは少女らしい細い眉を寄せて、不機嫌を目いっぱい顔に浮かべる。しかし、

「アーニィがそう言うのなら」

 と、彼女は食い下がって剣を下した。アーニィは言うことを聞いてくれて、ほっと胸をなでおろし、ジュリアの方へと視線を変じる。

 ジュリアがかつては槍だった棒を構え、肩で息をする少女へ一直線に駆ける。

 少女はまだ体力を回復しきってはいないだろう。しかし、油断は禁物。ジュリアはそう自分に言い聞かせ、一気に攻勢へと転じる。

 その瞬間を、トヨとアーニィが見守る。ジュリアが棒を引く。勢いを付けて突くつもりだろう、とアーニィは思い至った。だが、その予想が外れる。

 ジュリアが急に姿を消したのだ。

「ど、どこに行った?」

 アーニィはきょろきょろとあたりを見渡す。だが、背の高い草がただただ夜風に揺らされているだけだ。その中で、少女もジュリアを探してか、空を見上げていた。

 トヨも同じく空を見上げている。まさか、上にジャンプをして、消えたように見せかけているのではないか。少女も同じようにそうしたように。

 アーニィもそう思い、空を見上げる。

 しかし、そこには夜空が広がって、光の穴がぽっかりと空いているように輝く月が受かるばかり。ジュリアらしい人影など、遮るもののない夜空には見当たらない。

「上、見ると思ったわよ。アンタの得意な奇襲だからね」

 突如として、ジュリアの声が響く。三人は、特に動物殺しの少女は素早く、視線を落とした。

 ジュリアに言われたとおりだった。少女は自分のこれまで行ってきた攻撃パターンから、姿が見えなくなれば、上からの奇襲をかけるものだと、思ってしまっていた。

 だから、足元を見落としていた。倒れ伏し、背の高い草の中にジュリアは隠れていたのだ。

 避けなくては。そう少女が思ったときには遅かった。

 ジュリアが足払いをかける。少女は避けることができず、背中から地面に倒れる。ジュリアが起き上ると、棒を構え直す。

 その棒で狙いを付けるのは、少女の首元。そこへ射出するように棒を突きだす。少女もそれを避けようと体をずらす。

 ただ、避け切ることはできなかった。棒は少女の右腕の関節のくぼみに命中する。

「ぐあっ!!」

少女はその勢いに押され、背中を強く打ちつけて倒れる。

「狙いがずれたわ……。まぁいいわ。ここから逃しはしないわよ」

 そのまま、ジュリアは棒で押さえつける。力を込めたためにミシミシと少女の腕の骨が、痛そうな悲鳴を上げ始める。

「……! ……!!」

 少女は痛みにもひるまず、今すぐにでも抜け出そうと、左手に握ったアーニィの鈍剣で、棒をどかそうと攻撃をする。

「ムダよ。弱った今のアンタの力じゃ動かすことはできないわよ」

 ジュリアは棒をピクリとも動かさない。少女がじたばた暴れても、動くことが無いようにより強く押さえつける、

「背が小さくて良かったわ。こんな棒で押さえつけて離れるだけで、アタシは安全なんだもの」

 そう言うと、少女はぎろりとジュリアをにらみ、左腕のひじを曲げて少し浮かした顔の横に、切っ先が地面の横を向くように構える。

「止めときなさい。剣を投げてもアタシは避けるわ。唯一の武器を失ったら、あなたは何も抵抗できなくなるし、おすすめしないわ」

 何をしようといているのか、ジュリアはすぐに察し、忠告する。それに反応するように、少女は薄い唇の隙間から、幼さの残る小さな汚れた歯をのぞかせる。そこに、一筋の血がにじむのをジュリアはその目に捉えた。

 力強く歯を食いしばっているのね。アタシを憎んでもお門違いだってのに……。

 それにしても、と思いながら、ジュリアは少女の容貌をじっと観察していた。肌が赤っぽい色をしている。こんな状態になるのは一通りの場合しか考えられない。やっぱり……。

「おーい!」

 ジュリアが思案している最中に、アーニィとトヨが彼女の元へと駆け寄ってきた。

「やったな、ジュリア」

「任されたんだもの。そりゃあ結果は出すわよ」

「では、トドメを……」

 トヨがそう言って、自身の剣を背中から手に持ち変えた時、

「待って」

 とジュリアがそれを止めた。

「一つ、聞くことがあるの。だから、トドメは刺させないわよ」

 またも遮られ、トヨは不服そうにまた眉間にしわを寄せた。

 アーニィもまた、この少女について、気になっていた。一体何者なのか、それを聞くつもりなのだろうと直感する。

 アーニィは何も言わず、ジュリアからの言葉が出るのを待った。

 そして、ジュリアは一ついきを入れると、重々しげに言葉を発した。

ども、作者です。この章も気が付けばもう5部に到達。早く続きを書かないと、更新に間に合わなくなりそうです。。。それなのに・・・・・・くっ。

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