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カタナガリ  作者: リソタソ
オニキリマル
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真夜中の会話

 サバンナに夜が訪れた。昼と比べて気温は随分と低く、外に出た三人は昼間とは真反対の肌寒さを感じ取っていた。

 アーニィに至っては、ぶつぶつと鳥肌なんかも立てているほどだ。しかし、

「なぁ、ここ不気味じゃねぇか?」

 その鳥肌は、寒さだけが理由ではないらしい。

「そんなことはないぞ。フツーだ、フツー」

「フツーなんてことあるもんか! トヨ、周りをちゃ~~~んと良く見てみろよ!」

 アーニィがトヨの頭を両手で挟み、ぐるぐると回りを見渡すように促す。

「ほら、よ~~く見てみろ、ここら一体に点々と刺さってるアレ、なんだか分かるか?」

「十字架だ」

「そう! つまりは墓だ! ここいら一帯は墓だらけじゃないか!」

 暗闇の中に、十字架は一定間隔ずつ離れていくつも立っている。それも、十、二十とたくさんだ。

「ここは墓地ってことだろ? やなんだよ~、こういうの苦手なんだよ」

 アーニィはぶるぶると情けなく震えている。彼はおばけとかオカルトとか、そう言った類のものが、どうも苦手なのだった。

「ハルトさんもなんでこんなところで見張れって言うんだよ~~」

「見通しが良いからだろ。ホレ、そこからならあたりを一望できる」

 トヨが指さすのはm、とある木のふもとの辺り。そこはだだっぴろいサバンナの中でぽっこりと丘のように盛り上がっており、そこからならば平地も、脇に見えるハンターたちの集落も良く見えている。

「でもよぉ。こんなに暗かったら、糸だろうが動物だろうが全然なんにも見えねぇよ」

 木のふもとに移動をして、アーニィが目を凝らすも、サバンナは黒一色に塗り固められていて、背の高い草が時折風になびくのが、月光に反射して波のように見えるくらいしか、判別できなかった。

「大丈夫。私は夜目が利く。そこに矢ぐうが寝ているのも、それを狙う大きな猫がいるのも良く見えている」

 無論、アーニィはそう言われても全く見えないせいで、確かめることなんかはできない。けれど、トヨがそう言うのだから、きっとそうなのだろう。

「そうかい。じゃあ、見張りは頼むよ。俺は戦力外だ」

「ああ、任せろ」

 どうも、トヨはかなりやる気が満ち溢れているらしい。真剣な顔で広がる暗闇の草原を熱心に眺めている。

 その動機は食いものなのだが。彼女にとって重大なことには違いない。

 他にも自分たちが無事に北へ行けるかもかかっている。アーニィにとっては、そればかりではなく、あの誇り高きハンター、ハルトの矢に少しでも立ちたいと思っているのだ。

「ま、今は何もできないけどな」

 その動物を殺して回る不届き者に出会ってからが、自分が活躍できる場面だろう。

 そう思いながら、ざっざっ、と丘から、そして墓が並ぶ墓地から離れていく。その先には、低い木の藪があった。その陰で待機をしていようと足を向けていたのだが、どうやら先客がいたようだった。

 ジュリアがごろん、と草の上に寝転がっていた。

「……あによ?」

 暗くて良くは見えないが、刺々しい物言いから不機嫌さがまだ健在であることは明らかだった。

「まだ機嫌悪いのかよ。昼間からずっとだな」

「ほっといて。嫌な感じするだけよ」

「……もしかして、霊感でもあるのか? そりゃあ、こんな墓地じゃ嫌な感じがするのも仕方がないよな」

 うんうん、とアーニィが勝手に納得しているが、ジュリアはそんなことは微塵も気にしてはいなかった。

「違う」

 ジュリアが半身を起こすと、がさ、と草が擦れる。

「アンタ、変だと思わないの? あのハルトって男のこと」

「変? どうしてそんなこと思わなくちゃいけないんだ。むしろ、あの誇りを大事にする姿勢は、男として尊敬したいくらいだな」

「バカね。そんな価値のないモンに騙されるんじゃないわよ」

 月明かりが急に空から降りてきた。どうやら、さっきまでは月を雲が覆っていたらしい。歪な形の雲の影の切れ間から、薄青い光がジュリアの表情を明らかにする。

 有無を言わさぬ厳しい顔つきだった。そんな顔で見つめられたアーニィは、バカと言われたことへの反論を呑みこんでしまった。

「例えばね、ここだって変よ」

「そうか? 丘の上に墓があるのなんて、特に珍しいとは思わないけどなぁ。あ、でもここに来いって言われたのは確かに変だ。怖すぎる」

「バカ。気にすんのはそこじゃないわよ」

「じゃあ、どこを?」

「墓の数、多すぎるとは思わない?」

 墓の数は、大体十数から二十の間くらいだ。アーニィは、言われてみれば、多い気もしないでもないが、そうでもないような気もしていた。

「このお墓、一体どんな人のものかしらねぇ」

 ジュリアは、アーニィがそれを知っている、あるいは予想がついている物だと言うような態度で聞いた。

「そりゃあ、ハンターとか、その家族とかじゃないか? 家も大きいし、家族とかも結構多かったんじゃないか? それに先祖代々の墓なら、これくらいは普通じゃないか」

「先祖代々なら、少なすぎると思うわ。それに先祖の墓なら普通はもっと立派なお墓ね。見てご覧なさいよ。ここにあるのは全部木製のチープな十字架。墓にしても簡素過ぎるわ」

