交渉
ハルトにトヨ達に何やら後ろめたい事情があるということをすっかり見抜かれてしまっていた。そんな三人へ、ハルトは頼みがあると告げた。
「頼みって……」
アーニィが利くと、ハルトは皺の張った口元を動かし、その内容を簡単なことだと言わんばかりに告げる。
「退治してほしい奴がいるんだ」
それを聞いて、ぴくり、とジュリアが眉を動かし、続いて怪訝そうに尋ねた。
「それって、動物かしら。それとも……」
「人だ」
口振りから察していたのか、その答えを聞いてやっぱり、とジュリアは零す。
「最近、この辺りに動物達を夜な夜な殺す不届きな奴がいるんだが、どうもすばしっこくてな。四年前から慣れていると言っても、この片足じゃあまともに戦えんでな。追い返すのも苦しく、頭を悩ませているんだ」
「そいつって、どんな奴なんですか?」
「さぁ、出てくるのが夜中なもんで、姿かたちは良く分からん。だが、武器らしいもんは何も持っていないらしく、石で頭蓋骨と脳を砕いたり、目ん玉に枝をぶっさしたり、あるもんで殺してるってことは分かってる。しかも、ズクゥみたいなデカい奴もな」
それを聞いただけでも、アーニィは背筋がぞっとしてしまう。武器も使わずに動物を殺せるだなんて、化け物みたいな様相をしているぐらいしか想像できなかった。そんな奴を対峙することなんて、果たしてできるのか。
「代わりに動物を殺してくれるのなら、それを食べればいいんじゃないか?」
トヨはまた、的外れなことを言う。
「お嬢ちゃん、それは無理だ。なんせ朝気付いた時には虫がたかってやがるし、俺もこんなナリだから得物をわざわざ持ち帰るのもそもそも無理なんだ」
それに、とハルトは一間置いて、顔を上げ、何やら遠くを見るような眼をしながら続ける。
「俺はそんな風に食うでもなく動物を殺す奴が許せないんだ。必要以上に食わないってことは、必要以上に殺さないってこと。それこそが自然と隣り合わせに生きている、ハンターとしての誇りって奴なのさ。何台も前から続く、俺と俺の祖先の誇りさ」
誇り。その言葉の響きが、ずん、とアーニィの旨に重りのようにのしかかった。
誇り。それはおt子が何よりも、命よりも大切にしなければならないことだ。アーニィもそれをよぉく知っていた。弱みを握られているとか、そんなことも無しに手伝いたい。アーニィは彼の誇りに動かされていた。
「……ヤぁね。そんな馬鹿馬鹿しいモンのために、自分の命を危険に晒せだなんて言われて、ハイ分かりました、なんて言いたくないわ」
けれど、ジュリアは違った。心底嫌そうに彼女はそっぽを向いてしまう。
「おい、ジュリア……」
「でも、捕まっちゃ堪んないわ。呑むかどうかは、そのチビッコに任せるわ」
納得はしていない。だが、そうするよりほかに手立てがないということも、また事実として彼女は良く理解していた。
ジュリアからも決断を任されたトヨに視線が注がれる。とにもかくにも、彼女の決断が、三人のこれからを決めると言って間違いのない事だ。
「もっと肉と水をくれ。そしたらやってやる」
トヨはどこまでもマイペースだった。これにはさすがのハルトまでもあきれ返っていた。
「おいおい、こっちが有利な交渉をしていたと思ってたんだがな。まさか、そっちから要求を突き付けられるなんてなぁ。……まぁ、いいだろう。北へ向かうなら、必要なはずだしな。無事退治できた時のために用意しといてやる」
こうして、三人の予定が決められた。
「夜になったら、奴が良く出るポイントで見張りをしてもらう。出て来たら叩いてくれ。それから、夜まではまだまだ時間があるからな。上に何部屋か空き部屋があるから、そこを使って寝ていてくれ」
「うむ。いいだろう」
「はい!」
トヨは尊大に、アーニィは勢いよく返事をすると、席を離れる。ジュリアはまだぶすっとしていたが、決まったことには従うようで、彼女も腰を浮かした。
「腹が減っているが、寝られるかな」
「何子供みたいなこと言ってんだよ。夜通しの見張りになるかもしれないから、ちゃんと寝とけよ」
トヨとアーニィはそんなことを言い合いながら、部屋を出ていく。かなりリラックスしているようだ。ただ一人、糸でもぴんと張っているような緊張感を持って、ジュリアは部屋を去る前に、振り返ってハルトへ向けて、聞いておきたいことを一つ尋ねた。
「退治って、殺しちゃってもいいのかしら?」
「ああ」
一言だけの、冷酷な返事だった。
「そう。分かったわ」
ジュリアも淡泊にそう返すと、さっさと二人を追いかけて上の部屋へと向かって行った。
ども、作者です。今回短いです。
そして、更新を忘れていました(笑)折角完成させたのに。。。
ということで、暫くは更新ができます。