 墓を良くは見ていなかったから、アーニィはそんなことに気が付いてなどいなかった。だが、恐る恐る近くの墓を見てみると、確かに適当な蔓で二つの折れた太めの枝を重ねただけの、簡素なものだった。ジュリアの言う通りだ。

「それに、もう一つ変なことがあるの。肉のこと」

「肉って、俺達が食ったあれか?」

 硬いけれど、旨味のした燻製肉をアーニィは思い出す。だが、おかしなところなんてあっただろうか。別に腐っていたわけでもなく、中で虫が発生していたなんてこともない。ただの肉以外の何物でもなかったはずだ。

 味に至っては、古い、と言われるまではもちろんのこと、言われた後でもそれを信じきれない程に美味かった。

「燻製肉って、どれくらい持つのかしらね」

 考え込むアーニィへ、ジュリアは勿体ぶるみたいに言う。それに対して、アーニィはさぁ、と答える。そんなこと、キッチンに立ったこともない彼には皆目見当のつかないことだった。

「少なくとも、四年以上持つはずはないわよね」

「四年って、ハルトさんが足を負傷してからってことか?」

 聞き覚えのある年数を口にしたジュリアへ、アーニィはその年数に思い当たった事柄を聞いてみると、彼女は頷いた。

「足を負傷してから、ズクゥみたいなのは狩り難くなったって言ってたでしょ。それなのによ。何日か、何か月か前の肉があったのよ」

「おいおい、狩りにくくなったからって、絶対に狩れなくなったっていう訳じゃないだろ。そんなにおかしいことじゃないさ」

「そうかしら? そもそも、あんな交渉を持ちかけるような奴よ? 怪しいって思わない方がおかしいわよ」

 反論をすれば、すぐに別のことが返ってくる。アーニィはなんだかそのことに辟易としてきていた。

「お前の方がおかっしっての。いちいち揚げ足取りみたいないちゃもんつけて、それで怪しんだって俺達が例の動物殺しを退治しなくちゃいけないのは変わらないだろ?」

 そうしなければ、北の町に着いた時にだって、兵たちに逮捕されるかもしれない。いや、道中に必要な水も食料も満足に無いのだから、無事たどり着けるかどうかも怪しいのだ。

 アーニィの言う通り、怪しんだところで自分たちがすることは何も変わらない。ハルトのことを聞いても、アーニィがハルトのことを怪しむようなことはない。ジュリアはそう合点して、それ以上の言及は諦めることにした。

「じゃあ、なんで動物殺しは動物を殺すのかしらね?」

 けれど、彼女にはまだ気にかかることがあった。

 話頭を変え、アーニィにもそれを気に留めてもらおうとする。自分の考えている、自分の感じている予感が何やら不吉なものだったから。

「そんなの分かりっこないって。それに、目的なんてないんじゃないか? あってもどうせ八つ当たり化なんかさ。世の中にはそれで人殺しを平然とやるような奴だっているくらいさ。動物が標的になることだってある」

 しかし、アーニィはそんなことをそっけなく言う。もうお手上げね、とジュリアはため息を吐いた。


 それからは、夜の風が草原を撫でる音と、時折動物のあげる穏やかな泣き声だけが、アーニィの耳に届いていた。

 トヨが眺めている夜のサバンナも、何の変りも無い。本当に動物殺しが現れるのか、アーニィはそんあことを疑いながら、ぽつぽつと夜空に散りばめられた星々を眺めていた。

 地面に坐るアーニィの隣で、ジュリアは横になっていた。もしや寝ているのでは、とアーニィは声をかける。

「なぁ、ジュリア」

「……あによ」

 ジュリアは相変わらず不機嫌そうな返事を寄越す。

 さて、アーニィは特にこれと言った用もなかったのだが、このまま会話も無いのは少しさみしい。というよりも、退屈だったし、黙っていると何かが化けて出て来そうで怖かった。

「ジュリアって、なんで山賊なんてやってたんだ?」

 だから、ふと思いついた適当なことを彼女に聞いてみた。

 なんでそんなこと聞くのよ、とジュリアは少し面倒くさく思った。だが、彼女も退屈だったから、かったるそうではあるが、口を利いた。

「捨て子だったのよ、アタシ」

 ジュリアはアーニィに目を合わせようともせず、寝たまま空を見上げながら、アタシが捨てられたのもこんな穏やかで静かな夜だったのかしら、と記憶にもない遠い昔のことに思いを馳せる。

 言う義理なんてないけれど、彼女は話を続けた。



 ――アタシはね、アンタらと出会った山のふもとに捨てられてたんだってさ。

 ほら、あの山のふもとっていくつかの木こりの村があるでしょ? そのどっかの誰かがアタシを捨てたんだろうって、父さんが言ってたわ。

 あ、父さんってのは、アタシを拾った山賊の頭領だった人。頭領って言っても当時はいくつかの山賊グループがあってね、父さんはその中でも小さいとこのボスだったのよ。

 なんで拾ったかなんて知らないわ。家族が欲しかったかもしれないし、若い女が珍しかったから、そのうち手ぇ出すつもりだったのかもしれないわ。どっちにしても、もうわかんない事ね。ずっと前に死んじゃったもん。

 外じゃ散々あくどい事やってたけど、アタシにだけは優しくしてくれてたわ。顔が怖いくせにいないいないばあ、とかごっつい手で髪が抜ける位い撫でまわされたりとか。明らかに似合わないって、子供心に思ってた。それに、あからさまに甘やかされてたってこともね。

 極めつけはお前は早く王都にでも行って、金持ちの愛人にでもなって幸せに暮らせ、だなんて言う始末よ。

 もっちろんクソ喰らえっ! って言ったわ。アタシ、やんちゃだったから。父さんは知らなかったろうけど、隠れて父さんの仕事場を見に行ったこともあるわ。

 草木をかき分け、蛇や蜘蛛を追い払いながらの大冒険。楽しかったけど、父さんにばれないようにするのが一番大変だったなぁ。どうせ叱りはしなかったろうけどさ。それだけ父さんに愛されていたんでしょうね。

 あ、話が逸れたわね。で、父さんが死んじゃって、父さんの手下たちはこれがもうアホ丸出しで一体感のかけらもなかったのよ。

 そん時はいくつだったかな。十と、五、六ってとこかしら。ついに見かねちゃってさ。ボスを名乗り出たの。

 その後はこのジュリア様の怒涛の快進撃よ。少ない食い扶持を争わないように他の山賊どもを才能あふれる槍捌きで制圧して、手下にして一つにまとめ上げたわ。そこからアタシは山賊女王よ。もう好き放題盗んで奪って呑んで騒いで。アンタらに出会うまでは絶好調だったわ。

 あ、また話が逸れたわね。なんで山賊になったのかって言えば、その生き方がアタシに最も身近で、やんちゃなアタシにぴったりだったからかな。いうなればなるべくしてなったのよ――


 ジュリアは、これでいいかしらと話を占めた。

「随分と楽しかったんだな」

 アーニィが利く限り、ジュリアは不機嫌さが取っ払われたような口調で話していた。よっぽどいい思いをしてきたのだろう。

「それは皮肉かしら? 言っとくけどあたしだって殺しは必要最低限にしといたわ。どーしても強情な馬鹿にだけ。後は話し合いよ。あたしたちが武器で迫りながらの話し合い」

「恐喝じゃねぇか。俺は別に、嫌味でいそう言ったんじゃねぇよ。ジュリアが楽しそうに話してたから、見たまんまを言っただけだ」

 そう、と返事をするとジュリアは昔の懐かしい景色から、星空の見えるサバンナの夜へと帰ってきた。

「ホント、アンタが来るまでは楽しかったわ」

 お返しとばかりに、ジュリアは厭味ったらしく言った。

「お前が食って掛かって来たんだろ」

「最初はアタシじゃないわ。あたしの部下よ。どーしよーもない、見境のないバカたちの責よ」

 ジュリアははぁ、とため息を吐いた。

「アイツら、大丈夫かしら」

「親分らしく部下の心配か?」

「ええ、どうせ元気にやってるんだろうけどさ、バカすぎて仲間割れとか、女に飢えて変な事とかしてなきゃいいけど」

 変な事? それはもしや……とアーニィの頭の中に、あらぬ想像が次々と膨らんでくる。これはなんとゆゆしい事か。

「今まではアタシが管理してやってたんだけどさ、今はどうだか」

 管理!? それはもしや、もしかして、もしかするとうわさに聞く……。

「テキトーな時期に金を握らせて北の街へ行かせてたのよ」

 ジュリアの一言に、アーニィの妄想が一気にしぼんで行った。なぁんだ、と安心半分、残念半分で肩を落とす。

「やーね、男って。考えることはみんな同じ。サルばっか」

「……悪かったな、サルで」

 浅はかな想像を見抜かれてしまっていたようで、アーニィはぶすっとしながら言った。

 と、その時だった。

「来たぞ」

 これまでずっと黙っていたトヨが、二人へ向けてそう告げた。


ども、作者です。今回ちょっと長めです。

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